校長室のカリキュラム・マネジメント

末松裕基

校長室のカリキュラム・マネジメント[第10回]学校内のコミュニケーションをどう考えるか?

学校マネジメント

2020.08.24

校長室のカリキュラム・マネジメント[第10回]
学校内のコミュニケーションをどう考えるか?

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.10 2019年2月

東京学芸大学准教授
末松裕基

 先日、知り合いの若い教師が学校の人間関係で壁にぶつかっていると悩んでいました。話を聞くと、校長をはじめ、なかなか相談相手が学校にいないとのことでした。

 慣れない仕事のなかで大きなプレッシャーやストレスを明らかに感じているようで、正直「大丈夫かな?」「このまま辞めずに仕事を続けられるかな?」と心配になる状況でした。

 団塊の世代の大量退職を受けて、若い世代が大量採用される自治体が増えています。また、極端に中堅が不足するなど、学校の年齢構成のバランスがこれまで以上に悪くなっているのも事実です。この問題が注目されるようになった時期に、中央教育審議会では、次のように組織運営の課題が指摘されました。

・今後10年間に、教員全体の約3分の1、20万人弱の教員が退職し、経験の浅い教員が大量に誕生することが懸念されている。これまで、我が国において、教員の資質能力の向上は、養成段階よりも、採用後、現場における実践の中で、先輩教員から新人教員へと知識・技能が伝承されることにより行われる側面が強かったが、今後は更にその伝承が困難となることが予想される。

・さらに、今後、大量の新人教員と少数の中堅教員からなる教員集団をまとめていくために(略)これまで以上に組織的で計画的な教育活動、学校経営が不可欠であり、校長のリーダーシップとマネジメント能力がこれまで以上に求められる。また、多くの管理職が、教員と同様、今後10年の間に大量に退職することとなる。

・このような状況に何らかの手を打たないと、大量の経験不足の教員と少数の多忙な中堅教員、新しい時代の学校運営に対応できない管理職により運営される学校が全国各地に生まれるといった状況にもなりかねないが、他方、教員全体数の約3分の1が入れ替わるこの10年は、学校教育をよりよい方向に変えていく絶好の機会ともいえる。

(中央教育審議会・教員の資質能力向上特別部会「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(審議経過報告)」2011年1月31日)

学校に漂う憂いをいかに希望に転換するか

 中堅の先生方は「いつまでも若手扱い」「なんでこんな仕事をまだわたしが......」と感じる一方で、若手育成や評価、働き方改革など慣れない仕事で精一杯なことも多いと思います。また若手は、力量や経験が不足しているものの、組織的・計画的な育成システムが不十分なことも多く、冒頭の先生のように悩みを抱えていることも事実です。

 このような状況があまり続いてしまうと、自分が口を出せば仕事が増えることが目に見えてしまい、指示待ちの文化が蔓延してしまいます。憂いや諦めが蔓延する事態をいかに回避し、希望のある職場をつくっていけるでしょうか。

 本連載でも繰り返し述べてきたように、このように過緊張の状態においては、意図的に多少の無理をしてでも、組織内に対話や無駄(あそび)をつくっていく必要があります。

 人は余裕のないときにこそ、知恵を出し合う必要があります。組織内のコミュニケーションのあり方を少しずつ見直していくしかありません。

 ただし、昔ながらの飲みニケーションをしたところで、本質的な問題解決にはなりませんし、子育てや介護など家庭でも多くの難しさを抱える世代も多いため、かえってそういう安易な方法は逆効果にもなりかねません。飲みニケーションで事態が解決できた時代が特殊であり、組織の問題に飲みニケーションしか突破口を見出せないことに発想の乏しさを感じてほしいものです。

知恵を生み出すコミュニケーションとは

 小説家の大江健三郎さんが伝言ゲームの間違いには、次の三つのタイプがあると指摘しています。

1. 単純な間違い
2. 人におもしろがってもらおうとつくりかえる人
3. 自分がおもしろいと思う方向につくりかえる人

 三つ目のタイプは特に問題で、人のいう言葉に注意深く耳を傾ける習慣と能力がなく、さらにそれを反省することを求める人が周囲におらず、そういう人が指導的立場にたつとき、当人だけでなく、関係者にとっても不幸であり、そういう例が歴史上いくらでもあるとしています。
 
 そして、そのような不幸な存在にならないようにするには、自分を訓練することができるとして、次のように述べています。


 文章を正確に書くようにすることによって!

 文章を書くということは、自分の心のなかに湧き起こるものを書くのだ、と考えていられる人は多いでしょう。しかし、私たちは自分の目で見たことを書くのだし―それに反対される人は少ないはず―、そのことをよく考えれば、私たちは自分の耳で聞いたことを書く、と続けても賛成してくださるのではないでしょうか?

 私たちの本当の知恵は、自分の目で見ること―本を読むことも、そこに入れましょう―、自分の耳で聞くことをよく受けとめ、自分のものとして活用することができるようになって、生まれるのです。

 私たちは、自分の頭で考えるのですが、ひとりで考える時、問題がこんがらがって、すっきりした答えがでない時、自分のなかに、自分とは別の人物をひとりか二人作り出して―または、実際にいる人物をそこに呼び入れるようにして―そのメムバーの対話として考えてみることは、整理したり深めたりする上で有益です。

(『「新しい人」の方へ』朝日新聞社、2003年、121頁)


 本連載でも対話の重要性を述べてきましたが、人の話をまず聞いて、その上で、それを自分でまとめ、本当に自分が相手のことを聞いているかを確認する。まずはこの「自己内対話」があってはじめて、その後に、他者との対話が可能になります。職場の飲みニケーションは、愚痴や自慢の「独り語り(モノローグ)」によって憂さ晴らしはできるかもしれませんが、それは他者からするとたまったものではありませんし、自己を大切にしていないという意味で、長期的には自分を傷つけることになります。毎日、日記やノートをコツコツ書くことから自己内対話を始めてみませんか。

 

 

Profile
末松裕基 すえまつ・ひろき
専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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学芸大学准教授

専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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