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教育Insight デジタル時代の学校像を展望 国研・教育革新フェイズ1シンポ
トピック教育課題
2020.05.01
教育Insight
デジタル時代の学校像を展望 国研・教育革新フェイズ1シンポ
教育ジャーナリスト
渡辺敦司
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.11 2020年3月)
国立教育政策研究所(中川健朗所長)は2月3日、2019年度から3年計画で実施している「教育革新」プロジェクトのフェイズ1シンポジウム「高度情報技術を活用した全ての子供の学びの質の向上に向けて」を開催した。同年7月のキックオフ(開始)シンポジウム(Vol.5本欄既報)に次ぐもので、ICT(情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」時代の学校像を展望した。
同プロジェクトは、人工知能(AI)やビッグデータなど高度情報技術の進展に応じた教育革新(「ペダゴジー〈学習科学等〉」×「テクノロジー」による資質・能力の向上)の展望と実現に向けた課題を整理し、克服の道筋を探るため、産官学連携による実証的な政策研究を目指している。
●ICTの普段使いで資質・能力育成
開会あいさつで中川所長は、情報社会に続く人類史上5番目の社会であるSociety5.0(超スマート社会)の到来が予測される中でも、学校現場はまだバージョン4.0か3.8の段階にとどまっていると指摘。文部科学省が19年度補正予算で打ち出した「GIGAスクール構想」は5.2ぐらいの学びを考えるチャンスだと位置付け、柔らかい頭で未来の学校像を考えるよう提案した。
これを受ける形で、パネルディスカッション①「高度情報技術を活用した全ての子供の学びの質の向上に向けた文部科学省の取組」が行われた。文科省の課長・室長に、所掌を超えてDX時代の学校像を自由に語ってもらおうというもの。
モデレーター(司会役)の木村直人・官房会計課長は、これまでの優れた日本の学校の取組を継承しつつも、ICT環境整備によってこそ可能になる新しい学校のイメージをつくるよう呼び掛けた。
教育課程課の板倉寛・教育課程企画室長は新学習指導要領を引き合いに、学びの質の向上は学習者の生きる力を育成するために行うものであることを強調。ICTも、資質・能力を育成するためのものであることが大前提だとした。
情報教育・外国語教育課の髙谷浩樹課長は、ICTを学校現場で普通に使うものに変える必要性を訴える一方、小学校で必修化されるプログラミング教育も「あくまで情報活用能力の一手段でしかない」と注意を喚起。2018年のPISA(経済協力開発機構=OECD=の「生徒の学習到達度調査」)で問われた読解力は「情報活用能力そのもの」であり、ICT機器を文房具のように普段使いするようになることに期待を寄せた。
桐生崇・初等中等教育局企画官(学びの先端技術活用推進室長)は、現在が▽正解あり▽個別・分野別▽やり方が一緒▽標準▽区別・階層分け▽データ▽論理的・機械的─という時代から、▽正解は分からない▽統合・包括的▽やり方はまちまち▽独創▽包摂的▽意味・物語▽倫理的・人間的─という時代への分岐点にあるとの見方を示した。その上で「未来の教育のキーワード」として、①知識・技能はみんな習得可能に→「速度の差」と「テスト」の意義。教育はデータなしでは始まらないが、データだけでは完結しない②学び方(デバイス、ソフト)は一人一人に最適に。「タイプ分け」は不要に。だが、「人から学ぶ」はより重要に③「分からない」未来社会で幸福(Well-being)に生きるための学び。「真・善・美」。そのための「リアルな課題」の「試行錯誤」。ずっと学び続ける。「ワーク・スタディ・バランス」─を提案した。
教科書課の中野理美課長は、小学校教科書に占めるデジタル教科書の発行率(種類数ベース)が現在の20%から4月以降は94%に上昇することを紹介しながら、今後はデジタル教材を使って学びをどう充実させるかが課題だとした。
特別支援教育課の俵幸嗣課長は、特別支援教育の対象児童もICTを使って能力を発揮できたり、病室から授業に参加できたりするなどのメリットを挙げた。
議論の中で、桐生企画官は「人から直接的に学ぶことが希少価値になる」時代の中、人が集まって悩みながら学ぶ場である学校の重要性が増してくると展望。髙谷課長は、ICTを普段使いしている世の中にあっては教員も普段使いすべきだと考えを示した。
●学校現場の利活用ガイドも検討
続いて、パネルディスカッション②「教室に高度情報技術をもちこむ前に〜協調学習の原理と高度情報技術の効果」が行われた。米サンフランシスコから映像で参加するデジタル・プロミス社エグゼクティブ・ディレクターのジェレミー・ロシェル氏と、東京大学高大接続研究開発センターの齊藤萌木特任助教に、同センターの白水(しろうず)始教授が聞き手を務める形式。
この後、2本の事例紹介が行われた。1本目は、東京都千代田区立麹町中学校の戸栗大貴主任教諭キュビナと、同中にAI型タブレット教材「Qubena」を提供する神野元基COMPASSファウンダーの「教室に高度情報技術をもちこむ前と後─生徒と教師の変化」、2本目は2014年創設ながらICTを活用した教育で注目される米ミネルバ大学マネジング・ディレクターのケン・ロス氏による「University in the Digital age:Education first, technology second」。
最後に、パネルディスカッション③「ガイドライン策定に向けて」が行われた。19年6月に文科省が策定した「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」(最終まとめ)で提言された「学校現場における先端技術利活用ガイドライン」に盛り込むべき内容の参考とするのが目的。登壇したのは田村恭久・上智大学教授、益川弘如・聖心女子大学教授、神野ファウンダー、ロス氏の4人で、白水教授が司会を務めた。
白水教授は、子供の力を最大限引き出して指導要領の求める資質・能力を育成するためには▽学習者を主体とする▽デザインされた学びの場(学習環境)が要る▽学びの原理(に基づくデザイン)が必須▽だからこそEducation first, technology secondであるべき─と指摘。益川教授は、AI(Artificial Intelligence)よりもIA(Intelligence Amplifier、知能増幅器)の視点で、「テクノロジーによる判断」の活用よりも「教師による判断」の支援を行うよう提案した。