誌上ワークショップ! 目からウロコの働き方改革 [リレー連載・最終回] 「授業改革」こそ「働き方改革」の本丸

トピック教育課題

2023.05.22

誌上ワークショップ! 目からウロコの働き方改革 [リレー連載・最終回]
「授業改革」こそ「働き方改革」の本丸

先生の幸せ研究所 学校向けの業務改革・組織風土改革コンサルタント
青山光一

『教育実践ライブラリ』Vol.6 2023年3

 

 「あんなにワクワク働いた2年間はありませんでした」。久しぶりに会った後輩が語ってくれました。「今の職場はかなりブラックで……。あの学校は奇跡のような場所だったのかもしれません」。

 私が以前勤めていた東京都の公立小学校。そこでは確かに奇跡のような時間が流れていました。職員室はひとつのチーム。誰もが探究的にワクワク働き、18時には退勤していました。子どもたちは生き生きと学び、不登校は何年間もゼロ。保護者の満足度も高く、苦情が寄せられることはほとんどありませんでした。当時を知る教職員の多くが口を揃えて「理想の学校」だったと語ります。

 私が赴任した当時、その学校では21時までの残業は当たり前。山積みの校務分掌、授業準備、保護者対応に疲弊する日々が続いていました。

 では、そのような学校がどのようにして「理想の学校」へと変容していったのでしょうか。キーワードは、工業社会モデルからの脱却を目指した「授業改革」でした。

工業社会モデルからの脱却

 時代は工業時代から情報時代、そしてSociety5.0へと加速度的に進んでいます。かつて、社会においては「標準化」「単一性」「競争」「従順さ」「時間ベース」などが重要事項でした。今でも多くの学校は工業時代の思考でデザインされており、「主体的・対話的で深い学び」という目的が達成しにくいシステムになっています。

 子どもたちが真に主体的な学び手へと変容していくためには、子どもと向き合う我々大人の意識を「工業社会モデル」から脱却させていくことが必要です(【図1】)。


【図1】

 私は「工業社会モデルの学校」から「これからの学校」を目指した「授業改革」を始めました。

学びの「個別化」を

 多くの学校では、同じ年齢の子どもたちが、同じ学級で、同じ内容を、同じペースと方法で学んでいます。子どもたちの興味関心や能力が違うにもかかわらず。果たしてそれは最善の方法なのでしょうか。

 私は、それまで何の迷いもなく行ってきた「宿題」「一斉指導」「全員が同じ時間割」を見直し、徹底的な個別化を目指しました。

 一律の宿題を無しにした途端、子どもたちはそれぞれが選んだ教材で、自分で計画を立て、嬉々として学び始めました。それまで、やらされ感たっぷりで「他人事」だった宿題が、「自分事」へと変わっていったのです。

 「そうは言っても、宿題を無しにしてしまったら、子どもはサボるに違いない」とよく言われますが、ほとんどの場合、長い目で見ると、それとは逆のことが起こります。週の終わりに課題の達成状況を個別で振り返り、フィードバックすることで、学習に向き合えない姿勢は日を追うごと、月を追うごとに解消されていったのです。

 子どもたちは、自己選択、自己決定しながら学ぶ楽しさを知り、学びを自らの手に取り戻しました。そして、教師からの信頼をベースに、ますます自立していきます。彼らの学びは教科学習においては、自分をコントロールしながら学ぶ単元内自由進度学習へ、最終的にはそれぞれがオーダーメイドの時間割を作って自律的に学ぶまでに変容していきました(【図2】)。


【図2】

「授業改革」が「働き方改革」につながる

 子どもたちの変容は、それまで授業改善に対して保守的であった教職員にも変化を促しました。今までの伝統的な教育方法を見直し、「教える人(ティーチャー)」から「学びを促進する人(ファシリテーター)」へ変わり始めたのです。

 画一的な一斉指導を手離し、子どもたち主体の学びが中心となることで、それまで教師が一人で抱え込んできた仕事は、しだいに子どもたちに委ねられていくことになりました。その結果、それまで授業準備に使っていた時間は半減し、教師はより子どもたち一人ひとりに寄り添った教育に注力できるようになっていきました。

 一方、職員室においても教室と同様に「個別化」「多様性」「協働」「到達ベース」といった思考が重視されるようになり、脱工業化の学校づくりが促進されていきました。

 教師たちは長い間工業社会の思考で作られ、言わば形骸化していた多くの仕事から解放されたのです。何よりも、教師がその仕事を「自分事」として、ワクワクしながら主体的・協働的に働く姿は、子どもや保護者の大きな信頼へとつながっていきました。

 

 今求められているのは、教育現場が元気を取り戻すための抜本的な「改革」です。私は伝統的な学び方を根本的に問い直す「授業改善」こそが「働き方改革」の本丸であると確信しています。

目の前の現実と闘っても何も変えることはできない。何かを変えたければ、既存のモデルが時代遅れになるような新しいモデルをつくるべきだ。(リチャード・バックミンスター・フラー)

 

 

Profile
青山光一 あおやま・こういち

 1977年北海道生まれ。伊豆大島・長野県の二拠点生活。元東京都公立小学校主幹教諭。在職中は「協働学習」「個別学習」「探究学習」「PBL学習」「イエナプラン教育」等を研究。2020年退職。同年、長野県にある日本初のイエナプラン校・大日向小学校のカリキュラムマネージャーに就任。株式会社先生の幸せ研究所のパートナーコンサルタントとして講演、小・中・高校、教育委員会への指導・助言を行う。伊豆大島で青山レモン農園・私塾を経営。

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