個を生かした教育課程編成の在り方

トピック教育課題

2019.07.01

個を生かした教育課程編成の在り方

『新教育課程ライブラリ Vol.8』2016年8月

教育課程編成における目的・目標の重要性

 「特別支援学校学習指導要領解説総則等編」(2009)では、教育課程とは「学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を児童生徒の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画である」(太字筆者)と定義されている。すなわち、教育課程を編成する際には、定義の冒頭に示されている「目的・目標」が第一に重要であることがわかる。

 教育課程を考える上での目的・目標の重要性は、法令からも明らかである。学校教育法の第8章「特別支援教育」でも最初の第72条は特別支援学校の目的が示されており、「特別支援学校は、……(中略)……、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする」とされており、2つの目的が示されている。1つは前半の幼稚園、小学校、中学校、高等学校に「準ずる教育」を施すことであり、ここでポイントになるのは、「準ずる」の意味が同等であるという点である。「準優勝」等で使用される「レベルが下がった」という意味の「準」ではないことに留意する必要がある。このように障害のある子どもの教育の目的・目標も基本的には障害のない子どもと変わることはないが、障害の状態や特性等を考慮する必要があるため、後半の、「障害による学習……知識技能を授ける」が2つ目の目的として示されているのである。

 また、特別支援学校学習指導要領の冒頭の第1章「総則」の第1節においても「教育目標」が掲げられており、ここからも教育課程を編成する上で「目標」が重要であることを察知することができる。学習指導要領における教育目標も、学校教育法における2つの目的に対応するかたちの記述となっている。

 こうした国の法令で示された目的・目標を踏まえながら各学校は教育課程を編成することになるが、その際、中核となるのが学校の教育目標である。「特別支援学校学習指導要領解説総則等編」においても、「教育課程は学校の教育目標の実現を目指して、指導内容を選択し、組織し、それに必要な授業時数を定めて編成する」(太字筆者)とあることからも学校の教育目標がいかに重要であるかがわかる。

特別支援学校における学校の教育目標を核とした個に応じた教育課程編成の在り方

 個を生かした教育課程編成の在り方を考える上でも、教育課程の基本である学校の教育目標を中核に据える必要がある。学校の教育目標と個別の目標が遊離しないような工夫が求められるが、その際の特別支援学校における基本的な考え方を示したのが図1である。

 まず、図1の左の流れのように、学校の教育目標が「部の目標」→「学年・学級の目標」→「教科・領域の目標」→「授業の目標」→「個別の目標」へと系統的に下りていく必要がある。表1は学校の教育目標と部の目標との関連性が認められる形式を示したものである。この例では「静かに深く考える子」「みんな仲よく助け合う子」「素直で明るく生きぬく子」「くじけずねばり強くやりぬく子」という4つの学校の教育目標が掲げられ、それぞれに対応した部の目標が設定されていることがわかる。さらに表2は、小学部において設定された部の目標が、教科・領域の目標に反映されている形式を示したものである。このような系統性の中で個別の目標が位置づけられているかどうかを確認する必要がある。


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 これに加えて、図1の右の流れのように、子どもの障害の特性に応じて、学校の教育目標が個別の目標に反映されるように留意しなければならない。表3は、この点を踏まえて、学校の教育目標の系統性が工夫されている病弱特別支援学校の例を示したものである。学校の教育目標は、「明るくたくましい児童生徒」「よく考え自分から行う児童生徒」「なかよく思いやりのある児童生徒」の3つであり、それぞれの目標に対して、慢性疾患、慢性疾患重複、筋萎縮性等疾患、筋萎縮性等疾患重複、重症心身障害という障害特性に応じて、それぞれⅠ~Ⅴ段階に分けて、子ども像が示されている。こうした子ども像を教師がいかにたくさん描くことができるかが、個に応じた教育課程を編成する上で重要となる。特別支援学校では教育課程の類型化が行われていることが多いが、各類型ごとに学校の教育目標に対応した目標設定を行い、個別の目標に反映させることが重要となる。


※クリックで画像を拡大

 2校の例を示したが、いずれの学校の教育目標も子どもを対象とした目標、すなわち、目指すべき子ども像が描かれていることがわかる。「~を促す」「~を育てる」といった教師や学校を対象とした目標では、事例のような学校の教育目標を中核とした系統性のある個に応じた教育課程を編成するのは難しいといえる。自校の学校の教育目標の主体が子どもになっているかどうかという観点から学校の教育目標を見直す必要があろう。

 

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特集 特別支援教育の実践課題

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