特別企画 趣旨から再確認する自治体債権の減免の実務 〜番外編〜

地方自治

2024.01.31

 

第4 納期限及び減免申請等の期間の延長指定

 

1 納期限延長の目的と必要性

 (1) 納期限の延長
 減免申請は、原則として納期限を過ぎて行うことができません(ただし、災害減免では納期限後の減免申請が可能であることは後述)。市町村住民は、災害発生後、2、3か月は、生活の維持と復旧に意識が集中し、納税する心理的、時間的、経済的な余裕を失っています。納期限が延長されなければ、無意識のうちに納期が過ぎて、減免申請の機会を失います。そこで、減免申請期間を幅広くとるために納期限を延長して、減免申請の機会を逸しないようにすることが必要になります。
 また、納期限を延長することによって当初納税通知書の交付を数か月以上先に延長することが可能となります。自治体にとっても、減免申請を受け付ける時間、あるいは職権で減免を決定する時間的な余裕が生まれます。

 (2) 減免申請期間の延長
 納期限を延長すれば、それに伴い減免申請期間も延びますが、納期限を過ぎてから減免申請する者もあるので減免の申請期間自体を延長することも必要です。

 (3) 延滞金発生の抑止
 減免が認められれば、減免された部分については、延滞金は生じません。しかし、住宅被害の程度が半壊、準半壊の場合、個人住民税や固定資産税の全額免除を受けることができません。減免されずに残った税には延滞金が発生します。延滞金の発生を抑止するためにも納期限の延長が必要です。

2 納期限及び減免申請期間の延長手続

 (1) 申請による延長
 当初納税通知書を送達した後、災害が発生し、災害が発生した年度内に納期限が到来する地方税(納期未到来分)がある場合、その納期限の延長が必要となります。
 地方団体の長は、災害等やむを得ない事情があるときは、地方税に関する申告、申請、請求その他の書類の提出、納入の期限を延期することができます(地税法20の5の2①)。これにより、減免申請書の提出期限も延長されます。納税義務者の申請により納期限を延長することも可能ですが、災害が広範囲に及ぶときは、納税義務者の申請により個別納税義務者ごとに延期するのではなく、次のように地域指定により延期するべきです。

 (2) 地方団体の長による地域指定
 災害により、申告・申請期限、納期限までにそれらの行為をすることができないと認められる者が、地方団体の全部又は一部の地域に広範囲に生じたと認める場合、地方団体の長は、条例の定めるところにより、職権で災害がやんだ日から2か月以内の期日を指定して画一的に納期限を延長することができます(災害減免通知(別添)第1、一、(1)(注7)
 各自治体の税条例には、納期限の延長規定があることから、災害発生時と納期限が切迫している場合、躊躇することなく、職権により納期限を延長する必要があります。

(注7)災害による納期限の延長の要件は、本誌2023年10月号110~112頁で詳述

 (3) 国税庁長官による地域指定
 地方団体の長の判断によらず、国税庁長官が地域及び期日を指定して画一的に期限を延長する(国税通則法施行令3①)場合には、地方団体の長は、その期限の延長の措置に準じて画一的に期限を延長することとされています(災害減免通知(別添)第1、一、(2))。能登半島震災では、令和6年1月12日付総税企第6号国税庁長官官通知により富山県、石川県が対象地域に指定されました。
 期限が延長され一つの地方団体内での中小河川の氾濫・堤防の決壊、山間部の土砂崩れ、数軒の火災等では、国税庁長官の地域指定は行われないので、地方団体の長による機動的な職権による地域指定が必要となります。

 (4)延長期間
 地方団体の長もしくは国税庁長官の地域指定による延長期間の始期は、「災害のやんだ日から」です。災害の場合、「やんだ日」とは、震災・火災の発生のときではありません。災害が引き続き発生するおそれがなくなり、災害復旧に着手できる状態になったとき(注8)、もしくは災害が引き続き発生するおそれがなくなり、その地域内の納税者の大部分が申告、納付等の行為をするのに差し支えないと認められる程度・状態に復した日をいいます(注9)。復旧工事が始まっても、実際に交通、通信等のインフラが回復しなければ、現金納付、振込納付はできないことから、納付する環境が整った時が、始期となります。
 災害が継続している間、交通・通信が途絶している間は、納期限を延期する旨、公示し、やんだ日と認められる日に改めて、始期及び期間を定めて延期の決定・公示を行うことになります。

(注8)昭和39年2月3日付け国税庁通達「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(間接国税関係)の取扱いについて」7条関係4
(注9)昭和53年6月21日付国税庁通達「災害被災者に対する租税の軽減免除、納税の猶予等に関する取扱要領」13頁

第5 特別徴収の留意点

1 特別徴収で留意が必要な理由

 (1) 減免対象となる租税債務の消滅の回避
 原則として、租税の減免は、租税債務が存在していることが前提となります。納付済みの税額について、減免決定して遡及的に納税義務を免除し、還付することはできません(ただし、災害減免については、納付後も、減免可能であることは第8の3で記載します)。
 納期限が延長されていても納期前納付は可能であり、特別徴収義務者が、特別徴収して納付してしまうと、租税債務は消滅して、減免できなくなる可能性があることから、特別徴収を止める必要があります。

 (2) 被災による増加した支出への補填
 災害が発生した場合、傷害の治療、家屋、家財の修繕、購入等の支出の増加を招きます。また休業により、収入の減少も生じます。そこで、早急に特別徴収を停止して、復旧のための費用に充て、あるいは減少した収入に補填する必要があります。
 そこで、特別徴収により納税されている場合、特別徴収を止めるため、次の点に留意しなければなりません(注10)

(注10)平成23年3月28日付総務省自治税務局長通知「平成23年東北地方太平洋沖地震による被災者に対する地方税の減免措置等の取扱いについて」第2Ⅱ1参照。本ふえん稿第6、第9の記述は、右通知を敷衍している点が多い。

2 給与からの特別徴収 ― 納期限の延長の周知徹底

 本稿第4で記載した方法で納期限の延長が行われた場合、特別徴収義務者に対して、個人住民税の給与からの特別徴収については、当面実施する必要がない旨を周知徹底することが必要です。納期限が延長されても、納期前納税は可能なので、特別徴収義務者が納付して租税債務が消滅しないようにするためです。この周知後、個人住民税の減免を行い、減免後の税額を特別徴収義務者に通知することになります(地税法321の6)

 なお、給与所得からの特別徴収は、毎年度の初日に市町村が特別徴収義務者を指定して行いますが(地税法321の4)、一度特別徴収義務者を指定すると年度の途中で、市町村の側からこの指定を取り消し、特別徴収から普通徴収に変更することはできません。ですので、右記のように納期限を延期して、減免を行うことが必要になります。

 新年度課税分の個人住民税の給与所得からの特別徴収額の通知は、5月31日までに行わなければなりませんが(地税法321の4②)、この税額の通知により特別徴収義務者に納税義務が発生することとなるため、特別徴収税額の通知を延期して(地税法321の4③本文)、特別徴収義務者の納税義務の発生を先延ばし、特別徴収を止めることが必要になります。特別徴収の税額通知を延期した後に個人住民税の減免を行い、減免後の税額を「給与所得に係る特別徴収額」として特別徴収義務者に通知することになります。

3 公的年金からの特別徴収の停止

 個人住民税、国民健康保険税(料)、介護保険料の公的年金からの特別徴収の停止は、特別徴収の停止を通知することで年度の途中でも行うことができます(地税法321の7の7②、国民健康保険法施行規則32の26五、介護保険法施行規則154四)。災害発生後の年金の支給日に間に合うよう速やかに特別徴収の停止通知を年金保険者に行う(地方共同法人地方税共同機構を経由して通知する)必要があります。

 東日本大震災では、公的年金からの特別徴収の停止は、個人住民税と国民健康保険税(料)とあわせて市町村単位で一括して行われました(注11)

(注11)平成23年3月28日付総務省自治税務局長通知「平成23年東北地方太平洋沖地震による被災者に対する地方税の減免措置等の取扱いについて」第2Ⅱ1(1)③及び第2Ⅱ6(イ)

 公的年金からの特別徴収の停止通知が間に合わず、特別徴収されてしまった場合、特別徴収額が、減免後の税額を超えるときは、超えた額につき過納金として、納税義務者に対して還付します(地税法17)

 公的年金からの特別徴収を停止した後は、普通徴収により徴収することとなります(地税法321の7の10①)。停止後、個人住民税、国民健康保険税(料)、介護保険料の減免を行い、納付義務者に対して減額した納付通知書と減免決定通知書を交付することになります。

 また新年度課税の公的年金からの特別徴収額の通知は、7月31日までに行わなければならず(地税法321の7の5①)、通知によって、年金保険者に特別徴収義務が生じます。7月31日までに特別徴収額の通知ができなければ、当該年度1年を通して普通徴収となります。

 そこで、7月31日までに減免した税額が確定していれば、年金保険者にその額を特別徴収通知として通知します。減免額が、確定していなければ、特別徴収額の通知を行わず、普通徴収の方法で徴収することになります。普通徴収による場合、納期限を延長して、減免額確定後、納税通知書を交付することも可能です。

第6 罹災証明申請時における減免申請書の交付

 罹災証明の申請者全員に対して、罹災証明申請時に災害減免が可能な債権すべてについて、減免申請書を渡します。減免申請書の印刷が間に合わなければ減免申請の案内文だけでもよいので渡します。具体的には、市町村であれば、個人住民税、固定資産税、国民健康保険税(料)、介護保険料、後期高齢者保険料、事業者税、水道料金等の減免申請書を渡します。もっとも、明らかに半壊に至らない住家に該当する場合の自己判定方式(現地調査なし写真判定)の罹災証明申請では、減免の可能性はほとんどないことから、減免申請書を交付する必要はありません。

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