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UD思考で支援の扉を開く

小栗正幸

UD思考で支援の扉を開く 私の支援者手帳から[第3回]原因論にまつわる煩悩(2) 「わざとしている」と思いたくなる煩悩

NEWトピック教育課題

2019.10.08

UD思考で支援の扉を開く
私の支援者手帳から
[第3回]原因論にまつわる煩悩(2)「わざとしている」と思いたくなる煩悩

特別支援教育ネット代表
小栗正幸

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.3 2019年7月

 支援が必要な子供たちには、一見、わざとやっていると思えるような行動があります。実際、意地の悪いことをしたり、嘘をついたりといったような、支援者を困らせる行動をすることがあって、学校の先生方は「わざとしている」と思いがちです。彼らは本当にわざとやっているのでしょうか。わざとやっていると思うことで支援がずれたり間違ったりしてしまうことはないでしょうか。今回は、そのことを考えてみたいと思います。

試し行動

 「試し行動」は学校の先生方からよく聞く言葉です。いたずらを繰り返したり、べたべたと懐いたかと思うと突然裏切ったりといった、周囲が不快な思いをするような行動について、学校の先生は「自分が試されている」と思うわけです。

 しかし、掘り下げて考えてみると、「試し行動」というのは実に不思議な言葉で、そこに問題意識をもたずに使われていることが多いように感じます。

 私たちのお相手は、そんなに策を弄することができる人たちでしょうか。いたずらをして注目されたいといった計算ができる人たちでしょうか。詐欺師が成功するのは、手練手管で相手をその気にさせて罠に引っ掛けるからです。そんな巧妙な技を、彼らがもっているとは思えないのです。彼らには、自分たちの行為による利害損得を考えたりはしていません。人に迷惑をかけることによって何かを得ようとはしていないわけです。つまり、私たちのお相手は、人を試すほどの高度なスキルは持ち合わせてはいないのです。

 にもかかわらず、なぜ「試し行動」という言葉が使われるのでしょうか。そこには、私たちのように、人を試すことができる人間の誤認(読み違い)が関与しているのです。

 私たちは、人を試すときに、ちょっといじわるをしてみたり、相手の気持ちをくすぐってみたり、ものごとをはぐらかしたりして相手を探ろうとします。そこでは、あからさまに相手を困らせたり馬鹿にしたりすることはしません。巧妙にやるわけです。しかし、私たちのお相手は、あからさまな行動をとります。私たちが人を試す行動とは明らかに違うわけです。

 つまり、彼らの行いを「試し行動」と考えるのは、実は、自分たち自身の投影であり、それが、「わざとしている」という煩悩を引き起こすのです。

嘘は罪

 「わざとしている」と思える行動の一つに嘘があります。しかし、本当にわざと言っている嘘は、何かを追及されたときの嘘です。追及から逃れるための嘘、これは意志が伴った嘘で、わざとやっている行為です。

 しかし、私たちのお相手がつく嘘というのは、本人の意思にかかわらずに出てきてしまうことが多いのです。

 多くの場合、彼らの嘘には三つのタイプがあります。

 一つ目は、空想虚言症といわれるようなものです。相手と話しているときに、話題が止まると、誰かが話すまで待てない。そんなときに虚言が出てしまうといったものです。沈黙に耐えるスキルが不足しているために、話題を提供する嘘です。夏休みの予定がないのに家族でハワイに行くなどと言ってしまったり、一生の間に目撃できるかできないかの大事故に何度も遭遇したなどという嘘をつきます。しかし、そうした嘘はすぐばれてしまい、トラブルの原因になってしまいます。これは彼らにとっては、ちょっとしたサービス精神のようなものであるし、実は、自分の興味・関心から出てくることが多いのです。騙してやろうとは思っていないし、自分の興味・関心から出た嘘であるわけですから、そうした嘘を責めることなく、ハワイのことやレスキューの話で盛り上がってあげたらよいわけです。

 二つ目に、自作自演劇という嘘もあります。例えば、誰かが自分をいじめていてスリッパがなくなると言います。そうした場合、大騒ぎをしてみんなで探していると、なぜか、隠し場所を見付けたと言って自分でスリッパを持ってくることがあります。結局、自作自演のいじめ劇だったのです。しかし、そこで嘘を暴いて「わざとしている」と責めても意味はありません。自分を困った状況に置いて、何かを訴えていると考えるべきです。しかし、「どうしてほしいの?」と聞いても、大抵はどうしてほしいか言いません。それが言語化できないからです。だから、こうした嘘の場合には、「困ったときにはいつでもおいで」と、訴えの道を開いておくことが大事なのです。

 三つ目の嘘は、非行、特に多いのが盗癖です。罪を犯しているのにやっていないと言う。こうしたケースは、追及すればするほど人間関係が悪くなってきます。しかし、これは放ってはおけない嘘です。ひょっとすると教室の中で泥棒行為が行われているということも含めて考えなければいけないので、学校としても捨ててはおけません。場合によっては警察の助けを借りるということも含めて検討していかなければならないのです。

 しかし、しばらく放っておくと本人が来ることがあります。「この前のあれどうなったの?」って言いに来るんですね。そこで先生はちょっといじわるに、「あ、別に君が心配するようなことはないんだけど、なんでそんなことが心配なの?」というやり取りをしていくと、盗癖が収まります。このように「わざとしている」嘘にもいろいろなパターンがあって、それぞれのケースに応じた対応が必要になりますが、ここで押さえておきたいことは、支援の場では、嘘は軽い解離性障害と捉えることです。自分が自分であるという感覚が失われている状態と言えます。

 自分を変えたいために、演技や嘘が出てくるわけで、自分の中の他人、あるいは自分の中のもう一人の自分があって、そうさせていると考えられます。特に虐待を受けている人にこうした嘘が多いのです。このように、虚言を見極めると「わざとしている」という事象の本態が見えてきます。

 やる気のない人、わざとやっている人がいるとすれば、それは自分の中の他人の仕業なのか、自分の中の自分の仕業なのか。人間というものは複雑なものですね。

 まずは、「わざとしている」という煩悩から抜け出すことで、子供たちへの支援の目を開いていってほしいと思っています。(談)

 

Profile
特別支援教育ネット代表
小栗正幸
おぐり・まさゆき 岐阜県多治見市出身。法務省の心理学の専門家(法務技官)として各地の矯正施設に勤務。宮川医療少年院長を経て退官。三重県教育委員会発達障がい支援員スーパーバイザー、同四日市市教育委員会スーパーバイザー。(一社)日本LD学会名誉会員。専門は犯罪心理学、思春期から青年期の逸脱行動への対応。主著に『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』『ファンタジーマネジメント』(ぎょうせい)、『思春期・青年期トラブル対応ワークブック』(金剛出版)など。

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岐阜県多治見市出身。法務省の心理学の専門家(法務技官)として各地の矯正施設に勤務。宮川医療少年院長を経て退官。三重県教育委員会発達障がい支援員スーパーバイザー、同四日市市教育委員会スーパーバイザー。(一社)日本LD 学会名誉会員。専門は犯罪心理学、思春期から青年期の逸脱行動への対応。主著に『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』『ファンタジーマネジメント』など。

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