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校長室のカリキュラム・マネジメント

末松裕基

校長室のカリキュラム・マネジメント[最終回]学校経営についての認識が深まりましたか

NEW学校マネジメント

2020.08.28

校長室のカリキュラム・マネジメント[最終回]
学校経営についての認識が深まりましたか

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.12 2019年4月

東京学芸大学准教授
末松裕基

 「人生や仕事での主要な関心は、当初のわれわれとは異なる人間になることです。ある本を書き始めたとき結論で何を言いたいかが分かっているとしたら、その本を書きたい勇気がわく、なんて考えられますか。ものを書くことや恋愛関係にあてはまる事柄は人生についてもあてはまる。ゲームは、最終的にどうなるか分からぬ限りやってみる価値があるのです。」

 これは思想家のミシェル・フーコーが述べた言葉です(『自己のテクノロジー-フーコー・セミナーの記録』岩波書店、2014年、2-3頁)。わたしも困難にぶつかったり、仕事で迷いが出たりしたときにこの文章を読み返すことがあります。

 この連載も毎回、どのように着地するか、最初から全体の見通しを持たない形を意識して、その時々で重要と思えることを、ただ一貫性も保ちながら、日々の仕事の難しさを解きほぐしたり問い返したりすることができるようにということを大切にして書いてきました。

 さて、もう1年ほど前になりますので、この連載をいくつか振り返ってなにを考えてきたかを少し見てみたいと思います。

1年間でなにを学んだか

 初回では、みなさんとの率直な対話を心がけることを述べました。特に教育界にありふれる考え方や当たり前とされていることを少し別の角度から捉え直すことで、学校づくりのアイデアやヒントを投げかけ、慌ただしい日々を見つめ直す一助となればと考えました。先生方との本音トークを1年間心がけるようにしました。

 第2・3回では校長先生のビジョンの重要性を現代的な文脈で論じました。「いかだ乗りから水夫へ」時代が大きく転換していることを書きましたが覚えていますでしょうか。「いかだ乗りは川を下るとき、川の流れに乗って進むのでコンパスを必要としない。それに対し、広い海を航海する水夫はコンパスなしというわけにはいかない」という一文がポイントでした。

 そして、ビジョンを描く上での対話の重要性も指摘しました。この忙しい時期だからこそ対話を忘れないように工夫してみてください。自らの考えを押し付けるのではなく、かといって、相手にばかり考え行動することを求めるのでもない。丁寧に言葉を拾い、理念を共に紡いでいく姿勢の重要さを一緒に考えました。

 第4・5回では、いかにリーダーシップや経営を学習するかを考えました。自己内対話に加えて、サークル的に他者と対話をしていくよさとともに、専門性を身につける際の読書の重要性を述べました。みなさんはこの1年でどのように専門性を身につけましたか。つまり、「みなさんは何を読みましたか?」の問いかけでしたね。専門性は一朝一夕には身に付きません。1日5分でもコツコツと自分が理解できないことに向き合う重要性を再度思い出してください。そして、職場を離れた自由な形のサロン的対話もぜひ繰り返してみてください。

 第6・7回では、企業経営との比較から、学校経営や教育組織の特徴を学んでいきました。企業が最後は売り上げや株価で会社が評価されるのに対して、学校の場合は経営における目標が明確でないことを理解しました。企業が「経済活動」をしているのに対して、学校は「教育活動」をしていることから、曖昧で抽象的にしか目標を表現できず、柔軟で高度な思考が求められる学校の経営の奥深さを確認しました。

 第8回ではさらにチームの観点から、第9回ではエビデンスの視点から、第10回はコミュニケーションに特化して、学校経営をさらに掘り下げて理解しました。第11回はさらに広い視点から、社会からどのような学校が期待されているかを考えました。

 いかがでしょうか。多くの視点から学校経営を考えましたが、まだまだたくさん考えるべきことがあります。わたし自身も論じられていないことがたくさんあるとこの最終回で全体を振り返るなかで感じています。

異なる経験と世界に漕ぎだす

 話が少し変わりますが、いま読んでいる本に岩崎航(いわさき・わたる)さんのエッセイがあります(『岩崎航エッセイ集 日付の大きいカレンダー』ナナロク社、2015年)。

 彼は若いときに筋ジストロフィーという難病を患い、吐き気に悩んだり動くことが難しくなったりととてもつらい時期を過ごします。長い間ほとんど家族としか関わりをもたず、中学卒業後、30歳近くまでは同世代との接点もほとんど持たないまま生活していきます。

 そんな彼が29歳のときに、訪問介護を受けるようになってその生活が大きく変わり、暮らしを楽しめるようになったというのです。そして次のように述べています。

 「日常的に、何人もの介護士さん、看護師さんたちと暮らしの時間をともにするようになって、一番変わったのは、なんでもない会話が増えたことです。ようは雑談、おしゃべりです。
 これは、長い間、僕が失っていたものでした。(中略)本来なら接点を持つこともなかったかもしれない他者と出会い、言葉を交しあっていくことに素晴らしさを感じます。
 これまで歩んできた日々も、考え方も違うからこそ、自分一人ではなかなか気づけないようなことや、たがいに持っている異なる経験や、関心、世界にも目を向けることができるし、教わることも多い。なにより面白い。」

 このように彼は振り返り「多様な人と人との関わりの真っ只中に漕ぎだしていくことが、人生を生きるということだと思います」と述べています。苦労や困難を多く抱えた彼だからこそ、その重みのある言葉が自然と出ているのだと思います。彼はその後、人の助けなしには動けなくなっていきますが、詩に生きがいを見出しことばを専門にする仕事をしています。

 この連載を彼のことばとともに終えたいと思います。

「誰もがいろんな思いを抱えながら生きています。今までの自分とは異なる人と出会うからこそ、自分の中の新しい扉も開かれていくのではないでしょうか。」
「他者との人間的な関わりによって、自身の人生を生き生きと甦らせることができる。生きていて良かったと感じる瞬間もたくさん生み出すことができる。僕はそう信じています。」

 みなさんのお話もいつかどこかでゆっくりと聞かせてください。ありがとうございました。

 

 

Profile
末松裕基 すえまつ・ひろき
専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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学芸大学准教授

専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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