遠隔合同授業で児童同士の学びと交流を広げる──「徳之島型モデル」の概要と成果(月刊J-LIS2020年8月号より)

トピック教育課題

2020.08.25

特集ウィズコロナとSDGs 事例紹介徳之島町(鹿児島県)
遠隔合同授業で児童同士の学びと交流を広げる──「徳之島型モデル」の概要と成果 徳之島町教育委員会教育長 福 宏人
月刊J-LIS2020年8月号より

※この記事は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2020年8月号に掲載された記事を使用しております。なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと掲載しております。

1 取り組みの背景

 鹿児島県は、南北600kmの広域にわたる地理的な環境の中で教育を行っています。複式学級を有する割合が全国1位の本県、離島へき地にある本町でも複式学級を有する学校は小学校で63%(県44%)、中学校で50%(県13%)あり、半数以上が小規模・複式学級です。
 本町でも少子化や過疎化が進行する人口減少社会を迎える中、現行の学校規模(小学校6校・中学校4校・小中併設校2校)を維持することが困難な学校が増加することが見込まれ、小・中学校再編協議会(平成24年)で地域の実情に応じた少子化に対応した活力ある学校教育のあり方が協議されました。その中で、小規模校のメリット・デメリットへの対応を含め、地域コミュニティの核としての性格への配慮等、学校が持つ多様な機能にも適切に対応する必要から取り組みを始めました。

2 遠隔合同授業「徳之島型モデル」とは

 複式学習指導においては、一般的に主体的に学ぶメリットがある反面、多様な考えに触れる機会が少なくなりがちで教育の直接指導も短いという課題もあります。また、複式指導経験のある教員が少なく、少人数の教員間では、複式指導の指導法研究も深まりにくいという課題もあります。これら複式指導における課題を遠隔合同授業の導入によって改善できるのではないかと考え、平成27年度から3年間、本町の3校において文部科学省(以下「文科省」という)の実証研究事業を推進しました。その後、本町の小規模校5校に拡大し実践した遠隔合同授業を「徳之島型モデル」と呼びます(図-1)。
 遠隔地の2つの複式・小規模校で双方向に授業を実施し、1つの教室の中に2つの遠隔合同授業を構成し、両校の担任がそれぞれ1学年ずつを主として担当します。
 距離を超えて同学年同士を「まるで1つの学級空間」として、全国的にも初めての取り組みでもある複式双方向型の遠隔合同授業を実施するとともに、以下の仮説と視点を設定しました。

●「徳之島型モデル」の仮説及び視点●
仮説1 遠隔合同授業に適した単元や場面を設定することで学びの質が向上し、児童や教師の意識、学習効果に変化が見られるのではないか。
視点1 ①遠隔合同授業に適した単元の精選とねらいの明確化、②定期的な3校合同研修会の実施と指導計画の作成(その後拡大)
仮説2 教師と児童が直接対面する機会が増加し、児童の主体的な活動を促す支援が可能となるのではないか。
視点2 ①複式指導における遠隔合同授業の活用(複式双方向型)、②児童の学習状況の把握
仮説3 2つの遠隔合同授業に伴う打ち合わせや機器の準備に時間を要する課題を解決すれば、日常化に向けた授業環境が整うのではないか。
視点3 日常化に向けた工夫や対策検討

 現在まで5年間の多様な実践をもとに、検証した主な内容とその効果を以下に示します。

3 実践内容

※文科省指定実証研究事業:平成27年度~29年度・大島地区研究指定:平成30年度~

(1) 視点1 単元の精選と指導計画の作成
・ 遠隔合同授業のねらいを実現できる単元を精選し指導計画に位置付けました。また、その指導計画作成において、最も効果的に実施できる授業を遠隔合同授業として実施しました。
・ 単元の精選と指導計画作成のために3校合同研修会を実施し、3校による研究組織(3校合同研修会・推進委員会)を確立し、前年度から計画立案し、情報共有しながら研究を進めました。

(2) 視点2 複式指導における授業改善
・ 2つの学校同士で、1つの教室の中に2つの遠隔授業を実施し、両学校の担任がそれぞれ1学年を主として担当します。これまで培ってきた複式指導の技術にICT 機器の活用を重ねることで、遠隔合同授業活用のメリットを生かした学習活動が展開できました。
・ 複式指導における授業改善のために汎用性のある複式指導モデルを策定し、基本的な学習過程を各学校で共通理解・共通実践しました。
・ 授業の導入は、テレビ会議システムを活用して同時に行いますが、展開における問題解決学習においては、担任が両学年にわたり両学年の学習状況を把握します。まとめの段階では、両学年の協働学習をずらし、それぞれの学校の担任が交流の学年について児童の交流を支援します。協働学習を行わない一方の学年は、学習リーダーを中心として、学習のまとめや練習問題を行います。
・ 児童の学習状況を把握するために次のことを行います。
 ① 電子黒板の画面共有機能を用いて、資料をリアルタイムで共有し、学習意欲、目的意識を向上させます。
 ② サーバー型学習ソフトのアカウントを3校で統合し、それぞれの学校の児童の学習状況を相互把握します。
 ③ 授業支援ソフトの画面共有機能を用いて、両校の児童の考え(デジタルノート、ノートを撮影)を一覧表示します。

(3) 視点3 日常化に向けた工夫や対策検討
・ 異なる3校の校時表を統一し、遠隔合同授業を実施しやすくしました。また、ドリルや資料集等の教材も揃えて導入しました。
・ 遠隔合同授業だけではなく、修学旅行や遠足等の行事を4校合同で実施するなど直接交流活動を定期的に実施しました。その結果、児童同士、教師と児童の関係性が深まり、遠隔合同授業における交流も活発化しています。
・ 遠隔合同授業の展開、発問や板書等の打ち合わせを簡略化するため、指導案形式を「実施のねらい」と「授業の流れ」の2つに絞り、打ち合わせも必要事項のみに止めて授業しながら調整するようにしました。
・ 学習規律を整える機会と捉え、「教師の指導面」と「児童の活動面」について統一できる
ものは統一して実施しています。
・ 複式指導における遠隔合同授業では、音声面が特に課題となることが多いため、声が相手にしっかり伝わるように配慮しています。

4 教育の質の維持向上につながる「徳之島型モデル」の効果とは

 文科省の実証研究事業終了後も継続する中で(平成30年度~令和2年度)、徳之島型モデルは、本町の小規模校や複式学級の抱える様々な課題に対する効果として、具体的に次の「教育の質の維持向上」を図ることができました。

(1)小規模校のネットワーク化
 一般的に、小規模校では教員数が少なく、教員同士の相談や研究、協力が行いにくい課題があります。このような課題解決のために本町では、各校をテレビ会議システムで結ぶことにより、5校合わせた教職員数30名、児童数90名の規模で研究・指導が一体的に実施できるようにしました。

(2)小規模校における教育の質の向上
・ 教員個人への負担を軽減し、教員同士が一体となって連携する環境を創出できました。
・ 従来、学年部会や教科部会などが成立しない学校でも5校の指導技術の相互伝達がなされた指導力の質の向上が図られ、未経験の教員でもレベルごとの遠隔授業がスムーズに行えるようになりました。
・ 教員同士で遠隔合同授業の構想を練り、指導案の作成や共有する過程を通じて授業改善が図られるようになりました。
・ 継続研究により、遠隔合同授業に適した単元や指導例の蓄積とタイプ別のステップ化により、新規参入校や初めて遠隔合同授業に取り組む教師もスムーズに研究に加わることができました。

(3)教員の専門性を生かした授業の実現
・ 直接指導と間接指導の併用により「ずらし」「わたり」などの複式指導特有の指導技術が必要とされる教員への負担が解消されました。
・ 年代層の違う他校の教員などから指導法を学ぶことで相互に指導力向上の機会につながり、教員のモチベーションが高まりました。
・ 新聞、テレビ、研究誌等メディアでの紹介により、県内外からの視察や県外の小学校や専門機関との遠隔教員研修により能力開発の機会を増やすことができました。
・ 限られた教員数では専門性を生かした授業を行うことが困難でしたが、得意な分野を担当し合うことで、授業の質の向上を図ることができました。

(4) 児童の学習環境の向上及び一体感の向上による進学時のギャップ等の解消
・ 遠隔合同授業を実証の中心としながら、児童の直接交流活動や職員間の相互研修など対面の交流も重視し、小規模校同士が双方向でつながり合い、1つの大きなバーチャルクラス
ルームとして高め合っています。
・ 5校を結ぶことにより、常に少人数の中で学習してきた児童が適正規模の学級で学んでいるかのように相互の友人関係を構築し、不安を解消するなど、新しい環境での学習や生活に適応できるようになってきました。
・ 修学旅行や水泳学習等を合同学習として位置付け、年間を通して直接交流を実施しました。
・ 遠方の学習施設や専門家とつないだ授業を実施することで、移動にかかるコストや時間を節約しながら、専門的な学習を受けることができます。
・ 学校数に対して限られた人数しか外国語指導助手(ALT)がいなくても、遠隔合同授業で一度に複数の学校に対して指導を行うことができました。

5 データが示す遠隔教育の学習効果とは

(1)学習内容の定着
 例年実施している標準学力検査において、遠隔合同授業を実施した単元の正答率(全国比)は表-1のとおりです。遠隔合同授業を実施した成果が出ています。

(2)遠隔合同授業の研究の視点から
 図−2のとおり、テレビ会議の画面を通してではありますが、教師と児童が直接対面する機会が大幅に増加し、児童の主体的な学習を促す支援ができました。

(3)児童の考え方の広がりや深まり
 4月実施の全国学力・学習状況調査の質問紙回答と遠隔授業を通しての自己評価(関連する内容を抽出)を比較した結果が表-2です。

6 徳之島町における「ウィズコロナとSDGs」の今後の展望

 新型コロナウイルス感染症により、本町においても、全ての学校を数日間、臨時休校の措置としました。図−3は、休校中の家庭での学習等への対応について、遠隔教育との相乗効果を4校のアンケート結果としてまとめたものです。


 本町は、昨年7月1日、県内自治体で初めて内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、「あこがれの連鎖と幸せな暮らし」の実現に向けた取り組みを始めています。また、本年度の夏には、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産への登録を目指しています。町内の各小中学校においてもこのような動きと連動しながら、持続可能な教育の取り組みを推進しているところです。
 さらに、昨年度、町総合教育会議において、今後5年間を見据えた教育大綱を改定し、基本方針に「未来を創造する新たな教育への挑戦」を掲げ、新時代の最先端技術活用の推進を通して「最先端の学びの町」をめざした様々な取り組みを実現するよう将来目標を定めました。
 具体的には、本年度より国の「GIGA スクール構想」や「1人1台の学習端末の整備」を推進するとともに、全小中学校での遠隔教育の実施や「施設分離型小中一貫校」としての再編を予定しています。
 今後も、島の宝である子どもたちの「将来の夢の実現」に向けた教育環境づくりを学校や地域と連携しながら強力に推進してまいります。

GIGA:Global and Innovation Gateway for ALLの略。Society 5.0時代に生きる子供たちの未来を見据え、児童生徒向けの1人1台学習用端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する構想のこと。令和元年12月13日閣議決定。

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