「教えて考えさせる授業」でめざす深い習得学習

トピック教育課題

2019.09.20

「教えて考えさせる授業」でめざす深い習得学習

東京大学大学院教授
市川伸一

新教育課程ライブラリII Vol.3 2017年3月

「教えて考えさせる授業」とは

 「教えて考えさせる授業」とは、意味理解を伴った習得をめざす授業設計論の一つである。「教える」というのは多義的な言葉だが、ここでは「教師からの説明として、何らかの情報提示をする」というごく一般的な意味で用いており、簡単な予習を課すこともある。また、内容的な理解を求めるだけでなく、自らの理解状態や学習方略を診断し改善しようとする「メタ認知」や、対話的・協働的な学びを促すためのしくみが随所に組み込まれている点にその特色がある(市川、2004、2008)。

 定義ともいえる最低限の基本的特徴は、「教師の説明」「理解確認」「理解深化」「自己評価」という四つの段階から授業が構成されるということだ(図1)。教師が説明して教えたあと、本当に自分が理解できているのかを何らかの課題を通して確認する。その上で、問題解決や討論を通じて理解を深める。自己評価は、いわゆる「振り返り」の活動である。

 ただし、この4段階を踏まえているというのは、定義を満たしているというだけの形式的なものにすぎない。本来の趣旨に沿って各段階に肉付けするならば、次のようなことが挙げられる。

〇教師の説明
 「教える」の部分では、教材、教具、操作活動などを工夫したわかりやすい説明をこころがける。また、教師主導で説明するにしても、子どもたちと対話したり、ときおり発言や挙手を通じて理解状態をモニターしたりする姿勢をもつ。

〇理解確認
 「考えさせる」の第1ステップとして、「教科書や教師の説明したことが理解できているか」を確認するため、子ども同士の相互説明活動や教えあい活動を入れる。これは、問題を解いているわけではないが、考える活動として重視する。

〇理解深化
 「考えさせる」の第2ステップとして、いわゆる問題解決部分があるが、ここは、「理解深化課題」として、多くの子どもが誤解していそうな問題や、教えられたことを活用する発展的な課題を用意する。小グループによる協働的問題解決場面により、参加意識を高め、コミュニケーションを促したい。

〇自己評価
「考えさせる」の第3ステップとして、「授業でわかったこと」「まだよくわからないこと」を記述させたり、「質問カード」によって、疑問を提出するよう求める。子どものメタ認知を促すとともに、教師が今後の授業をどう展開していくかを考えるのに活用する。

どんな授業なのか

~小学校理科の実例から~

 このような授業設計論に基づいて、小学校5年の「てこのつりあい」の授業を行うとどういうものになるだろうか。これは、石川県の小学校で、指導案検討のときに私が出した助言によって実際に行われた授業である。

 「支点の左右に重りが一つずつ下がっているてこは、『重さ×支点からの距離』が等しいときにつりあう」というのがてこのつりあいのきまりである。これを1~2時間かけて発見させるのが通常の理科の授業であろう。しかし、教科書を開けばずばりと書いてあるし、日常生活の中で、本を読んだりして知っている子もいるだろう。一方で、学力低位の子にとって、このきまりの自力発見はかなりつらい。ならば、そこは共通に教える。

 「それを教えてしまっては授業ですることがなくなる」と思う方が多いようだ。確かに、そのような授業はまずない。しかし、あえてこの授業では、「家で予習して、大事なことをノートに書いてきましょう」から始まる。子どもたちは、このきまりをノートに書いてくる。「教師の説明」として、いくつかの数値をあてはめ、本当につりあうかを演示実験で確認する。そのあと、グループに分かれて、てこ実験器を使い、いろいろな場合について確かめてみるのが「理解確認」である。

 ここまでなら、ものの15分もあれば終わってしまうだろう。そこで、「理解深化」としては、「支点の両脇に、それぞれ二つ以上の重りが下がっている場合は、どのようなきまりでつりあうか」をグループで考えさせる。どのグループも真剣に取り組む中、「重りごとに、重さ×支点からの距離を求めて足せばよい。それが等しければつりあう」というきまりが発見されていく(図2)。この授業の終わりに、「先生、これでもつりあうんだよ!」と重りが鈴なりになったてこ実験器を見せに来た子どもの姿が印象的であった。

 これこそ、「仮説を立ててそれを実験で検証し、違っていれば仮説を修正し、法則を発見していく」という科学の体験的学習だと私は思う。「教えて考えさせる授業」は、「進んだ子に足踏みさせない。遅れている子も参加できる」という授業をめざしている。未習事項はすべて自力解決させることにとらわれず、基本的内容はまず共通にわかりやすく教え、その上でクラス全員がやりがいのある課題に取り組むという授業をすることこそ、基礎基本も定着し、深い理解と学習意欲を育むことにつながるのではないだろうか。

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集 「深い学び」を深く考える

新教育課程ライブラリⅡVol.3

2017年3月 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中