特別企画 趣旨から再確認する自治体債権の減免の実務 〜番外編〜

地方自治

2024.01.31

 

※本記事は、月刊『税』2024年2月号に掲載されたものです。

 

特別企画 趣旨から再確認する自治体債権の減免の実務〜番外編〜
震災・火災・水害等の災害減免―能登半島震災に遭遇して

自治体支援弁護士プロジェクトチーム代表 弁護士 瀧 康暢

はじめに

 「季刊連載 趣旨から再確認する自治体債権の減免の実務」では、地方税を含む自治体債権の減免について、総論を述べた後、税目、債権の種類毎にわけて、記述を進めてゆく予定でした。

 今回、能登半島震災を受け、徴収職員の便宜のため「災害減免」事由(震災・火災・水害)に焦点を絞って、記載することにしました。

 災害減免の通則的な意義、要件については本誌2023年10月号107頁~112頁に記載しています。

 本稿では現在、能登半島震災で被災した市町村の職員のみでなく、今後、発生する小規模・大規模災害時の地方税の災害減免について、本稿を読めば、一通り、具体的な実務における減免手続き、基準、割合が分かる内容としました。

 地方税の災害減免の具体的な要件、減免割合は、「災害被害者に対する地方税減免措置について」(平成12年4月1日付け自治税企画十二号自治事務次官通知)(以下、「災害減免通知」といいます。)で示されています。

 国民健康保険税(料)の減免要件とその割合・減免額も、「災害による国民健康保険料(税)の減免に伴う特別調整交付金の算定基準について」(昭和42年6月30日付厚生省保険局長通知)に続く、平成23年3月の東日本大震災および平成28年4月の熊本震災における減免に伴う財政支援基準の事務連絡(注1)(注2)(以下、「特別調整交付金の交付基準事務連絡」といいます。)において示されています。

(注1)平成23年6月1日付厚生労働省保険局国民健康保険課・総務省自治税務局市町村税課共同事務連絡「東日本大震災により被災した被保険者に係る国民健康保険料(税)の減免に対する財政支援の基準等について」
(注2)平成28年6月9日付厚生労働省保険局国民健康保険課・総務省自治税務局市町村税課共同事務連絡「平成28年熊本自身により被災した被保険者に係る国民健康保険料(税)の減免に対する財政支援の基準等について」

 中央省庁の右通知と事務連絡により減免基準は、画一化しています。第10で、主な税目ごとに災害減免の要件・割合を表にし、表現を簡略化して、できるだけ分かりやすく記載します。

 本稿で、特に力を入れた点は、減免の基準の解説でなく、被災者全員が、漏れなく迅速・確実に減免決定を受けられる体制の整備・確立です(第2から第9)。

第1 1月1日発生の災害により、死亡した住民の個人住民税、滅失した家屋の固定資産税の次年度課税の可否

1 賦課期日に発生した能登半島震災

 能登半島震災は、個人住民税、固定資産税の賦課基準日(地税法318、359)の当日である2024年1月1日午後4時10分に発生しました。

 地方税法は、個人住民税、固定資産税の「賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする。」と規定するのみで基準時が、1月1日の何時なのか時間の指定はありません。

 1月1日0時の時点で、納税義務者は生存し、家屋は存在していても、1月1日24時には、死亡し、滅失していた場合に、住民税、固定資産税が、課税できるかどうか疑問が生じます。

2 依るべき行政解釈

 個人住民税については、「市町村民税の賦課期日は1月1日とされているので納税義務者の有無に関する事実の認定は、同日の現況においてこれを行うものであること(注3)」とされ、「1月1日に死亡した者については納税義務がないものとして課税しないことが適当である」との極めて有力な見解があります(注4)

(注3)「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)」通知、第2章第4節第5、32
(注4)市町村税務研究会編「令和5年度版要説住民税」第1章第5節〔Ⅰ〕〔2〕(1)(ぎょうせい)

 固定資産税については、令和6年1月16日付け総務省自治税務局資産税課長、同局資産評価課長より、「固定資産税においては1月1日中に生じた事情を同日を賦課期日とする年度の税額等に反映させることが基本です。このため1月1日中に滅失した家屋に対しては課税されないものと解されます」との技術的助言が通知(注5)され、課税しないとする見解が明らかにされました。

(注5)令和6年1月16日付総務省自治税務局固定資産税課長・同局資産評価課長技術的助言通知「令和6年能登半島地震により被害を受けた土地及び家屋に係る令和6基準年度向け評価等について」

第2 減免手続の体制整備 ― 被災者全員への減免決定と納税通知・減免通知の同時告知

 災害減免にあたって自治体の目標とすべきは、減免要件を具備した被災者が、「意識する間もなく自治体が減免してくれた」という感想を持ってくれるような減免手続・体制を整えることです。具体的には、①災害後、納期限が訪れる納期未到来分の債務を取りこぼすことなく、減免することと、②災害後、新規賦課分については、納税通知書と同時に減免決定通知書もしくは、減免の案内文と減免申請書が送達される体制を整えることです。

 そのためには、災害発生後、例規関係の早期整備、十分な減免申請期間の設定、簡易な減免申請手続、被災状況によっては申請なしの職権での減免が求められます。

 災害減免での具体的業務としては、次の①~③が必要と考えられます。
① 災害減免基準の早期策定―既存税条例の減免規定の利用と災害減免の規則・事務処理要綱の早期策定
② 災害発生後、納期限未到来分につき、申請によらない納期限の延長―地域指定による納期限の延長
③ 災害発生後、新規課税分につき、納税(納付)通知と減免決定通知書もしくは減免の案内文と減免申請書の同時送達―簡易な手続による罹災の認定、罹災証明書の迅速な発行及び職権による減免決定

第3 災害減免基準の早期策定 ― 個別減免条例の制定は必須でない

 地方税の減免は、条例によらなければなりません(地税法72の62、323等)。もっとも、税条例に、「災害等により、減免を必要と認められる者」について、減免をすることができる旨の一般的な規定があれば、個別具体的な減免要件、減免割合は、条例の施行規則、事務取扱要綱に委ねることが可能です。

 この点、災害減免通知の「第3減免に関する取扱い例」では、「災害が地方団体の区域内に広範囲に発生した場合には、地方団体の長は、(略)その都度条例を定めて減免することとする」との記載があります(注6)

(注6)市町村税務研究会編集・加除式「市町村実務提要」642頁「町村税の災害減免条例について」も同旨(ぎょうせい)

 災害が広範囲に発生したときは、限られた数の職員を被災者の救助・生活支援、災害復旧のために優先的に配置する必要があるところ、議会を開催して減免条例の制定に割く余裕はありません。災害が広範囲に発生した場合でも、既存の税条例の災害減免規定に基づき具体的な減免基準・割合・額は、施行規則もしくは要綱に委ねて、個別災害減免条例を制定せず、減免を行うことについては、法令に違反する点はありません。

 なお、税条例の施行規則・減免要綱であっても、災害発生後、長が作成している余裕はありません。災害が発生してからではなく、事前に平時において定めておくべきです。

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