生徒指導の新潮流 [最終回] 外国につながる子どもの居場所とアイデンティティづくりに向けて

トピック教育課題

2023.05.29

生徒指導の新潮流 [最終回]
外国につながる子どもの居場所とアイデンティティづくりに向けて

東京学芸大学准教授 
伊藤秀樹

『教育実践ライブラリ』Vol.6 2023年3

 

 近年、日本の学校で学ぶ「外国につながる子ども」が増加している。令和4年度の『学校基本調査』によれば、外国籍の子どもの割合は、小学校では全体の1.27%、中学校では0.94%、高等学校(全日制・定時制)では0.55%であった。外国籍の子どもだけでなく、海外から帰国した子どもや国際結婚家庭の子どもなども一定数いることを考えると、日本の学校には多様な文化的・言語的背景をもつ子どもが在籍しているといえる。

 昨年12月に公表された『生徒指導提要(改訂版)』では、第13章に「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」が設けられた。そこでは発達障害や精神疾患、ヤングケアラーなどさまざまなトピックが取り上げられているが、外国につながる子どもについての記述はなぜか13行にとどまっている。

 しかし、生徒指導提要(改訂版)にも書かれているように、外国につながる子どもは、文化や言語の違いに起因する複合的な困難に直面することも多く、そうした困難がいじめ被害や不登校、高校中退などに発展することもある(p.289)。では、文化や言語の違いをさらなる困難につなげないために、教師はどのような生徒指導をしていけばよいのだろうか。

 今回は、生徒指導提要(改訂版)でも紹介されている『外国人児童生徒受入れの手引改訂版』(以下、『手引』)をもとに、教師が外国につながる子どもや周りの子どもに具体的にどのような生徒指導をしていけばよいのかについて整理していきたい。

まずは居場所をつくる

 外国につながる子どもは、入学・編入学当初は、日本語がわからなかったり、カルチャーショックがあったりで、大きな精神的不安やストレスを抱えることになる。そのため学級担任には、子どもに居場所をつくるために、温かな姿勢で受け入れることが求められる。『手引』にはその具体的な方法として、以下のことが示されている(pp.42-43)。

・当該の児童生徒の母語と日本語、両方の挨拶で迎えるとよい
・座席は、担任の近くとし、いつでも配慮できるようにしておく
・個別に話す場面では、ゆっくりはっきりした口調で分かりやすい日本語で語りかける
・長所を見つけ、学級の前でほめるように意識し、自己肯定感をもたせる

 担任のこうした関わりは、同じ学級の子どもたちに見えるように行うことが重要である。子どもたちはよくも悪くも、教師のふるまいをロールモデルにするためである。そのこともふまえると、担任だけでなく全教職員で足並みをそろえて、母語での挨拶やわかりやすい日本語での語りかけなどを行っていくことが望ましいだろう。

 また、教師にとっても周りの子どもにとっても特に難しいと考えられるのが、長所を見つけ、認めていくことである。『手引』にもあるように、日本語の力をあまり必要としないスポーツの場面などで活躍できる活発な子どもは、周りの子どもによさが認められやすいので、学級集団に溶けこみやすい。しかし、比較的おとなしい内気な子どもの場合は、周囲からよさが認められづらく、孤立してしまうこともある(p.43)。絵が上手なことや、掃除や係活動にまじめに取り組むこと、さりげなく手助けをしてくれることなど、教師だからこそ気づけるよさを本人や周りの子どもに伝えていくことが大切であるだろう。

「かけがえのない自分」づくりを支える

 外国につながる子どもは、日本の学校で過ごす中で、自分が何者であるかという帰属意識や、自分が周囲や社会から認められているという感覚が脅かされるような、アイデンティティの危機に直面することがある。日本の学校は、外国につながる子どもにとって、ややもすれば母文化を奪われ(奪文化化)、マジョリティの言語や文化に同化させられる場となりうる(太田 2000など)。そうしたなかでは、母語や母文化、母国に肯定的な感覚をもてず、自身をかけがえのない大切な存在だと認識しにくくなる。

 そのため『手引』では、外国につながる子どもに対して、「自分の母語、母文化、母国に対して誇りを持って生きられるような配慮が必要となります」(p.9)と記している。また、学校の課外活動で「継承語」という位置づけで母語・母文化の習得を援助すること(p.10)や、保護者に家庭では子どもと母語で多くの会話をするよう勧めていくこと(p.46)などが提案されている。

 ただし、課外活動や家庭生活で母語や母文化が尊重されたとしても、日常的な学校生活が奪文化化や同化を求める場であり続けたならば、子どもたちは「かけがえのない自分」という感覚をもつことができるだろうか。

 高橋(2021)によれば、多くの教師が外国につながる子どもに対して、私的領域では母語や母文化を維持することが望ましいと考える一方で、学校では日本の規範や慣習を守ることを当然の「ルール」だと考えているという。しかし教師には、学校で絶対視されるその規範や慣習は子どもたちのアイデンティティをねじ曲げてまで貫き通すべきものか、という視点も必要だろう。

 外国につながる子どもにとって、休日は学校の活動より教会に行くことを優先したり、学校にピアスをしてきたり、授業中に積極的に挙手・発言をしたりすることは、母国では当たり前であるかもしれない。こうした母国と日本の学校文化の間で生じる摩擦については、子どもや保護者に教育活動として理解を求めるべきものもあれば、宗教的な判断を尊重すべきものや、校則や暗黙のルールを見直すきっかけとして考えるべきものもある。外国につながる子どもを一方的に日本の規範や慣習に従わせようとするのではなく、周りの子どもに異文化理解を促し、それをお互いにとって新たな学びの契機にしていくような生徒指導も、これからの時代には欠かせないのではないだろうか。


[引用・参考文献]
・文部科学省『外国人児童生徒受入れの手引改訂版』2019年
・太田晴雄著『ニューカマーの子どもと日本の学校』国際書院、2000年
・高橋史子著「移民児童生徒に対する教員のまなざし」恒吉僚子・額賀美紗子編『新グローバル時代に挑む日本の教育』東京大学出版会、2021年、pp.47-60

 

 

Profile
伊藤秀樹 いとう・ひでき
 東京都小平市出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、博士(教育学)。専門は教育社会学・生徒指導論。不登校・学業不振・非行などの背景があり学校生活・社会生活の中でさまざまな困難に直面する子どもへの、教育支援・自立支援のあり方について研究を行ってきた。勤務校では小学校教員を目指す学生向けに教職課程の生徒指導・進路指導の講義を行っている。著書に『高等専修学校における適応と進路』(東信堂)、共編著に『生徒指導・進路指導─理論と方法 第二版』 (学文社)など。

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