学校改革の新定石Ⅱ

西留安雄

学校改革の新定石Ⅱ[第5回]生徒指導レポートでの学び合い

トピック教育課題

2019.08.23

学校改革の新定石Ⅱ
[第5回]生徒指導レポートでの学び合い

新教育課程ライブラリII Vol.5 2017年5月

 担任する学級の子供だけでなく、全ての子供の名前が言える。また、全保護者の名前を、「お父さん」「お母さん」と言うのではなく、〇〇様とお名前を言える。私が勤務する私学ではこれが当たり前だ。公立学校に勤務する時は考えもしなかった。また、教職員は、入学前の説明会のその日から保護者の名前や顔を覚える。配慮を要する子供は、入学説明会時の行動観察から短時間で対策を練る。私学では、こうしたことがごく普通に行われている。

 公立学校はどうだろう。毎年5月頃、子供理解と称して気になる子の情報を交換する。学級以外の子供の情報を全教師が共有することは大切だ。春先の情報交換は、重要と考えてのことからだろう。だが、こうした会議は、果たして効果があるだろうか。

 担任が代わるたびに、毎年同じ子の名前が出たり、子供を下校させてまで会議を開くことに価値があるとは思えない。結局のところ、「学校全体で声を掛け合って」というあいまいな結論で終わったり、担任の自助努力に任せられることが多いからだ。子供の情報は担任が代わったら該当の教師間で情報を引き継げばよい。異動してきた教師を集め、担当者が気になる子の情報を伝えればよい。多忙な学期中に行わず、長期休業中に行えばよいことだ。

情報交換から生徒指導実践レポート

 元勤務校は、こうした形式だけの会議を止めた。課題のある子の情報交換は、入学説明会を終えたらすぐに行った。また、旧担任と新担任間でじっくりと放課後に個別で行い、全職員では行わなかった。その代わりに生徒指導で行った成功例や悩んでいることをゆとりある長期休業中にレポートで報告し合う会を行った。春先の多忙な時期の情報交換より、長期休業中に対応策をレポートで報告し合う方法が価値があると考えたからだ。

 そのレポートは、教師各自が生徒指導の実践をまとめ、自らの実践を振り返ることがねらいだ。お互いの実践をレポートで読み合うことで、他の教師の指導方法のよさを学ぶようにした。子供や学級の課題を共有し、対応策を助言し合うようにした。

・第1回 7月24日までにレポートを提出する。担当者が印刷・配布を行う。7月24日から全職員がレポートを熟読する。8月26日にワークショップを行う。

・第2回 12月25日までにレポートを提出する。12月26日からレポートを熟読する。1月6日にワークショップを行う。

・レポート内容
 レポート内容をA4サイズの用紙1枚にまとめる。レポートには、生徒指導にかかわる内容についての実践事例を記述する。指導の工夫とその成果、留意点等を書く。また、生徒指導で成果が出なかった事例も記述する。なお期間中に必ず全員のレポートを熟読しておく。できれば、事前に話す内容をメモにしておく。

・ワークショップの方法
 1グループ5人程度のワークショップをメンバーを代えて2回行う。20分×2回。その後、全員でワークショップを20分間行う。コーディネーターは、時間を計りたくさんの人の意見を引き出す。

・参加者
 一人40秒以内で自分の意見を述べる。つなげる発言はよいが他者の実践を批判しない。他の教師の意見に対して、共感的な発言をする。他の教師の実践から学んだこと、自分の経験から学んだことを他の教師へアドバイスをする。自分の生徒指導に取り入れられるものがあったら積極的に取り入れる。全体会では、ワークショップで学んだことを全員が発表する。

・レポート例(若手教師の論文)

 ~様々な経験を通して実績を積む中で、自己の生徒指導にもある程度自信をもてるようになってきた。しかし、一方でこれまでにあまりもつことのなかった悩みや自己の課題が見えてきた。その一つが、自分の立場・立ち位置の変化である。

 若手大量採用の時代となり、職場には年次の浅い教員が溢れている。これまでは、自分がプレイヤーの立場として職務を遂行していけばよかった。年次を重ねた今、これからは、若手教員をどのように動かし、学校目標を実現していくか、すなわち「人を通してどのようにパフォーマンスするか」を追究していく必要が出てきている。これがとても難しい。

 他者を動かしマネジメントするということは、ただ単に仕事を割り振ったり任せたりすることではない。DCAPマネジメントサイクルの中で、適切に評価し、次へのプランニングをさせ、学校全体を高めていくには大変時間がかかる。「核」となる牽引役も数名程度必要となる。先輩教諭を補佐しつつ、学校運営の中核としてどのように動くことができるのか、今後考えていかなくてはならない自己の課題の一つである。~

 「子供に作文を書かせるのであれば、自らもレポートを書かなければならない」。ある研修会で話した言葉である。これまでレポートを書くことに慣れていない教師が、自らの考えをまとめることができた。ペア学習の方法である「お互いに誉めてアドバイス」をワークショップ・レポート討議の会で実践した。子供のことを言葉だけで表現するのではなく、レポートを書き、読み合う中で子供理解が進むことを学んだようだ。

 

Profile
西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる!学力向上の処方箋』など。新刊『アクティブな学びを起こす授業改革』が好評刊行中。

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清瀬富士見幼稚園長

東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。

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