学校改革の新定石Ⅱ

西留安雄

学校改革の新定石Ⅱ[第3回]学びの手引書

トピック教育課題

2019.08.20

学校改革の新定石Ⅱ
[第3回]学びの手引書

新教育課程ライブラリII Vol.3 2017年3月

 研究発表会が一過性のものであったり、研究推進委員長のみが動き、学校全体としての取組みになっていなかったりする校内研究を経験してきた。

 一部の教師だけが校内研究に携わり、他の教師は研究テーマすら知らないといった状況さえあった。結果として、研究授業を教師同士で押し付け合う状況があった。教師生活の早いうちから「望ましい授業」について学んでこなかったのが原因だ。学びに早い遅いはない。学びそびれた教師に校内研究で力をつけさせるためにも授業の手引書を作成するとよい。

研究の実態を把握する

 校内研究がうまくいくかどうかは、授業や研究の進め方についての手引書があるかどうかにかかっている。手引書を作成するには、まず、自校の研究の状況を確かめるとよい。それを整理し、文書にまとめてみることだ。確かめたい内容は、研究の約束事、指導案の書き方、研究協議会の方法、研究構造図、学び合いの方法、言語活動の取組み等の状況だ。そうした内容の手引書があるかどうかだ。

プロフェッショナルティーチャーズノート

 かつて勤務した学校で授業の流し方や校内研究の約束事を記した手引書のノートを開発した。数多くの研究授業を行ったが、授業力が向上しなかったことの反省を受け作成した。どの教師も問題解決学習型の授業が確実にできるように、授業の流し方の初級、中級、上級モデルなどを冊子に記し実践を行った。

(1)校長のまえがき
 「よい授業における教師の出番は少ない」。ひとことで言うと授業とは、そういうものである。経験や勘だけでは、よい授業はできない。「子供を誘導し授業を進めていく」、子供同士の学び合いがスムーズにいかなくなると、どうしてもこうした授業になる。声が大きい。たくさん話す。こうした授業を行ってこなかっただろうか。

 教師がどこにいるか分からないような授業こそ、私たちの目指す授業である。子供が前面に出る授業を目指すために、私たちは授業の手引書となるノートを開発した。授業の手引き書であるこのノートを全員で共有しよう。授業力を高めるためにいつも側に置こう。そして真のプロの教師になろう。

(2)主な内容
 プロフェッショナルティーチャーズノートには、①意義、②校内研究のねらい、③分かる授業、④目指す授業像、⑤授業改善DCAPサイクル、⑥授業の流し方、⑦問題解決的な学習の展開(1単位時間)、⑧各教科における問題解決的な学習、⑨学力向上学習指導案初期構想、⑩学習指導案様式、⑪相互授業参観指導案様式(ワンペーパー指導案)、⑫授業参観記録シート、⑬ワークショップ型研修、⑭振り返り論文作成方法、⑮研究報告書、⑯授業参観の約束、⑰授業見学集会、⑱教科横断的指導事項の統一等を記載した。

 その中の「⑱教科横断的指導事項の統一」をご紹介する。かつて所属した学校でも研究授業を数多く行った。だが、授業力は高まるどころか学力の向上も望めない状況が続いた。原因を分析すると、教科教育の前の「学び方の指導」をしていないことに気付いた。ノート指導の仕方、板書の仕方、授業の組み立て方が授業者により違うことが分かった。「授業者のカラー」「学級経営・教科経営はその人のオリジナルで」という意識が強いためユニバーサルデザイン化に踏み込めていなかった。そのため、子供たちは授業者の自己流の授業に合わせざるを得なかった。そこで教科横断的指導事項の統一を図った。

 教科横断的指導事項の、①問題解決学習の進め方、②板書の日付・課題の赤囲み・まとめの青囲み、③導入の仕方(課題の提示・問いの共有)、④挙手の仕方、⑤発表場所の指定 ⑥ペア学習の仕方、⑦班学習の仕方、⑧全体学習の仕方、⑨言語スキル、⑩学び合いカード、⑪赤ペン机間指導、⑫振返り方法、⑬ノートの使い方、⑭問題解決段階用グッズ、⑮シラバスグッズ、⑯板書用子供の名札、⑰学習ルール、⑱反応の仕方、⑲発表の仕方、⑳話の聞き方等の20項目を統一した。

(3)手引書の成果
 手引書であるプロフェッショナルティーチャーズノートで校内研究の目的や方法が共有された。その結果、組織的に授業改善や学力の向上を図ることができた。また、校内研究で教師の授業力を高める学校風土となった。若手教師を中心に授業力が上がり、切磋琢磨する教師が増えた。

(4)一過性の研究冊子は作成しない
 研究会でいただく研究冊子が役に立っているだろうか。多くは成果物として役に立っているが、中にはそうではない冊子もある。そうした冊子の多くは本棚行きで再び見ることはない。かつての勤務校は、そうしたことにならないように研究冊子を毎年改訂していった。単なる製作物ではなく、日々の授業に役立つ冊子を目指した。7年間、一部の修正の冊子にしたため、研究冊子づくりに苦労はなかった。その分、多くの教師は、ゆとりのうちに研究を進めることができた。なお、プロフェッショナルティーチャーズノートは、「高知県越知町立越知中学校」のHP で公開しているので参考にしていただきたい。それを参考にして、自校ならではの手引書を作成されるとよい。_

 

Profile
西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる!学力向上の処方箋』など。新刊『アクティブな学びを起こす授業改革』が3月下旬に刊行。

 

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集 「深い学び」を深く考える

新教育課程ライブラリⅡVol.3

2017年3月 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

西留安雄

西留安雄

清瀬富士見幼稚園長

東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。

閉じる