教師のためのメンタルケア入門

奥田弘美

リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第3回]ストレスサインに対して敏感になろう

学校マネジメント

2020.05.10

新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)

リーダーから始めよう! 
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第3回]
ストレスサインに対して敏感になろう

精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.3 2019年7月

マイ・ストレスサイン

 ほとんどの病気は早期に気付いてケアを開始することができれば、軽症でかつ短期間で治癒します。これは体だけではなく、心の病気にも言えることです。ストレスの蓄積によって心身のエネルギーレベルが下がりはじめたときには、初期の兆候が体や心に現れはじめます。この初期の兆候は、人によって違います。体に兆候が出やすい人、気持ちに兆候が出やすい人、行動に兆候が出やすい人など特徴があるのです。このストレスによる初期兆候のことを、私自身は「マイ・ストレスサイン」と名付けています。このマイ・ストレスサインを見逃さないようにすることが、心の健康にとって、とても大切です。人によってはストレスが体や心にたまりはじめていても、忙しさのあまりなかなか気が付かないことがあり、気が付けばうつ病などのストレス性疾患になっていた......ということも多いものです。

 では、どのようにしてマイ・ストレスサインを見つければよいのでしょうか? 次の三つのステップに従って、ぜひセルフチェックをしてください。

●ステップ1 「過去・現在のストレス体験を思い出す」
 まず、あなた自身のストレス体験を思い出しましょう。現在から過去にさかのぼっていき、自分にとって明らかなストレス状態だったときのことを振り返ってみてください。辛いことや悲しいことが起こったとき以外にも、就職、結婚、出産、異動などの大きな人生イベントも医学的には一種のストレス状態に入ります。
●ステップ2 「ストレス時の心身の反応を具体的に分析する」
 それぞれのストレス状態のとき、心と体に起こった変化や状態をできるだけ具体的に思い出してみましょう。可能な限り詳細に思い出して書き挙げてみてください。表1には、「一般的に見られる心身のストレスサイン」を挙げました。この表を参考にしながらセルフチェックしていくと、記憶がよみがえりやすいと思います。この表以外にも、あなた特有のサインに気付いたら、どんどん書き挙げていってください。
●ステップ3 「客観的な意見を収集してみる」
 続いて可能ならば、あなたがストレス状態に陥ったとき、どんな反応を示していたかを、身近な人である家族や親しい友達など、信用できる第三者に教えてもらいます。「私が~のとき、いつもと違ったところがあった?」「体調や雰囲気に変化があった?」などと、尋ねてみるとよいでしょう。

 いかがですか? これらのステップに沿ってチェックしていくと、あなた特有のストレスサインが見えてくると思います。マイ・ストレスサインはまさに心と体の警戒警報です。ストレスが蓄積していることを自覚して、普段よりしっかり休息をとる、ストレス源から離れてリラックス時間を捻出するなどのケアが必要です。このケア方法については、次回詳しくお話ししたいと思います。

表1 一般的に見られる心身のストレス・サイン

《精神面・行動面のサイン》
•漠然とした不安、落ち着きがなくなりそわそわする。
•怒りっぽくなる、イライラする。他人に敵意を感じやすくなる。
•興奮しやすくなる、涙もろくなる。
•他人に嫌悪感や恐怖感を感じる。会うのが億劫になる。
•強迫観念や心配癖が出てくる。
 例えば、鍵を閉めたかどうか、目覚まし時計をかけたかどうかなど、何度も不安になって確かめてしまうなど。
•楽しさや、嬉しさが感じにくくなり、趣味や遊びが億劫になる。
•物事に集中できない、作業や仕事、勉強の能率が落ちる。
•被害的になってしまう。自信がなくなる。
 例えば、周りの人が自分を非難しているように感じてしまうなど。
•甘いものやタバコやコーヒー、酒などの嗜好品が、急に増える。
《身体面のサイン》
•筋肉の緊張が強くなり、肩こり、腰痛、頭痛などがひどくなる。
•下痢や便秘、胃もたれ、胃痛、腹痛など消化器系の異常が出る。
•疲労感、倦怠感が増強する。一晩寝ても、疲れがとれないなど。
•寝つきが悪くなる。夜中や早朝に目覚める。熟睡できない。
•過剰な食欲が出る、もしくは、食欲が出ない。
•風邪を引きやすくなる。
•高血圧やアトピー、喘息などの持病が悪化する。
•性欲が減退する。
•めまい、耳鳴りが出現する。

 

Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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奥田弘美

精神科医(精神保健指定医)・ 産業医(労働衛生コンサルタント)

平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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