田村 学の新課程往来

田村学

田村 学の新課程往来[第1回]スタートカリキュラムの3rdステージにチャレンジしよう

トピック教育課題

2019.08.23

田村 学の新課程往来
[第1回]スタートカリキュラムの3rdステージにチャレンジしよう

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.1 2019年5月

 今月号から連載を執筆いたします。この連載では、各地の実践の様子や新しい学習指導要領の実施に向けた取組、それぞれの場面での子供たちの姿とチャレンジする教師の姿などを、皆さんと共有できればと考えています。

 原稿に書き表し、表現することで自分の考えをまとめ、整理する時間にしたいと思います。また、新教育課程に移行するこの時期に私の考えを発信することが、学校現場の教育活動や授業に役立つことを願って取り組みたいと思います。

4月の主人公はピカピカの一年生

 「平成」が「令和」に変わる大きなニュースで沸いた日本列島の4月。新しい紙幣の顔が、「渋沢栄一」「津田梅子」「北里柴三郎」になるという報道も全国を駆け巡りました。

 学校の4月も新しい年度がスタート。フレッシュな空気、新鮮なムードが校内を包みます。4月の始まりの時期に学校の廊下を一人で歩いていると、なんだかいつもと違った感覚が身体を覆い、やる気が沸いてきたことを思い出します。新しい年度が始まる4月は、心機一転、私たちを前向きにさせてくれる大切な節目の時期でもあります。新しい職員が学校に赴任し、メンバー構成も大きく変わります。学級担任を始めとする校務分掌も新しい体制に再編されます。一人一人の子供も、学年を一つあげて、背筋がぴんと伸びる、そんな瞬間を迎えることになります。

 ここに登場するのが新一年生。ピカピカの一年生です。真新しいランドセルを背中に担いだ一年生が、保護者とともに入学式の日を迎えます。入学式は、子供にとっても保護者にとっても、人生の晴れ舞台、大きな転換点です。子供たちは「小学生だものね」「もう一年生なんだから」などと言われながら、学校生活をスタートさせ、大人への成長の階段を登り始めていくわけです。

 学校では、春、夏、秋、冬の季節に応じて様々な教育活動が行われます。それぞれの時期に、それぞれの学年に応じた学習活動を展開していきますが、4月の学校の主人公は、なんと言っても一年生です。二年生から六年生までのお兄さんやお姉さんは、一年生を同じ学校の仲間として歓迎してくれます。教職員の一人一人は、一年生の不安を取り除こうと心を砕き力を合わせます。地域の皆さんは、小さな体に大きなランドセルを背負う一年生の登下校を見守り、そんな姿に目を細めることになります。

 ピカピカの一年生の姿が、新しい学校にさわやかな春の風を呼び込み、学校や地域を一気に暖かな早春の景色に変えていくのです。

学校生活のスタートを見つめ直そう

 小学校の入学当初、これまでの学校ではどのような指導をしていたのでしょうか? 入学式翌日の様子を思い出してみましょう。

 期待と不安いっぱいで登校した子供は、自分の靴箱に靴を入れ、教室に向かいます。教室では自分の席に座り、一人で次の指示を待ちます。学校によっては、六年生が丁寧にお世話をしてくれて、ロッカーの場所を教えてくれたり、机の中に荷物を入れることを手伝ったりします。どうにかこうにか隣の席の友達と話をすることのできる子もいれば、心配な気持ちが大きすぎてお母さんも一緒に教室に来てしまう子だっています。

 こうした子供の不安を払拭し、期待を膨らませるためにスタートカリキュラムの編成と実施が期待されています。スタートカリキュラムは、平成20年の学習指導要領で初めて生活科の解説に登場した言葉です。当時は、小1プロブレムに対応する学校生活への適応が期待されていました。その後、幼児期の教育を参考にして、安心して学校生活を始めるためのスタートカリキュラムを編成、実施するようになりました。この度の改訂では、それをさらに進化させて、子供一人一人が生き生きと「学びに向かう」スタートカリキュラムの編成と実施が求められています。そのためにも、10の姿に整理された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が存分に発揮されるようにするとともに、合科的・関連的な指導や弾力的な時間割の設定など指導の工夫や指導計画の作成を行うことが大切です。これがスタートカリキュラムの「3rd ステージ」にあたります。学校生活への適応や安心・安全のためのスタートカリキュラムから、「学びに向かう」スタートカリキュラムの編成と実施が、全ての学校に求められているわけです。このスタートカリキュラムこそが、カリキュラム・マネジメントの一つのモデルでもあります。各学校においては、いち早く着手し、取組を進めなければなりません。

 今年も横浜市立池上小学校の様子を参観してきました。入学式翌日にもかかわらず、子供は自ら判断して行動していました。また、友達と自然にコミュニケーションを重ねる姿が印象的でした。

学習する子供の視点に立つ

 この度の学習指導要領の改訂には「学習する子供の視点に立つ」というメッセージが込められています。これまでのような教師の視点に立つ授業では、実際の社会で活用できる資質・能力を育成することはできません。なぜならば、学習者である子供が本気で、真剣に学びに立ち向かい、自らの力を存分に発揮することによって、実際に使える力が身に付くと考えるからです。

 3rdステージのスタートカリキュラムへの取組は、学習者中心の学びを具現するとともに、カリキュラム・マネジメントにチャレンジする絶好のチャンスなのです。

 

Profile
國學院大學教授

田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。

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國學院大學教授

1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。

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