「チーム学校」を踏まえたこれからの組織マネジメント

学校マネジメント

2019.07.29

(3)中心価値・行動規範の共有

 ビジョンを構成する要素の3番目は、「中心価値・行動規範」であり、全教職員が遵守すべき、「行動指針」や「価値基準」である。学校では「目指す教職員像」として示されているケースが多い。「中心価値・行動規範」は、服務規定等とは異なり、どのような姿勢で仕事に取り組むかを示したものが多い。表3はある病院の行動規範である。

ビジョン共有のための留意点

 これからの学校が、多くの関与者の協力を得て教育の成果を上げるためには、組織の背骨であるビジョンの共有が欠かせない。そのためには、これまで述べてきたように、ビジョンの構成要素の理解と共有が必要である。

(1)状況の共有

 ビジョンの共有を図るためには、ビジョンの背景となる「状況の共有」が欠かせない。状況とは、学校内外の環境要因を把握し、それらを解釈したものである。ここでいう解釈とは、事実やデータに意味を持たせたものであり、今後の対応の予測である。例えば、コップに水が半分あるのは事実である。しかし、その半分の水を「まだ半分ある」と見るのか、「もう半分しかない」と解釈するのでは、その後の行動に差が生じる。

 組織マネジメントの理論に「状況の法則」(M.P.Follet)がある。これは、「人は他人からの指示命令で動くのではなく、状況の理解と納得で動く」とした考え方である。つまり、校長がビジョンを提示する際、その背景となる状況を関係者と共通理解していると、ビジョンの受け入れがスムーズに進むことを示している。子どもたちの現状や保護者等の家庭環境、地域や接続する学校等、学校のおかれた状況を解釈し共有することで、ビジョンの納得性が向上し、共有だけでなく、実施に際しての前向きな動きにつながる。

(2)参画による共有

 他人の決めたことをやらせるのは、誰もが好まない。一方、自分で決めた計画や自分の意見が反映されているものには、実現の意欲がわく。参画的な組織運営が、関係者の満足度を高め、ビジョンの受容を促進すると同時に実行率も向上させることは、様々な実証研究によって明らかにされている。ビジョンづくりのプロセスで、教職員の意見や提案を聞くことで、ビジョンの質向上と共有が促進される(図)。

 また、コッター(J.P. Kotter)はビジョン共有のポイントとして、①話は単純明快に、②比喩や類比や例を用いて、③様々な情報交換の場を利用し、④ひたすら繰り返し、⑤模範を示しリードし、⑥矛盾することははっきり示し、⑦聞く耳をもって話を聞いてもらうことを強調している。

 チームとしての学校の構築や地域とともにある学校づくりの推進は、学校のマネジメントの高度化を要求するが、ある意味、従来の教職員だけが学校の運営をするのではなく、「関係者総活躍」を目指す学校マネジメント刷新の好機ともいえよう。

 

Profile
兵庫教育大学大学院教授
浅野良一
 あさの・りょういち 東北大学教育学部卒業後、民間企業を経て、昭和61年産業能率大学入職。経営管理研究所主任研究員を経て、平成19年度から兵庫教育大学大学院教授。専門は、組織マネジメント、人材育成。主な著作に、『学校の組織マネジメント能力向上』(共著)(教育開発研究所)、『ステップアップ:学校組織マネジメント』(共著)(第一法規)、『学校のニューリーダーを育てる』(共著)(学事出版)、『学校におけるOJTの効果的な進め方』(編著)(教育開発研究所)等。

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