授業力を鍛える新十二条

齊藤一弥

授業力を鍛える新十二条[第6回]単元づくりの基本を確認する

トピック教育課題

2019.11.05

授業力を鍛える新十二条

[第6回]単元づくりの基本を確認する
第六条:〈単元づくりを支える勘どころ〉―「単元デザイン」

高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官 齊藤一弥

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.6 2018年9月

 

単元づくりには、学習指導要領を丁寧に読み解き目指すべき学びの方向性の根拠を明らかにすることと目の前の子どもの経験にひらかれた学びを保障することが大切である。それに向けて教科書との正しい付き合い方をしながら単元をデザインする力が期待されている。

単元づくりの基本の確認

 

(1)学習指導要領との正しい付き合い方

 教科書単元の多くは、教師の先輩諸氏による実践の中から選ばれ、どの学級でも実践し易いように磨き上げられたものである。それらは学習指導要領と目の前の子どもの実際からデザインされ、丁寧に実践された履歴としての結果であり、そこには先達の知恵と工夫が詰まっている。経験の浅い教師の多くが、「単元をいかに教えるか」という問いに対して、「教科書どおりに教える」と躊躇せず答えるのはある意味当然なことであり、教科書に示された単元の存在の大きさを改めて確認することになる。

 しかし、その単元は、ある教師の教材解釈とそこでの子どもたちの実態から生み出された実践の結果であり、どの学級でも最適な単元であるとは言い難い。本来は、各学校の教育課程に基づき教師一人一人が学習指導要領に示された内容を適切に解釈し、その主旨の内容理解をした上で、目の前の子どもの興味・関心等によって、最適な単元を創らなければならない。教科書という良質の参考書を有効活用しながら、いかに単元をデザインするかは教師にとって極めて大切な仕事なのである。

 では、まず単元づくりは何からとりかかればよいのであろうか。そのスタートラインは、学習指導要領および解説の解釈である。これによって公教育における教科指導の基本を確認することができるからである。

 新学習指導要領の解説には小学校6年算数の「対称な形」について、下のような指導内容(概要)が示されている。指導内容として対称性の観点から既習図形を再確認すること、図形の対称性について考察すること、それらは観察や構成、作図などの操作を通して行うこと、さらには均整のとれた美しさや安定性など図形の美しさに着目することが読み取ることができる。「対称」に関する知識・技能の習得で終わるのではなく、操作活動によって「対称」の概念の獲得を目指すとともに、対称性のもつよさや美しさといった感覚にまでその学習範囲が及ぶことがわかる。子どもに教えるべき内容とそれをいかに学ばせるか、そしてそれによってどのような力を身に付けるのかが示されており、それらを確認することを授業づくりの出発点とすることが大切である。

 当然のことながら、ここでの学習はこれまでの学習履歴の上に成り立っており、「対称」という用語自体は6年で初めて出てくるものの、その概念の素地になることは1年のかたちあそびで学習する「裏返す」「回す」という操作や3年の二等辺三角形や正三角形を半分に折り重ねる活動など、様々な場面で経験とつなげることが重視されている。

○対称性といった観点から図形の性質を考察していく。対称性といった観点から、既習の図形を捉え直すとともに、その性質を日常生活に生かす。

○線対称、点対称の意味について、観察や構成、作図などの活動を通して理解できるようにし、線対称な図形、点対称な図形、線対称かつ点対称な図形を弁別するなどの活動を通して、図形の見方を深める。

○対称性については、既習の三角形、四角形、さらには、正多角形について、線対称な図形、点対称な図形、線対称かつ点対称な図形を弁別し、既習の図形を対称性といった観点から捉え直す。

○図形の性質を調べるには、その図形を構成する要素に着目し、それらの関係を考察していく。

○観察や構成、作図などの活動を通して、均整のとれた美しさ、安定性など、図形のもつ美しさにも着目する。図形の理解を深め、図形に対する感覚を豊かにする。

 また、中学校数学の学習指導要領の解説でも、中学校1年の数学での図形の移動の見方から図形間の対称性を考察する学習において6年での線対称と点対称の学習と、対称移動と回転移動とのつながりはもちろんのこと、小学校低学年の図形指導との関連も意識した指導が重要であることも示されている。

 このように、指導内容の系統や数学的な見方・考え方の成長等の関連を確認した上で、子どもの学習の連続性を担保していく必要がある。そして、子どもにとってより自然な学びの流れを用意するためにどのような教材・教具を用意すべきなのかなど、既習との関連から検討していくことが大切になる。子どもがどのような経験をしているか、その経験をいかに広げていくかという視点から学習指導要領を丁寧に読み解くことが期待されている。

(2)能力育成への内容の深い理解

 さらに丁寧に学習指導要領を読み込むと、当該学年の指導内容だけに目を向けていたのでは、指導内容の系統や関連が見えてこないということにも気付く。

 6年の対称な形は、その単元だけで存在するものではなく、これまでの図形指導の延長線上に位置付くものであり、同時にその先の図形指導の素地経験になるものであり、子どもが内容を深く理解することを可能にするためには、図形の見方としての概念の軸に据えた学習展開の構成が欠かせない。

 小学校の図形指導は、次に示すように図形概念を系統的に指導するが、その指導に適する基本図形を教材にするとともに、既習の基本図形を図形概念から見直すように仕組まれている。このような系統を確実に把握した上で、その概念指導に基本図形をいかに教材として扱えばよいのかを検討する必要がある。例えば、4年では平行・垂直を学習することから、平行線で囲まれている基本図形を教材として扱うわけであり、同時に既習の長方形や正方形をその視点から見直すことになるわけである。このように指導内容を捉えることで、学習展開はより子どもの経験に沿った自然なものになるとともに教えるべき内容が明確になる。学習指導要領を丁寧に読むということは、このような系統や関係をつかむことであり、これが単元デザインに欠かせないことであり、教師の単元づくりの「勘どころ」はこのような地道な取組によって確かなものになっていく。

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齊藤一弥

島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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