学制150年の歴史を振り返る

中澤 貴生

学制150年の歴史を振り返る 第6回 ― 項目別に見る直近30年間の変遷 ―

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2022.12.08

『学制百五十年史』市販版の刊行を前に、学校制度を巡る150年の歴史を7回に分けて簡単に概観する連載をしています。
前回までは時系列での振り返りでしたが、今回は、「項目別」の観点から改めて平成4年(1992年)以降の30年間を、学校体系、教育理念、機会均等、教育行政等で見てみましょう。時代社会の変遷に合わせ、学校教育がより多様な形へと変化しています。

 

【学校体系】新しいタイプの学校制度の登場

 学校体系に関しては、6・3・3・4制(小学校・中学校・高等学校・大学)の単線型の学校制度を基本としつつ、個性、能力適性、興味関心、進路選択等の多様化に対応するため、新しい校種や学科の導入などが行われました。なお、多様に分岐した先でも進学への道は開かれています。
 学校における一貫教育の推進を図るため、修業年限6年の中高一貫の「中等教育学校」、修業年限9年の小中一貫の「義務教育学校」の制度化が行われたほか、高等学校では普通科及び専門学科と並ぶ新しい学科である「総合学科」、学年による教育課程の区分を設けない「単位制高等学校」がすべての課程において導入可能となりました。また、障害児教育については、盲学校・聾学校・養護学校が「特別支援学校」へ一本化されるとともに、小中学校等の特殊学級が「特別支援学級」に改められています。さらに、小学校就学前の教育については、幼稚園、保育園に加え、内閣府との連携の下、幼児段階の教育機能と保育機能を併せて持つ「認定こども園」制度が新たに導入されました。
 高等教育では、法科大学院、公共政策大学院、会計大学院、教職大学院など高度専門職業人の養成を重視する「専門職大学院」、ファッション関係など実践的な職業教育に重点を置く「専門職大学」「専門職短期大学」の制度化が行われたほか、特に優れた資質を有する者に早期に入学・卒業機会を与えるいわゆる「飛び入学」「早期卒業」の拡大も図られてきました。
 一方、設置主体に関しても、一定の要件の下、株式会社立やNPO法人立の学校の設立が認められるようになったほか、国立大学の法人化も行われ、地方独立行政法人法の制定を機に、公立大学の振興も進められるようになりました。

 

【教育理念】教育目的・教育目標の明示

 改正教育基本法において、教育は「人格の完成」を目指し平和で民主的な国家及び社会の形成者である国民の育成を期して行われるものであるとの教育目的が改めて示され、併せて、5つの「教育の目標」が新たに示されました。これにより、知・徳・体を総合的に育む「日本型学校教育」の姿がより具体的で明確なものになったと思われます。
 その後、学校教育法改正や学習指導要領改訂などを経て、現在は、「社会に開かれた教育課程」を重視しながら、これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を活かし、子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することや、知識及び技能の習得と思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視しつつ、知識の理解の質を更に高め、確かな学力を育成すること、道徳教育の充実や体験活動の重視、体育・健康に関する指導の充実により豊かな心や健やかな体を育成することなどを基本とする方向となっています。
 国際理解、情報、環境、人権、男女共同参画、消費者教育などの現代的な学習課題に加え、主権者教育などを通して公共の精神の尊重への配慮も図られ、前述の「特別の教科 道徳」の新設、日本の伝統や文化に関する学習、ボランティア活動などの社会奉仕体験活動・自然体験活動の充実、さらに、部活動ガイドラインの策定、学校安全の強化などの施策も進められています。

 

【機会均等・男女平等】教育無償化の拡大、男女共同参画など

 教育の機会均等については、大学全入の時代を迎えつつあると言われる中、より実質的な教育機会の確保を図るため、学校教育の無償化が拡大され、家庭における教育費負担の軽減が進められました。
 義務教育である小・中学校段階での就学援助等については従来から行われてきましたが、それに加えて、前述した「高等学校の実質無償化」や「幼児教育・保育の無償化」の実現が図られたほか、大学等の高等教育においても「修学支援新制度」が導入されるなどの取組が進められています。また、教科書無償制度や義務教育費国庫負担制度など、教育の機会均等と深い関係を有する仕組みについて、いくつかの改革や見直し論議はあったものの、制度の根幹は堅持されています。
 不登校への対応については、不登校児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実施する「不登校特例校」制度が導入されるとともに、いわゆる教育機会確保法の制定により教育支援センターやフリースクール、夜間中学等への支援策も講じられてきています。
 障害のある児童生徒については、特別支援学校制度が創設されるとともに、個々の特別支援学校が対象とする障害種別は設置者において判断することとされました。さらに、小・中学校などにおいても、発達障害を含む障害のある児童生徒等に対する特別支援教育を推進することが法律上明記されました。
 男女平等については、人権、男女共同参画などの現代的な学習課題に対する教育が進められ、4年制大学進学率の男女差も徐々に小さくなりつつあるものの、教授をはじめとする大学教員に占める女性の割合などは必ずしも十分なものとは言えない状況にあります。また、文部科学省幹部が私立大学医学部での不正入試に関わる受託収賄容疑で逮捕された事案を機に発覚した、大学医学部入試での女性への不公正な扱いなど、男女平等に関してはまだまだ多くの課題が残っていると思われます。 
 近年、性犯罪・性暴力対策強化のための新法も制定されるようになってきていることを踏まえつつ、生命を大切にし、子供が性犯罪・性暴力の加害者や被害者、傍観者のいずれにもならないための「生命(いのち)の安全教育」等の施策を推進していく必要があります。

 

【教育行政】教育委員会制度の見直し、地域と学校の連携・協働

  教育行政については、地域住民の意向の反映(レイマンコントロール)への期待に教育委員会が十分応えきれていない事案も見られたことから、制度改正が行われ、知事や市町村長を通じた教育施策大綱や総合教育会議による関与もできるように改められました。
 一方、学校運営の場においては、保護者や地域住民等が一定の権限を持って参画できるよう、「学校運営協議会」(いわゆるコミュニティ・スクール(地域運営学校))の制度が新たに設けられたほか、地域学校協働活動の充実も期待されています。
 さらに「学校評価」(自己評価・外部評価)の制度が導入され、教育活動その他の学校運営の状況について自己評価等を実施しその結果を公表するとともにそれに基づいて改善を図っていくこと、開かれた学校づくりを推進し学校としての説明責任を果たしていく上で保護者等に対して積極的に情報を提供することが求められるようになっています。
 高等教育においても、新設の際の事前規制から、規制緩和と事後評価の充実へと重点が移っており、新たなタイプの大学・学部等の新設や短大・専門学校から4年制大学への移行などが見られたほか、外部評価機関からの評価を受ける「認証評価」制度が導入されるようになりました。
 近年の政府全体における行政改革、地方分権、規制緩和等の進行は大きな影響を与えており、例えば、学校の学級編成においても一定の範囲内で地方の判断による弾力的な運用が可能となったほか、給与額や教職員配置に関し国が定めた教職員給与費の総額の範囲内で基本的に自由に決定することができる「総額裁量制」の導入、市町村費負担での教職員の任用の容認などの弾力的な対応も図られています。
 各地域での教育水準、教育条件の維持向上について、それぞれの地方自治体や学校、地域住民の果たす役割や責務がますます重くなってきていると思われます。

 

●Profile

中澤貴生(なかざわ・たかお)
京都大学法学部卒業。昭和62年文部省入省。大分県教育委員会総務課長、初等中等教育局小学校課課長補佐、内閣官房中央省庁等改革推進本部参事官補佐、岐阜大学教授、内閣官房行政改革推進室参事官、日本学術会議参事官などを歴任。令和2年より『学制百五十年史』の編纂事務に携わる。令和4年、定年退職。

 

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京都大学法学部卒業。昭和62年文部省入省。大分県教育委員会総務課長、初等中等教育局小学校課課長補佐、内閣官房中央省庁等改革推進本部参事官補佐、岐阜大学教授、内閣官房行政改革推進室参事官、日本学術会議参事官などを歴任。令和2年より『学制百五十年史』の編纂事務に携わる。令和4年、定年退職。

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