誌上ワークショップ! 目からウロコの働き方改革 [リレー連載・第4回]目的ワークで仕事の上位目的に迫る
トピック教育課題
2023.02.08
誌上ワークショップ! 目からウロコの働き方改革 [リレー連載・第4回]
目的ワークで仕事の上位目的に迫る
先生の幸せ研究所 学校向けの業務改善・組織風土改革コンサルタント
若林健治
私は以前お世話になった方から「若林君、手段は必ず目的化するんだよ、必ずね」と言われたことがあり、今でもその言葉が強く脳裏に焼き付いています。手段が目的化するとはよく言われますが、「必ず」がつくと重さが違います。全ての仕事や業務は段々とすること自体(手段そのもの)が目的化していき、本来の目的が置き去りになってしまいます。それを防ぐためには、どんな人や組織でも必ずそれが起こるものだと捉え、目的に立ち返ることの大切さを自覚する必要があります。
学校でも過去から受け継がれてきた仕事があり、もはや何のためにやるのか誰にもわからないまま続けていることも多いのではないでしょうか。そんな当たり前や前提となっている仕事の目的を考えて上位目的に迫り、それを羅針盤に手放せる手段を見出すのが「目的ワーク」です。前回の「時間予算ワークショップ」と比べて少し抽象度や難易度が高いのですが、見つめ直したい校務や教育活動を選んで、ぜひ皆さんの学校でも試してみてください。
「目的ワーク」の流れ
これから実際のワークの流れをご説明しますが、テーマを設定するところと、その目的(「何のため?」)を出していくところは難しいと感じる人が多いかもしれません。キレイな答えを見出してスッキリしようと急ぐよりも、むしろ“モヤモヤする気持ちの奥にあるものは何か?”をじっくり探求していく方が本質に迫れるでしょう。
[事前準備]
① 目的を考えたいテーマをいくつか挙げておく。
例)校内研究、宿題、通知表(の所見)、連絡ノート、行事など ② チーム分け:1チーム4名程度で話しやすいメンバー同士③ 準備物:模造紙、付箋(できれば同色)、ペン、A4用紙
[ワークショップの流れ]
① 各グループで目的を考えたいテーマ(手段)を決める。 ② 設定したテーマの前提となる理解や情報を共通理解するため、関連意見や情報を出し切る(起源・そもそも・言いにくいこと・言っても無駄なこと・メリットデメリット・すでにある他の案)。 ③ その手段の目的を挙げて発散させてから、より上位の目的に迫る(見出す)。
・何のため? どんな良いことがあるからやっている?(何を避けるためにやっている?) ・あるいは、なぜやっていない? どんな良いことがあるからやっていない?(何を避けるためにやっていない?) ④ 見出した上位目的を達成するために、現行の手段から「手放せること(一部や全て)」や「新たなアイデア(第3の案・目的とゆとりを満たす案・創造的な案・よりよい納得解)」を考える。
実際にワークをやってみた際の画像(【図1】)を見るとわかりますが、何のためにやるのか? やらないのか? が発散するので、そこから上位目的に迫る(見出す)ところは少し難しいかもしれません。
上位目的を達成するために現状の手段は適切か?
上位目的が定まったら改めて現状の手段と見比べてみます。例えば、ある学校では宿題をテーマに目的ワークを行った結果、そこにギャップがあることがわかりました(【図2】)。「主体的・自律的に行動する子どもが育つため」に、先生が毎日出す宿題を、子どもが言われるがままこなすことは、目的達成につながらないのでは?─とずれが生じ、結果的に宿題を廃止し(手放し)、日々の頑張りが評価される仕組みに見直しました。
参考までに他の学校で目的ワークを行った結果をご紹介します。
●研究授業は何のため?
(目的)教職員が勇気づけ合うため
(手放したこと)事前の凝った準備を手放して指導案の枚数を1枚に
●文化祭は何のため?
(目的)日頃の学びを発表する場
(手放したこと)そのための練習や華美な衣装づくり
●給食を担任が見るのは何のため?
(目的)スムーズさ
(手放したこと)担任が見るのをやめ、交代してもスムーズなルールづくり
ここで挙げた上位目的に違和感を覚える方もいるのではないでしょうか。それがまさに「目的ワーク」の難しさであり醍醐味です。つまり、同じテーマでも学校や先生によって上位目的は異なるため、結果的に手放せる手段も変わってきます。あくまで大切なことは、今まで当たり前や前提だと思っていたことに対して、「何のため?」と問い直すことで本当に必要なことと手放せることが明確になり、一部でも改善のアイデアを見つけることです。特に経験豊富な先生ほど「手段が目的化」していることに気づきにくいので、若手の先生が感じている違和感を教えてもらうのも一つのやり方です。
Profile
若林健治 わかばやし・けんじ
東京工業大学卒業後、総合コンサルティング会社に入社し、企業向けの経営改革・業務改革プロジェクトを手掛ける。その後、双子の娘の誕生がキッカケになり、「なりたい自分」や「つくりたい世界」に向って自ら学び、自分を変えていける人で溢れた社会を目指して、ここ数年は学校や教育行政の主体的な変革を後押しする仕事にシフトしている。令和3年経済産業省「未来の教室」実証事業「教師のわくわくを中心にしたPBL型業務改善」をはじめ、多数の自治体や学校で伴走支援や働き方改革の研修講師を担当している。