授業力を鍛える新十二条

齊藤一弥

授業力を鍛える新十二条[第4回]「見方・考え方」で深い学びをデザインする 第四条:〈教材研究の知恵〉――「見方・考え方」

トピック教育課題

2019.09.20

「見方・考え方」を理解することから

(1)「見方・考え方」登場の背景を確認する

 まず、新学習指導要領の各教科等の目標で「見方・考え方」という言葉が示された背景を確認していく。学習指導要領改訂に先立って、文部科学省が設置した「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」の論点整理(2014年3月)の中に「見方・考え方」のもととなる内容が示されている。そこでは、資質・能力に基づく学力を三つの視点から整理している(下図参照)。

 一つ目が教科等を横断する「汎用的なスキル(コンピテンシー)」。二つ目がその対極にある「教科等に固有の知識や個別のスキル」で、これは以前からあるいわゆるコンテンツと言われる個別の知識・技能である。そして、三つ目が両者の間に位置する「教科等の本質に関わるもの」で、これは教科等ならではの教科等の本質であり、それが教科等を超えた汎用的なスキルと各教科等に固有の個別的な知識・技能をつなげていくものとして教科等ならではの「見方・考え方」と呼ばれた。

 このように学力を三つの視点から構造的に示す一方で、新学習指導要領では三つの柱で、学校教育法第30条2項に沿って「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」と整理している。この資質・能力ベイスでの整理の仕方は、先の三つの視点での分け方とは異なるようにみえるが、これは学力という構造体をどのように分析するかによって生じたものであり、これまでの学力に関する三つの視点での議論で教科等の本質を重視するという考えが「見方・考え方」という視点で学習指導要領に位置付けられたと考えると分かりやすい。

(2)「見方・考え方」のイメージをもつ

 「見方・考え方」とは、教科等(以下、「教科」)の特質に応じてどのような視点で物事を捉えどのような考え方で思考していくのかという、物事を捉える視点や考え方のことである。また、この「見方・考え方」が、習得・活用・探究という学びの過程の中で働くことを通じて、三つの柱の資質・能力がさらに伸ばされたり、新たな資質・能力が育まれたりし、それによって「見方・考え方」がさらに豊かなものに成長していくという相互の関係にもなっている。

 「見方」とは、教科で身に付ける知識・技能等を統合および包括する「キーとなる概念」であり、「考え方」とは、教科ならではの認識や思考、表現の「方法」のことである。子どもがそれまでの学習等で身に付けた「概念」や「方法」が整理されたものが「見方・考え方」であり、子どもはこれらを働かせることによって自ら思考・判断・表現を繰り返し、このプロセスを辿ることで新学習指導要領が期待する「深い学び」が実現することになる。

 例えば、国語科においては、対象と言葉、言葉と言葉の関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉え、その関係性を問い直して意味付けることであり、社会科(地理)においては、位置や空間的な広がりに着目して捉え、地域の環境条件や地域間の結び付きなどの枠の中で人の営みと関連付けることである。学習対象の何に着眼して、その対象に対してどのようにアプローチするかという教科ならではの学びのプロセスが示されている。このような教科ならではの対象への着眼やアプローチの仕方そのものが教科の重要な学力の側面であり、教科を学習する本質的な意義を形成するものの一つが「見方・考え方」と捉えることが重要である。

(3)「見方・考え方」を軸にして授業を創る

①成長する「見方・考え方」

 「見方・考え方」は、教科等の「深い学び」を通して育成するもの、成長していくものと考えられている。学習が進むにつれて、対象への着眼点はより明確かつ多面的・多角的なものとなり、対象へのアプローチの仕方も体系的かつ構造的で、複雑なものにも積極的に関わるなど変容していく。そもそもその教科で育成する「見方・考え方」は、子どもが潜在的に有するものであって、教科指導には、それらを指導の中で顕在化させて、一段質の高い「見方・考え方」に高めていくことが期待されている。「見方・考え方」の見極めとそれをいかに成長させていくかがこれからの授業づくりの重要な視点となってくる。

②三つの柱の資質・能力と「見方・考え方」の関係

 先述のとおり、「見方・考え方」も三つの柱の資質・能力も子どもの学力を表すものである。学力をどのような側面から捉えるかによって異なるわけであるが、資質・能力ベイスの授業をつくるためにはこの両者の関係をいかに捉えるかが鍵になる。

 これからの授業づくりでは、子どもに身に付ける力やその評価については「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」で示された三つの柱から検討することが望ましいが、授業をいかにデザインするかを考えるときには、その教科等ならではの「見方・考え方」を育成していくことを軸に据えていくことがとても有効である。「見方・考え方」を念頭に置くことによって、子どもが着眼すべき対象やその内容、対象へのアプローチの仕方など、目指すべき授業の具体が見えやすくなるからである。

 「見方・考え方」というのは、教科ならではの対象への関わり方、アプローチの仕方であるため、指導者にとっては「見方・考え方」を意識することで指導が一貫したものになり、授業を受ける側の子どもにとっても学び進む方向がはっきりしたものになる。子どもにとっては授業で扱われるものに連続性や関連性が見えて、大切な概念、観点が理解できるようになるとともに汎用性のある思考方法、表現方法を活用できるようになる。そのような学習の連続の中で知識や技能もばらばらのものではなく、関連したもの、統合されたものとして認識されるようになり確かな概念へと高まっていくことが期待できる。「見方・考え方」を意識した授業に取り組むことによって、これまでの内容ベイスでの学力はもとより、資質・能力ベイスが重視している「思考力、判断力、表現力等」や「学びに向かう力、人間性等」などの学力もより確かなものになっていくと考えられる。

 目標設定とその評価における三つの柱の資質・能力と具体的な授業デザインや授業コントロールにおける「見方・考え方」が、互いに支え合う互恵的な関係にあることを踏まえて新たな授業づくりに挑戦していくようにしたい。

(4)教科における「見方・考え方」の確認

 今回の改訂でクローズアップされた「見方・考え方」は、決して新しいものではなく、これまでも教科の本質を追究する実践においては重視されてきたことである。しかし、内容ベイスの教育課程においてはそれを位置付けることは少なく、授業で意図的・計画的に十分指導されてきたとは言い難い。まずは、「見方・考え方」の主旨理解とともに教科におけるそれの具体を共有することが急務である。これまで教科によっては「見方」「考え方」が、指導方法や教材分析、評価の観点等でそれぞれ固有に使用されており、従前のものとの差異を確認することなども必要になる。

(5)「見方・考え方」を働かせた授業―文脈の生起と明示的指導の充実

 教科の本質を確実に学ぶために「見方・考え方」は不可欠であり、教科指導の土台を支えているものである。その「見方・考え方」を子どもが働かせながら学ぶには、真正で本物の教科学習の場を用意することである。先人先達の文化継承としての教科の役割を意識しながら、社会事象の課題解決の中での生活創造および教科内容を築き上げてきた文化創造等、いずれの文脈においても教科らしい「見方・考え方」を働かせながら学ぶことが大切であり、それによって子ども自らが教科の価値に出合い、それを実感的に納得することを可能にする。内容ベイスでの形式的な学習過程に拘泥することなく、教科指導の本質を見極め、三つの柱の資質・能力を育成するための文脈を生成することが必要になってくる。

 また、子どもが「見方・考え方」を意識しながら教科の本質を目指していくような明示的指導の充実も欠かせない。「見方・考え方」の育成は、表面上異なった対象への関わり方、アプローチの仕方、そしてそれらを支えるアイディアの裏側に共通するものの存在に気付くようにすることとも言える。個々の事実や知識を統合・包括する概念や教科ならではの認識や表現の方法などに子どもが関心をもつような、また子どもの経験群の意味する一段抽象度の高い概念や思考をはぐくむような日々の授業改善が期待されている。

 

【引用文献】

・文部科学省「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」論点整理、2014年

・文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)』2016年

・齊藤一弥「『見方・考え方』の理解とこれからの教科等の学びの在り方」『新教育課程ライブラリⅡ(Vol.9)ぎょうせい、2017年

 

Profile
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 東京都出身。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。横浜市教育委員会授業改善支援課首席指導主事、指導部指導主事室長として「横浜版学習指導要領」策定、横浜型小中一貫教育の企画・推進などに取り組む。平成24年度より横浜市立小学校長を経て平成29年度より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議協力者。主な編・著書に『「数学的に考える力」を育てる授業づくり』(東洋館出版社)、『算数言語活動実践アイディア集』(小学館)、『シリーズ学びの潮流4 しっかり教える授業・本気で任せる授業』(ぎょうせい)、『平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 算数』(ぎょうせい)などがある。

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齊藤一弥

島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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