message 学習者中心の学習になぜICTは必要か

トピック教育課題

2022.12.07

message 学習者中心の学習になぜICTは必要か

大阪教育大学准教授
寺嶋浩介

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

 

 GIGAスクール構想において導入されたICT端末は、学習者中心の学習において活用されることで効果を発揮する。その立場から本稿では、学習者中心の学習をどのように捉えるか、なぜそこにICTを活用することが望ましいのかということについて説明する。

学習者中心の学習

 ライゲルースら(2020)は、学習者中心の学習として、以下のような原則を示している。

(1)達成基盤型のインストラクション:学習者の進捗は、時間よりも学習進度に基づくべきである
(2)課題中心型のインストラクション:インストラクションは、真正な課題のパフォーマンスを中心に構成すべきである (3)個人にあわせたインストラクション:課題遂行時のインストラクションは、個人にあわせるべきである
(4)役割の変化:教育者・学習者・テクノロジーの役割を転換すべきである
(5)カリキュラムの変化:カリキュラムを拡張・再構成すべきである

 (1)や(3)に関しては、多くの方がおそらく理想とはするが、40人もいる教室でどのようにできるだろうか、ということを一度は考えたことがあるのではないだろうか。(2)は最近パフォーマンス評価などを通してよく言われることである。(5)については、最近ではSTEAM教育など一つの教科の枠組みには当てはまらない内容が提案されている。

 以上を踏まえながら、(4)での教師の役割について考えてみる必要がある。ここでは、例えば「学習者のゴール設定を支援すること」「学習者の行う自身の課題設計や選択を支援すること」「課題の遂行を促進すること」などが挙げられている。要は、学習者が自律的に行うことを、教師はどのように支援するかということを考えて実行するということが、学習指導において求められている。

 また、学習者にも役割変化が求められる。例えば、学習者は能動的であること、自己調整スキルを発揮すること、学習者であると同時に指導者でもある(他の人に教えることにも関わる)ことなどが挙げられている。

責任の移行モデルと学習者の責任

 前述した「学習者中心の学習」を説明されても、教師にとってみれば全てを子どもに委ねるわけにはいかないと思うだろう。また、子どもの発達段階によってもどのように実施するかは異なってくるはずである。「学習者中心の学習」といっても、これは目指すべきところで、端末を手にしたからといって、急にその段階へシフトさせることはできない。

 学習者中心の学習へと移行するために、フィッシャーとフレイ(2017)による「責任の移行モデル」が参考になる。責任を教師が持つのか、子どもが持つのかという視点から、4段階からなる責任の移行を提案している。

(1)焦点を絞った指導:教師が目的を設定する、見本を示す(実演してみせる)、考え聞かせをする、気づくことなど
(2)教師がガイドする指導:教師が質問する、ヒントを与える、指示をすることなどによって、数人の子どもがスキルや知識を身に付けるための足場をかけること
(3)協働学習:子どもが学んだ知識やスキルを応用し、互いに助け合いながら、さらに豊かな学びを創り出すこと
(4)個別学習:教えられた(学んだ)ことを応用すること

 (1)〜(4)において、責任の所在が変わってくる。(1)にはより教師に、(4)へ行くに従って子どもへと移行していくことが想定されている。

 短期的な単元レベルの授業、長期的な年間指導計画等においても、この四つの段階を行きつ戻りつしながら授業を作っていく必要がある。

 教師は、学習者が責任を負う学習場面を設けられるように、教科内容だけではなく、学習者に学び方を身に付けさせることが求められる。

学習者中心の学習とICTの活用の接点は

 さて、学習者中心の学習はICTの活用にどのようにつながるのか。これまで、理想像として学習者中心の学習を思い描いても、学習者が協働学習や個別学習を進めるための環境が不十分であった。そこで教師が多大な努力を払って教材を整備したり、子どもに個別に対応するなどしてきたが、多くの教師には難しい問題であった。

 1人1台のICT環境は、この課題を乗り越えることができる可能性がある。それは、以下のようなメリットがあるからだと言える。

(1)自分で調べたい情報を入手できる
(2)得た情報をまとめて、様々な方法で表現することができる
(3)まとめた情報を他者と共有し、相互に活用することができる

 情報の受発信が可能なツールとしてICTを活用することができるため、これまで手取り足取り教師が準備をしていたところから離れて、学習者に主導権がある活動がやりやすくなるのである。

 このことを充実させるためには、もちろんICTを渡すだけで教師の役割は終わらない。ICTを活用して学習を進めていくためのスキルを身に付けさせることを考えないといけない。狭義のスキルとしては、タイピングやアプリの基本的な活用といったICTスキルがあるだろう。しかし、ここにとどまらず学習をどのように進めていけばよいのか、そもそも学習とはどういうことなのか、などを理解させる必要があるだろう。そして学校の学習だけではなく、今後私たちの人生において学習をすることがいかに重要で、そこにICTが欠かせないのかをときには経験を通して学習させることが求められる。

 そのためには、ICTが私たちの中で必要不可欠な存在であることや新しいテクノロジーがどのような可能性を持つのかということを常に考えながら日々を過ごしたい。教育は大きく未来と関わっているという視座を持って、子どもに関わりたい。

[引用文献]
・ダグラス・フィッシャー、ナンシー・フレイ著/吉田新一郎訳『「学びの責任」は誰にあるのか「責任の移行モデル」で授業が変わる』新評論、2017年
・C.M.ライゲルースほか編/鈴木克明監訳『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』北大路書房、2020年

 

 

Profile
寺嶋浩介 てらしま・こうすけ
 大阪教育大学高度教職開発系准教授。専門分野は教師教育学(特に教育工学、メディア教育)。テーマとしては、教師のICT活用指導力の育成、教員研修のデザインと評価に興味がある。

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集:GIGAの日常化で変わる授業づくりの今とこれから

おすすめ

教育実践ライブラリVol.2

2022/7 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中