田村 学の新課程往来
田村 学の新課程往来[第4回]校内研修を質的に転換しよう
授業づくりと評価
2019.11.01
田村学の新課程往来
[第4回]校内研修を質的に転換しよう
國學院大學教授
田村 学
各地の授業を参観することが多いです。授業研究についての考えを記します。
意識を転換する
「授業研究」は、明治以来続く日本の教育文化で、担当する教師は何週間もかけて授業の指導案を作ることもあります。実際の授業においては、暮らしの中の日常的な素材を使ったり、子供が自ら参加できるような学習活動を用意したりして様々に工夫します。それは、子供の自発性を発揮できるようにし、子供がよりよく理解することができる「主体的・対話的で深い学び」を実現するための工夫であり、そうした工夫が公開する授業には様々に盛り込まれていきます。
こうして公開された授業の後に、授業について語り合う協議会が行われます。この協議会では、多くの場合、授業者の発問、指示、板書、教材提示などの教材研究、学習環境の構成や1時間の学習過程、単元計画などの単元構成や年間指導計画などが幅広く話題となります。そして、授業者への質問や意見などを中心として展開されていくことが多いように思います。
「どのような意図で、あの発問をしたのですか?」
「どうしてあのような資料の提示の仕方をしたのですか?」
「なぜ、あの子を最初の発言者として指名したのですか?」
こうして「授業研究」は、授業者に対する指摘を中心に展開されることが多いようです。
「とても素晴らしい授業でした」
「子供が生き生きとしていて勉強になりました」
などと、当たり障りのない意見で終始してしまうこともあります。
最初の事例は、参観者の意識は高く、授業から多くを学び取ろうとしているように見えます。また、協議会でも積極的な発言が行われ、活気ある協議会になっているような気がします。しかし一方で、授業者に対する否定的な発言が重なり、せっかくの授業者をネガティブな状況に陥らせてしまうこともあります。後者の事例は言うまでもありませんが、前者の事例においても「授業研究」を改善していく必要があるのではないでしょうか。重要なポイントは、意識の転換にあります。
「授業研究」は授業者の腕の善し悪しを判断し、授業者の力量を品定めする場ではありません。むしろ「授業研究」は、子供の学びを対象とすべきです。そのことは、結果的に授業者よりも参観者の姿勢と力量が試される場となることを意味します。校内研修や「授業研究」を通して、全員で学校・授業づくりに向き合う場を生成することが大切なのです。
固有名詞と具体の事実で語る
研修会や授業後の協議会での発言はどのようになっているでしょうか。一般的な意見を、抽象的な言葉を使って話し合ってはいないでしょうか。私たちは、授業などにおける子供の姿を基に協議の場に臨むわけです。協議会では、授業の具体的な事実と子供の名前を用いて語ることが欠かせないはずです。
「〇〇さんが、〇〇の場面で、〇〇と発言しました」
と。
そのためには、一人一人の子供の姿を丁寧に見取り、記録することが求められます。「主体的・対話的で深い学び」を明らかにするためには、諸感覚をフルに使って、子供の発言、子供の行為からの情報収集に努めなければなりません。そのためにも、とにかく記録することが欠かせないでしょう。デジタルカメラやデジタルビデオ、ICレコーダーなどももちろん有効なツールです。しかし、それらは補助的なツールであり、授業の子供の事実は、文字言語で記録し、書き留めることによってこそ明らかになると思います。
加えて言えば、その事実が生じた原因を探りたいものです。子供の学習活動がスムーズに展開したとしても、混乱して道に迷うような授業になったとしても、そうした状況が生じた原因があるはずです。授業の記録を書き留めながら、どこに原因があったのかを推論していくのです。研修会や「授業研究」の質を高め、「主体的・対話的で深い学び」を検討するには、参観者の姿勢と取組こそが問われるのです。
代案を示す
校内研修や授業後の協議会で批判ばかりを繰り返す参観者がいます。実際の授業の在り方に対して賛否を表明することは必要です。子供の姿の細部にわたって丁寧な観察をしてきた結果の発言でしょう。だとすればなおのこと、気になった場面についての代案を示すことが大切になります。授業中に見られた課題や生じた問題状況を、どのように改善すべきかを具体的なアイディアとして語り、意見交換していかなければならないはずです。
「〇〇が気になりました。その原因は〇〇にあると思います。私なら〇〇してはどうかと考えます」
と。
こうした発言をしていくためには、授業を参観しながら、問題状況の原因とその改善策を「どうして」「どうする」と考え続けなければなりません。協議会では、互いのアイディアを披瀝し合い、よりよい授業へのヒントを出し合うことが大切になります。ここで代案を示せる教師こそが実力のある教師と言えるのではないでしょうか。研修会や「授業研究」の質を高め、「主体的・対話的で深い学び」を検討するには、参観者の力量こそが問われるべきなのです。
Profile
國學院大學教授
田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。