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校長室のカリキュラム・マネジメント

末松裕基

校長室のカリキュラム・マネジメント[第8回]学校経営を作動させる

NEW学校マネジメント

2020.08.19

校長室のカリキュラム・マネジメント[第8回]
学校経営を作動させる

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.8 2018年11月

東京学芸大学准教授
末松裕基

 

 第6回、第7回では、学校経営の特質を、目標等の「事」の性質と、経営主体の多様性という観点から考え、その奥深さを確認していきました。本回でももう少し、そのことを考えていきましょう。

 学校経営の場合、企業経営の営利活動と比較して、その目標は曖昧で抽象的にならざるを得ません。わたし自身の経験を振り返ってみても、現在の年齢や立場になって、ようやく中学校時代の担任に指導されたことが腑に落ちることがよくあります。

 企業の場合だと売り上げや株価は半年から一年の短期間で成果が評価されます。それに対して、学校の場合は、もちろんそのような短期間の成果も重要となりますが、“この子たちが大人になってから生きる社会では、どのような知識が求められるか”“いま問題を収束させるにはこういう指導もあり得るが、それは教員都合のその場しのぎではないか。この子たちの将来にとっては、あえてこのように今回は対応した方がよいのではないか”と自然と、中長期的なことも視野に入れた判断がなされていることが多いと思います。

 また、企業では、明確な目標が設定できるがゆえに、取り組むべき課題も共有されやすく“○○が問題だから○○の対策を協力してやっていこう!”というコミュニケーションを取ることができます。それに対して、学校の場合は、目標を明確にすることが容易ではないことから、取り組むべき課題が定まらないだけでなく、本来であれば、一人では到底、対応しきれないはずの子育てという営みを一人の教師が、まる抱えするようなことが生じてしまいます。

学校のチームワーク?

 「チーム学校」ということが盛んに言われるようになっていますが、以上のことを踏まえると、学校の場合は、容易にチームワークが成り立つわけではないということがわかります。ましてや、「チーム学校」で想定されている多職種・他業種の専門家との協働というのも並大抵の努力がないと、スムースにいかないことになります。

 学校の仕事の形態としては、これまでに確認してきた組織特性や業務特性により、どうしても個業にならざるを得ません。そのため、いつも元気に仕事をしていた教員が、ある日突然、バーンアウトをするなどということも珍しくありません。それでは、課題の「見える化」や、明確な指示・命令を組織で徹底させれば、チームワークが成立すると言えるでしょうか。

 皆さんも経験的にわかると思いますが、そのように、きっちり、てきぱきと合理化を進めれば進めるほど、学校は学校らしさを失い“自分たちはなんのために仕事をしているのだろう......”“こんなことをやるために教師になったのではないのに......”“これをやって本当に子どもたちのためになっているのだろうか......”という不安や不信感が渦巻くことにもなりかねません。

 大切なことは、「学校は企業組織とは、その経営原理や特性が異なる」ということに、まずは大前提として向き合うことです。学校の学校らしさや、教育の教育らしさを壊さない形で、経営の発想やシステムを構想し、実現していく必要があります。

 たとえば、いまでは学校で当たり前に使われるようになったPDCA(Plan-Do-Check-Action)ですが、これはもともと品質管理などに有効として企業組織で利用されてきたものです。

 たしかに、まとまりが生まれにくい学校で、基本方針を定め、それに向かって一直線に進むことは悪いことではありません。ただ何度も確認したように、目標を明確に定めることが難しい点にこそ、教育組織としての学校の本質があります。Checkにしても、そもそもなにを良いものとして評価するか、その基準を明確に定めにくいからこそ、丁寧に検討を重ねていく必要があるのです。

 そういうことを無視して“うちの学校はPDCAを重視して学校を経営しています”などと言っても、それはもう学校の学校らしさが失われている可能性があります。

 単なる経営手法の一つ、それも企業ですら、PDCAで全てが解決するような時代はもうとっくの昔に過ぎています。企業トップが就任時に“わが社の経営の鍵はPDCAです”などと言ったら、一気にその会社の評価は下がるでしょうし、社員はもちろんのこと、これからどこで働こうか考えている学生などは“この会社に将来はないな”と冷ややかに判断するはずです。

 学校の場合は、経営過程の基盤が弱く、複雑です。それゆえ、経営者には企業経営よりも多くの不安がつきまといます。ひとつの手法で全て解決できると言われると、だれでもそれに飛びつきたくなる気持ちはわかります。

 ただ、そのような手法は一時的には有効かもしれませんが、皆さん自身のリーダーとしての専門性の向上につながらないばかりか、皆さんに関わっている人たちの育つ機会を奪うという意味で「有害」とさえなる場合もあります。

学校経営を作動させる

 この連載をどれだけの方が読んでいるかはわかりませんが、読んでいて皆さんストレスが溜まってきている人も多いと思います。“だからなにを言いたいんだ”“どうすればいいんだ”“具体的な方法を教えてくれよ”という声が聞こえてきそうです。

 難しい問題に向き合っているわけですから、難しい問題には粘り強く対応していく必要があります。難しい問題に単純に対応すると、柔軟な思考を失い、頑なさが身につくだけでなく、自らを傷つけることにもなります。焦りは禁物です。上記の発言を確認してみると、“なにを言いたいんだ”“どうすればいいんだ/方法を教えてくれよ”というのは、whatとhowを求めていることがわかります。

 課題が不透明で、向き合う対象が難解な場合は、「答え」を求めるのではなく「問い」に向き合う必要があります。「問い」が見つかれば、自ずと「答え」は見つかるはずです。know-whyの重要性です。われわれは問いの中を生きざるを得ません。
 
 また、know-whyに加えて、現代の組織経営で鍵を握る視点としてknow-who(だれを知っているか)が注目されています。これは、「だれがなにを知っているか」を知っているか、「だれがなにをなすべきか」を知っているか、異質な他者や専門家との協力、コミュニケーションが鍵を握ります。

 この連載を違和感を覚えながらも、しぶとく読んでいる方。異質さに気づいたことに一つのヒントがあると思います。学校経営を作動させるスタート地点にたどり着きました。

 

 

Profile
末松裕基 すえまつ・ひろき
専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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リーダーズ・ライブラリ Vol.8

2018年11月 発売

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学芸大学准教授

専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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