授業力を鍛える新十二条
授業力を鍛える新十二条[第4回]「見方・考え方」で深い学びをデザインする 第四条:〈教材研究の知恵〉――「見方・考え方」
トピック教育課題
2019.09.20
授業力を鍛える新十二条
[第4回]「見方・考え方」で深い学びをデザインする
第四条:〈教材研究の知恵〉――「見方・考え方」
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
資質・能力ベイスでの授業づくりにおいては、教科の「見方・考え方」を軸に据えた授業デザインが欠かせない。教科における「見方・考え方」は教科の特質を踏まえた思考・判断・表現の方向がプロセスとして描かれており、そのプロセスを通ることで「深い学び」の実現を図り、資質・能力の育成を図ることが期待されている。
「見方・考え方」が授業づくりを変える?
高知県四万十市立中村中学校の取組②
新学習指導要領では、各教科目標の冒頭に各教科の「見方・考え方を働かせる」旨が示され、これによって「深い学び」の実現を目指すとしている。前号で紹介した高知県四万十市立中村中学校の授業研究においても、「見方・考え方」を働かせる学習指導の在り方を研究主題に盛り込み、教科の「見方・考え方」の捉えを明確にするとともに、それを軸に据えた授業デザインに挑戦している。
社会科の立石和仁教諭は「日本の地域的特色と地域区分(地理)」を実践するにあたり、「30年後の自分の生活の様子を考えてみよう」という単元を貫く学習問題を設定して、自然環境、人口問題、資源とエネルギー、そして交通・通信の四つの分野から日本国内の地域間また世界と日本との共通性や地域的特殊性などについて多面的かつ多角的に考察することを目指した。四万十市が作成した「四万十市総合計画(10年間)」を踏まえて、30年後の自分の住んでいる街の様子を予測するとともにそこに生じているであろう課題を見いだし、その解決策を比較・検討しようとした。本時では、今後急速に少子高齢化が進む四万十市の現状を人口ピラミッド(2000年、2020年および2050年:いずれも推計)の資料から見つめ、特徴や将来の姿を予測しながら、地域のもつ課題解決に向けた取組を選択および判断することを目指した。
四万十市の三つの人口ピラミッドから、生徒は「労働力となる若者が極端に少ない」「高齢化が深刻になる」「中学生の数が全く違っている」など将来の状況について分析し、日本全体の人口ピラミッドなどとの比較を踏まえながらこの地域のもつ人口問題に関する特殊性を感じることになった。そして、「外国人労働力への依存」「若者の税負担の増大」「急速なロボット化」など、近未来に想定される様々な課題を予測するとともに、それらをいかに解決すべきかを考察していくことになった。
授業では、生徒は四万十市の空間的位置や他地域との関わりに着目しながら、超少子高齢化問題という社会的事象の特徴や課題を考察するとともに、自分が生きていくこれからの社会への関わり方を選択および判断することになった。ここにある思考・判断・表現の一連のプロセスが、教科目標にある資質・能力を育成するための社会的事象の地理的な見方・考え方であり、中村中学校ではこの「見方・考え方」を基軸に据えることで新しい授業づくりを進めようとしている。しかし、その一方で教科における「見方・考え方」をどのように捉えたらよいのか、いかに授業づくりに位置付けたらよいのか等については暗中模索も続いている。今、新しい授業づくりに向けて「見方・考え方」の共通理解から始めていく必要がある。