【小社新刊より】部活における事故と指導者等の責任を分析――『裁判例からわかる スポーツ事故の法律実務』(静岡県弁護士会/編集)

トピック教育課題

2020.08.27

法令出版社(株)ぎょうせいはこのほど、『裁判例からわかる スポーツ事故の法律実務』(静岡県弁護士会/編集 2020年8月)を刊行しました。本書では、ゴルフ、雪上スポーツ、野球、その他球技、プール、ウォータースポーツ、武道・格闘技、自動車競技・モータースポーツなどの種目ごとに分け、詳細に判例分析が行っています。項目ごとに、加害競技者の責任、指導者の責任、施設の責任、主催者の責任…など、関係者それぞれの立場から見たポイントを解説します。

本書の第2章Ⅱでは「学校における事故」として、約30ページにわたって学校での事故を特別に解説しています。授業における事故、運動会(体育祭)での事故、部活中の事故、スポーツ関連のいじめ、体罰、パワハラなど、詳しく解説しています。ここでは、特に「部活における事故と指導者等の責任」を抜粋し、ご紹介いたします。(編集部)

部活における事故と指導者等の責任

(『裁判例からわかる スポーツ事故の法律実務』177-183頁)

1 指導者の責任

ア 概 要

 (ア) 部活動の位置付け

 従前、部活動は、教育課程外の任意の活動(課外活動)であり、学習指導要領上、学校教育において正規の教育活動の一部と位置付けられている必修の「クラブ活動」とは異なった性格を有しているものとされていた。

 しかしながら、現在は、部活動について「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意する」(学習指導要領総則編)べきであることを理由に、教育課程内の活動としての性格を帯びるに至り、法的にも教職員の職務内容の一つと位置付けられている。この点、判例は、部活動顧問は「生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務のあることを否定することはできない。」とする(最二小判昭和58年2月18日〔判例番号60〕)。

 (イ) 注意義務の内容

 判例は、部活動の指導教諭の注意義務として「危険から生徒を保護するために、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務」があるとする(最一小判平成9年9月4日〔判例番号173〕)。

 そして、部活動中の事故に関する顧問教諭の過失を判断するに当たっては、①部活動の性質・危険性の程度、②生徒の学年・年齢、③生徒の技能・体力、④教育指導水準等、様々な要素を考慮している(判タ955号127頁参照)。

 (ウ) 部活動指導員について

 平成29年4月1日から施行されている学校教育法施行規則の改正により、学校におけるスポーツ、文化、科学等に関する教育活動である部活動に係る技術的な指導に従事する「部活動指導員」が法令上の職種として規定された。これは、当該部活動の競技経験や専門知識のない教員が過度に部活動業務を負担していること等が社会問題となったことから、教員の「働き方改革」を推進する目的で制度化されたものである。

 部活動指導員は、部活動において、校長の監督を受け、技術的な指導に従事するものであるところ、その職務は、実技指導、安全・障害予防に関する知識・技能の指導、学校外での活動(大会・練習試合等)の引率、用具・施設の点検・管理、生徒指導に係る対応、事故が発生した場合の現場対応等多岐にわたっている(平成29年3月14日付け28ス庁第704号「学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)」参照)。部活動指導員は、当該部活動の指導経験や専門の技術・知識を有していることを前提としていることから、従来の部活動顧問や従来の外部指導者とは異なる高度な法的責任を負う可能性が高いと考えられる。

 

イ 裁判例の検討

 (ア) 最二小判昭和58 年2 月18 日〔判例番号60〕

 町立中学校の生徒が、放課後の体育館において、バレーボール部の練習の妨げとなるようなトランポリン遊びをしていたところ、バレーボール部員がトランポリン遊びを中止するよう注意したものの、これに反発したため、バレーボール部員に手拳で顔面を殴られ、左眼を失明したという事案である。

 最高裁は、部活動であっても「それが学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に、生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務のあることを否定することはできない。」としたうえで、顧問教諭の過失が成立するためには「トランポリンの使用をめぐる喧嘩が同教諭にとって予見可能であったことを必要とするものというべき」であるが、「従来からの…中学校における課外クラブ活動中の体育館の使用方法とその範囲」、「トランポリンの管理等につき生徒に対して実施されていた指導の内容」、「体育館の使用方法等についての過去における生徒間の対立、紛争の有無」、「生徒間において右対立、紛争の生じた場合に暴力に訴えることがないように教育、指導がされていたか否か」等を総合検討して判断すべきであるとして、原審に差し戻した。

 (イ) 最一小判平成9 年9 月4 日〔判例番号173〕

 市立中学校1年生の生徒が柔道部の回し乱取り練習中に、2年生の生徒に大外刈りの技をかけられて転倒し、急性硬膜下血腫の傷害を負った事案である。

 最高裁は、柔道指導者の注意義務について「技能を競い合う格闘技である柔道には、本来的に一定の危険が内在しているから、学校教育としての柔道の指導、特に、心身共に未発達な中学校の生徒に対する柔道の指導にあっては、その指導に当たる者は、柔道の試合又は練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うものである。」としたうえで、「大外刈りは、中学校の体育実技の1年次において学習することになっている基本的な投げ技であるが、確実に後ろ受け身をしないと後頭部を打つ危険があるから、大外刈りを含む技を自由にかけ合う乱取り練習に参加させるには、初心者に十分受け身を習得させる必要」があり、「一般に体力、技能の劣る中学生の初心者を回し乱取り練習に参加させるについては、特に慎重な配慮が求められるところであり、有段者から大外刈りなどの技をかけられても対応し得るだけの受け身を習得しているかどうかをよく見極めなければならない」とし、本件では被害生徒が回し乱取り練習に通常必要とされる受け身を習得し、同練習についてある程度の経験を重ねていること等の事実関係の下においては、顧問教諭において、被害生徒を回し乱取り練習に参加させたことに、指導上の過失があったということはできないとした。

 (ウ) 最二小判平成18 年3 月13 日〔判例番号246〕

 私立高校のサッカー部に所属していた1年生の生徒が、サッカー部の試合中に落雷により負傷した事案である。

 最高裁は、顧問教諭の注意義務について「生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから、担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。」としたうえで、「運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていた」という事情のもとでは「上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても、同校サッカー部の引率者兼監督であった教諭としては、上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。」として、顧問教諭の注意義務違反があるとした。

2 校長等の責任

ア 概 要

 裁判例の中には、校長等の注意義務の内容について、指導者の注意義務と並列に解するもの(後述の〔判例番号9、41、94〕)と指導者とは異なる独自の注意義務を認めるもの(後述の〔判例番号267、34〕)が見られる。

 なお、責任の根拠は国公立学校か私立学校かにより次のように分類させる。

 (ア) 国公立学校

 国賠法1条1項の「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれることから(最二小判昭和62年2月6日集民150号75頁、判時1232号100頁、判タ638号137頁)、国賠法1条1項の適用の問題となる。なお、公務員である校長等個人も民法709条に基づく損害賠償責任を負うかについて、判例は一般にこれを否定している。

 (イ) 私立学校

 校長は、学校設置者である学校法人の代理監督者(民法715条2項)による損害賠償責任を負うことがある。

 

イ 裁判例の検討

 (ア) 国公立学校

  a 熊本地判昭和45年7月20日〔判例番号9〕
 市立中学校の柔道部に所属していた中学1年生の生徒が背負い投げで投げられた際、道場畳に前頭部左側を強打し、脳内出血、脳軟化症の傷害を負った事案である。

 裁判所は、「公立中学校の校長ないし教員が中学校における教育活動につき生徒を保護監督すべき義務があることは、学校教育法上明らかであり、…柔道クラブ活動を企画、実施するに際しては、柔道練習に内在する危険性に鑑み、校長、クラブ指導担当教師が職務上当然生徒の生命、身体の安全について万全を期すべき注意義務が存することはいうまでもな」く、「被告Y2が校長として被告Y3を監督すべき義務を負うことは明らかであり、前記のような被告Y3の本件柔道練習についての指導監督について適切な指導助言をしたことの認められない本件においては、その注意義務を怠ったものであるというのほかはない。」として、国賠法1条1項により市の賠償責任を認めた。

  b 鳥取地判昭和54年3月29日〔判例番号41〕
 県立高校の柔道部に所属していた高校2年生の生徒が合宿練習中に頸椎脱臼、脊髄損傷等の傷害を負った事案である。

 裁判所は、「公立高校の校長ないし教員が、校内における教育活動につき生徒を保護すべき義務があることは明らかであり、…柔道部の活動としてなされる本件合宿を計画、実施するにあたっては、校長及び指導教師が、その職務上、参加部員の健康管理及び事故防止について万全を期すべき注意義務を負うことはいうまでもない。」として、校長の注意義務の内容について判断した後、「しかし、…本件の如き柔道競技は、相手方との間での一連の攻撃、防禦の動作を内容とし、したがってそれに付随して諸種の身体的事故が発生しやすいものであり、その意味で本質的に一定の危険性を内在していると解されるから、右にいう注意義務の存否を判断するにあたっても、不可能を強いることとなってはならず、自らそこに相応の限界が存すると言わざるを得ない。」として、本件における事情のもとでの校長の責任を否定した。

  c 大阪高判昭和63年5月27日〔判例番号94〕
 府立高校山岳部員が部活動としての登山中に死亡した事案である。

 裁判所は、「亡Aが入部した昭和58年5月から本件山行までに16回にわたり山岳部の課外活動として登山が実施され、…亡Aもその内5回に参加しており、…いずれの時もOBや上級生が参加していて、同人らから指導を受けていたこと、及び山岳部では毎週1回はミーティングが開かれ、部員や時には参加した顧問から登山に必要な知識や技術についての話などがなされていたことが認められるのであり、部員が高校生であり、同校山岳部が前記のように同部OBと緊密な関係があってその指導を受けうる体制にあったことや登山の知識、技術は現実の山行により習得して行く面が多いことなどを考慮すると、学校長及びB教諭において右認定のような指導以外に特に具体的な指導を行っていないとしても、この点をとらえて指導監督義務を怠ったものと評価するのは相当ではない。」等と判示し、校長らの責任を否定した。

  d 福島地郡山支判平成21年3月27日〔判例番号265〕
 公立中学校の柔道部で、練習中に中学1年生の女子生徒が男子生徒から投げられ負傷して後遺障害を負った事案である。

 裁判所は、「C(教諭、柔道部顧問)及びD(講師、柔道部副顧問)が上記アのとおり、生徒に対する安全配慮を怠ったまま、本件柔道部の指導を行っていたことを放置したB(校長)ら本件中学校の管理職らに監督過失があることも明らかである。」と判示し、校長らの責任を認めた。

 (イ) 私立学校

  a 山形地判昭和52年3月30日〔判例番号34〕
 私立高校の体操部で、高校1年生の部員が体操競技のつり輪運動の練習中、つり輪から2回転宙返り降りを試みた際、これに失敗し、床面に敷かれたセーフティマット上に頭部から落下し、頸椎脱臼の傷害を負った事案である。

 裁判所は、「本件事故当時、亡Aは被告Y1の経営する学校事業の一部門である高校の校長として、同被告から右学校運営に関して包括的に教職員に対する指導、監督権を委ねられていたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、亡Aは、…各クラブの指導担当者の監督指導を行っていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると、亡Aは本件体操部クラブ活動の運営につき使用者たる被告Y1に代って右Bを選任、監督すべき地位にあり、又現実にこれらを行っていたものというべきであるから、民法715条2項にいわゆる使用者に代って事業を監督する者に該当するものというべく、Bの前記不法行為について亡Aが前記三の項に認定したとおりBの体操部指導教師としての生徒の生命、身体の安全を確保すべき職務の指導監督に相当の注意をしていたことはこれを肯認できないから、亡Aはいわゆる代理監督者としての責任を負わなければならない。」と判示し、校長に民法715条2項の代理監督者責任を認めた。

3 予防策・対応策

ア 指導者の予防策・対応策

 最高裁は、落雷事故のように、天災と位置付けられており比較的予見が難しい事故であっても、簡単には指導教諭の予見可能性を否定しないという立場をとっていると考えられる。このことは、指導教諭の中には当該部活動の経験や専門的な知識、技能を有していなくても部活動顧問を強制的に担当させられているという実態が存することを踏まえると、指導教諭に過度の要求を課しているといえなくもない。そのため、指導教諭としては、より慎重な判断や確実な回避措置が求められているといえよう。

 

イ 校長等の予防策・対応策

 紹介した裁判例はいずれも事例判断ではあるが、校長は専権事項として校務掌理権を有し(学校教育法37条4項)、同権利には広い裁量が認められていることから、校長の裁量に基づく事実認識や判断過程に著しく不合理な点があり、その裁量を逸脱濫用する場合には違法となると考えられる。そのため、校長は、部活動顧問には当該部活動の種目の経験や専門知識を有した教諭をあてる等の対応が求められる。

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