異見・先見 日本の教育 画一性から抜け出さんとあかんのとちゃうか〜 せやろがい!

『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト

2022.04.20

画一性から多様性へ:組織を強く柔軟に

 学習指導要領で充実が図られている主権者教育にしても、いろんな意見を認め合う多様性にしても、現状あまりうまくいっていないのは、結局、校則の影響が大きいのではないかと感じています。「制服はこの服をみんなでこのように着ましょう。はみ出てしまった人は指導の対象ですよ」「髪型もこうしましょう」と。これは多様性とは真逆の考え方でまさに画一性じゃないですか。ましてや自分の生まれ持った髪の毛の色を変えてまで黒くさせるとか、ジェンダーの多様性も謳われている中、男はズボン女はスカートみたいな固定観念で、それ以外の性的な属性を持った人たちに対する思考が停止している状況もみられます。

 やはり校則で「みんな一緒にしなさい」と教えているのに、「一人一人個性を大事にしなさい」と言われてもそれは難しいと思うし、「自分の意見を主張しなさい」と言われても、「はみ出るのが怖い」となっちゃうと思うので、違いを認め合えないとか、ちょっと違う意見の人がいたら浮いてしまったりたたかれたりするのは、「こういうところから来てるんちゃうかな」と強く感じます。

 生徒が「この校則おかしいな」とか「理不尽やな」と思っても従うしかない。「先生おかしくないですか」と言っても、「いや、こういうもんだから」と言われて変えられない。そうすると、制度やルールとかいうものに対して“学習性無力感”のようなものが起こり、「俺らがこれ変えてもどうせ変わらないでしょ」と。これはもう「俺らが一票投じても政治って変わらないでしょ」とまったく同じもので、自分たちで話し合ったり考えたり一票投じたり動いたりすることで、おかしな決まりやルールって変えることができるという仕組みが学校の中になければ、主権者意識みたいなものは芽生えづらいと思いますね。

 他方で、面白い取組をされている学校の話を聞いたことがあります。生徒会で役員選挙が行われて、選ばれた人は保護者の代表と先生の代表と三者で学校のことを話し合う場を持つ、と。その中で「この校則がおかしいからこうしていきたい」と訴えた生徒の代表にみんなが一票を投じて、その意見を保護者と先生との話し合いの場に持っていって、実際に校則が変わった、と。「それってすごく貴重な経験だよな」と思います。

 学校が画一性から抜け出せていない理由として、当然たくさんの生徒を指導しないといけないから効率的なことを考えていくと画一的なほうが管理しやすいと思うし、教員の働き方が非常にきついから一人一人に目をかけて個性を大切にしていたらリソースが追い付かないというところもあるはず。この問題を教員だけの責任にしてはいけないし、働く環境というものも整えていかなくてはいけないでしょう。

 そして、多様性がある社会や組織のほうが強いという意識があまりないんじゃないかということも感じています。画一性を持たせて同じような属性、同じような環境の人達を集めて管理しやすいほうが組織として強いという考え方は実はもう終わっています。

 人口ボーナス期には、多くの人を一気に雇って男性でフルタイム働ける似たような人を揃えたほうが管理しやすいし、バリバリ働かせてやったほうが給料も伸びやすかったのですが、今は人口が減って働く人より支えてもらう人のほうが多い、いわゆる“人口オーナス期”という時期に突入してしまっていて、こうなってくると介護をしながら働く人や子育てをしながら共働きで働かなければいけない人も増えてきます。フルタイムで働ける男性しか雇わないと、組織の中に適合する人材が減ってきて働ける人が少なくなってくるわけです。

 そして新しいサービスを考えるというとき、顧客となる人に介護している人や子育てしている人が増えてきているのに、その人たちの目線や需要を分かる人が組織の中にいなかったら対応できないんですよね。自分の強みを殺して回りに合わせていこうというのは、むしろ日本社会にとっても損失だし、本人の生きづらさにとってもデメリットしかないし、だから画一性を求める教育から多様性で組織を強く柔軟にしていくという考え方がもっと教育界にも浸透したらよいのではないかと思います。

 僕は現場にいないので詳しくは分かりませんが、学校教育全体の評価基準みたいなものには、うまく生徒を管理していじめもいさかいもない教室を作っている先生が優秀、そういう学校を作っている校長が優秀みたいなところがあるのではないでしょうか。それって管理するのがうまいってことだけで、育てるのがうまいってことなのかどうかは疑問ですよね。

 学校や学級によってもこういう生徒を育てたいというコンセプトが違うので一概には言えませんが、うまく管理できている教員の評価が高くなるというところが画一性を生んでいる気もするので、もしそういうところがあるのであれば学校とか教員を評価するものさし自体が何かちょっと違うものになっているのではないかと思います。

ユーチューバーとして芸人として、これからも発信を

 目下、人類の一番の課題といえば、温暖化とそれにどう対応していくかということだと思うので、今後はそういう発信が多くなってくるかもしれません。需要という面もありますが、需要ばっかり追いかけていると数字にばっかりとらわれてしまうところもあるので、あえて“自己満”というところを大事に今はやっています。

 SNSでの発信はお笑いと別物というわけではなく、芸人として全部やっているので必ず面白いポイントは作るように自分としては心掛けていますし、その中で一市民として社会にどう関わっていくかということをまじめに考えていたりもします。

 学校に呼ばれて「このテーマで話してください」と言われることも結構ありますね。多いのは人権とか自分の意見をどう言えるようになるか、あとはネットの使い方、進路教育、夢をどう追いかけていくか、職業講話みたいなものとか……。「お願いします」といわれたらなんでも「やります!」って言うので、結果的に幅広くなってきます(笑)。

 僕自身もエラそうに言える人間ではないですし、エラそうに言える人間なんて逆にいないとも思いますが、自分の失敗談などもしっかり語っていって、「こういう考え方で改めるようにしたよ」ということも入れるようにしつつ、上から目線の説教じゃなくて「まだまだ自分も発展途上で成長していこうと思っているので、みんな一緒に成長していきましょうよ」と、「成長するには自分のダメなところとか変えなきゃいけないところとかを直視しなくちゃいけなくてやはりしんどいので、それって仲間がたくさんいたほうがはかどることでもあるので、アップデート仲間を増やしていきたいぞ」っていう感じで話すことが多いです。

 本当に恥多い人生なので(笑)、恥で終わらさず何かを学びながらいけたらいいなとは思っています。

(談)

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せやろがいおじさんのお笑いコンビ
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Profile

榎森耕助 えもり・こうすけ
1987年奈良県生まれ。2007年にお笑いコンビ「リップサービス」を結成後、ツッコミ担当として主に沖縄で活動。2017年から「せやろがいおじさん」としてYouTubeやTwitterへの動画投稿を始め、赤Tシャツ・赤ふんどし姿で社会問題に対しての問題提起を行う。2021年3月現在、Twitterフォロワーは約30万人、YouTube「ワラしがみ」の登録者数は約32万人。教職員組合での講演多数。特に「教職員の働き方」などをテーマにした講演が好評。中学生との人権をテーマにした対談イベントへの登壇や学校での講話も中高生から高い満足度を得ている。2020年に書籍『せやろがい!ではおさまらない僕が今、伝えたいこと聞いてくれへんか?』(ワニブックス)を発売しAmazonのカテゴリランキング1位を獲得。

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