資質・能力を学校現場でどう捉え実践するか 村川雅弘(甲南女子大学教授)

トピック教育課題

2019.05.21

子ども自身に考えさせてみる

写真1

 写真1は、神奈川県のある小学校の成果物である。実は十数年前のものである。この学校では、年度始めに、児童に対して生活科や総合的な学習の時間で身に付けたい力を小片に書かせ、模造紙上でKJ法を使って児童と一緒に整理し、共有化を図っていた。子ども一人ひとりが書いた「付けたい力」の中からよく似たものを探し出すよう促し、「まとめたら、どんな力かな」と確認しながら命名していった。左から「さい後まであきらめずにやりとげる力」「聞く力」「勇気を出してがんばる力」「調べる力」「仲よく協力する力」、そして「しんけんに集中する力」「何でもチャレンジする力」「考える力」と続いていく。まさしく、資質・能力と呼ばれているものである。「生活科を1年経験した2年生からできる」と先生方は述べられていた。─資質・能力、恐るるに足らず。

各教科等レベルでカリキュラム・マネジメントを行う

 本号74~77頁の筆者連載の中で、高等学校における同様の事例が載っている。卒業までに付けたい力を高校生自身から引き出し、育成すべき資質・能力としてまとめたものである。この作業が、学校のカリキュラム・マネジメントを行っていく上で最も重要な目標のベクトルを具体化し共有化することに繋がった。前述の小学校の事例は生活科や総合的な学習の時間に絞ったものであるが、小学校や中学校あるいは高等学校において卒業までにどんな力を付けたいかを子どもたちに聴いてみてはいかがだろうか。

 カリキュラム・マネジメントには、学校レベル以外に各教科等レベルのものがある。例えば、中学校や高等学校の英語科において、「わが校は3年間をかけて英語教育を通してどのような力を育てていくのか」「それらの力を付けるためにどのような授業づくりを進めていくか」を担当教員で具体化・共有化することである。付けたい力を書き出し整理してみれば、英語科の目標や内容に特化したものではなく、グローバル社会の中で必要とされる様々な資質・能力を育てたいと考えていることを自覚するだろう。他の教科や道徳等でも行うべきことである。

授業中に意識させる

写真2

 写真2の掲示物はある小学校の3年教室の背面黒板の上に貼ってあった。この学校では総合的な学習の時間を「はばたき学習」と呼んでいる。総合の授業の冒頭で、教師は「今日は主にどの力を使って学習しますか」と確認する。すると子どもたちは、「今日は、調べてきたことを発表し、考えを繋げて、新しい課題を見つける時間なので、人の話をしっかりきいて大事なことがわかる、集めた情報を使って、考えたりまとめたりできる、次にやりたいことを考えられる、の三つです」と確認し合う。総合的な学習の時間で育成したい資質・能力は「見えない学力」と呼ばれてきたものである。見えないからこそ「明示する」「意識する」ことを奨励している。これらの「付けたい力」も年度始めに子どもと一緒に作り上げているから子どもは理解し自覚的に学習を進めて行ける。活動しながら「メタ認知」していくのである。

写真3

 写真3は、ある中学校の教室に貼られている掲示物である。この学校では、どの学年、どの教科でも5か条が守られている。教師間でぶれがない。生徒一人ひとりが自己の考えを述べ合い、互いに受け入れ合い、認め合い、繋げ合っている。いわゆるアクティブ・ラーニングの基盤である「受容的な関係」が学校文化として根付いている。

 ここに書かれている言葉は「話す・聴く」技能だが、多様性を尊重する態度でもある。お互いを尊重し合うからこそ「最後までしっかり聴く」「聞こえる声でわかるように伝える」「友だちの話を受け止める」「違う考えや異なる意見を大切にする」などが自然にできる。生きる上で極めて大切な資質・能力である。

 これまで述べてきたように、資質・能力論争は研究者や教育行政に任せて、学校現場では目の前の子どもの姿を通してどのような力を育てたいのかを明確にし、共有化を図っていきたい。そして、授業レベルで、子どもに分かる表現で意識させ活用させていきたい。資質・能力は子ども自身が自覚的に繰り返し活用して身に付いていくものである。

 村川雅弘「これまでの“資質・能力”を考える」『教職研修』教育開発研究所、平成26年1月号、p.22-25

甲南女子大学教授
村川雅弘
Profile
むらかわ・まさひろ 鳴門教育大学大学院教授を経て、2017年4月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』(ぎょうせい)、『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』(教育開発研究所)など。

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