Q&Aスクール・コンプライアンス
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q115 学齢児童生徒をインターナショナルスクールに就学させることはできますか。
学校マネジメント
2021.03.04
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第4章 学校運営のコンプライアンス
菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員
(『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月)
Q115 学齢児童生徒をインターナショナルスクールに就学させることはできますか。
◯外国人学校に就学
インターナショナルスクールや中華学校、韓国学校などは、「外国人学校」と呼ばれています。外国人学校は、日本に滞在する外国人の子どもを対象として、母国語(又は英語)による教育を行う学校です。したがって、本来、日本人の子どもは入学対象としていません。
帰国子女が現地で習得した語学力を維持する目的などから、インターナショナルスクールに通わせるケースもありますが、近年は帰国子女でないのに、語学力を身に付けさせたいとか、国際的な雰囲気の学校で学ばせたいという理由で、インターナショナルスクールや中華学校に子どもを入学させるケースがあります。
外国人学校は、学校教育法1条に基づく学校でないので、日本人の保護者が子どもをそこに就学させても、就学義務を履行したことにはなりません。つまり、法的には就学義務に反するおそれがあります。
教育委員会がその事実を知ったときは、保護者に対し公立の小・中学校に就学するよう督促することになります。就学義務履行の督促を受けても履行しない保護者には10万円以下の罰金刑が課せられることになっています(学校教育法144条)。もっとも、通常、教育委員会は督促はしても、告発まではしていません。
◯親の教育の自由
例外的に日本人でもインターナショナルスクールなどに合法的に就学できる場合があります。それは帰国子女で日本語が十分できない場合、教育委員会に申請して、就学義務の猶予・免除を受けた上で、インターナショナルスクールなどに就学させるケースです。これは文部省(当時)の行政実例で認めています(「学齢と進級についての法的解釈について」昭和49年12月6日初等中等教育局長回答)。
ただし、学校教育法は、就学の猶予・免除の要件を「病弱、発育不完全そ の他やむを得ない事由」(18条)に限っています。「やむを得ない事由」に該当するのは、児童生徒の失踪や少年院などへの入院などのほか、前述の日本語ができない帰国子女に限定しているので、単にインターナショナルスクールなどに入学させたいという理由で、就学義務の猶予・免除を受けることはできません。
しかし、近年、親の教育権(教育の自由)を根拠にインターナショナルスクールなどへの就学を正式に認めるべきだという主張が出ています。すなわち、親には、憲法上の基本権として、親の教育権(教育の自由)が保障されており、親は子どもの教育に際して、何が子どもの最善の利益に沿うかを選択する権利をもっているという主張です。欧米ではこうした考えを裁判所も支持し、アメリカやイギリスでは、親の「教育の自由」を尊重して、親が子どもを家庭で自ら教育するホーム・スクールやホーム・エデュケーションを容認しています。
こうした状況を受けて、超党派の「フリースクール議員連盟」が結成され、フリースクールの制度化が検討されましたが、平成28年に制定された「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」では、不登校児童生徒の「休養の必要性」(13条)と多様な教育機会の確保を規定したものの、フリースクールの制度化までは認めていません。
Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。