誌上ワークショップ! 目からウロコの働き方改革 [リレー連載・第1回] 働き方改革へのよくある誤解

トピック教育課題

2022.08.03

誌上ワークショップ! 目からウロコの働き方改革 [リレー連載・第1回] 
働き方改革へのよくある誤解

先生の幸せ研究所代表 学校専門働き方・組織風土改革コンサルタント 
澤田真由美

『教育実践ライブラリ』Vol.1 2022年5

 働き方改革とは本当はクリエイティブな学校づくりそのものであり、時間の創出と同時に教員は成長し、子どもたちは笑顔になるものです。単なる残業削減だと思われがちですが、学校専門ワークライフバランスコンサルタントとして150校以上の学校の変化を見てきた私からするとそれはもったいない誤解で、学校をアップデートさせる起爆剤になるものです。

 「早く帰りましょう」の声かけだけで、結局持ち帰り仕事……という悪循環をたどる学校は多く、世間では働き方改革が当たり前になりつつあるのに、学校現場はむしろ働き方改革アレルギーを起こしていることもあるのが実情です。ヒアリングでは以下のような声をよく聞きます。

 「働き方改革は国や教育委員会がすること」
 「自分たちにできることはない」

 確かに、国や教育委員会ができることは大きく、進めていく必要があります。しかし、実は教育委員会から弊社への相談で近年多いのは、かなり進んでいる自治体からで、「他自治体以上に人員も増やしてICT化も進めてきた。こんなにお金をかけているのに一向に好転しない。どうしたらいいものか」というものです。

 そこで、校内で知恵を出し合うボトムアップとトップダウンのバランスの良い業務改善を導入すると、教職員が試行錯誤しながら自ら時間を意識し業務の精選や工夫が進み始め時間が生まれ始めます。例えば、これまで使われていなかったICTシステムを教員同士で教え合いながら使い始めるようになり効率化します。国や教育委員会が作った部活動ガイドラインが守られていないことを自分事として考え始め、守る人が増えていきます。これまで「ビルド&ビルドで膨らんで疑問だったけれど、言ってもどうせ何も変わらないと思っていた」ことを解決し、時間にも気持ちにもゆとりが生まれ始めます。

教育の質を上げるなら働き方改革は避けては通れない

 本来業務である教育の質を上げるためには何が必要でしょうか。子どもと向き合うことでは、という声が聞こえてきそうですが、私はそれには疑問を感じます。無作為に抽出した小学校の校時程表を調べたところ、ほとんどの学校が子どもの在校時間だけで7時間以上でした(例:8時登校開始〜15時完全下校等)。部活動がある校種はもっとです。変えるべきなのは子どもと過ごす時間を増やすことではなく、必要なことに必要な時間をかけられるようにすることと、その中身です。

 弊社支援先のある学校では、教職員で話し合い、働き方改革の目標を「意味のある時間を増やすこと」としました。目指すのは「子どもとただ長く過ごすこと」や「単なる時短」ではないのです。

実現するために

 業務の密度を濃くして意味を感じられないことはやめる/心と時間に必要なゆとりを生み出す/資本である教職員の健康維持/時代に合わせたインプットを私生活で確保する。働き方改革は、こうしたことを実現して学校が抱える課題を解決し、目指すべき姿への精度を上げる取組です。


【図1】

 この連載では、どうしたらそれを各校で実現できるのかを考えます。他の学校でうまくいった取組がうちの学校でもうまくいくとも限らず一筋縄ではいきません。ペーパーレス化というテーマ一つでも、データ共有方法やICT苦手教員へのフォローなどを考える必要があり、それらは学校ごとに実情が違うので、試す⇔修正するといったPDCAサイクルが欠かせません。直線的にうまくいくタイプの取組ではないので、【図1】の3つを回し続けて自分たちなりの働きやすさを模索する必要があります。

働き方改革を起爆剤として学校づくりを


【図2】

 ここでぜひ知っておいてもらいたいのは、働き方改革のプロセスが学校にとって財産となるということです。【図2】のグラフは、働き方改革と教師の資質(※)向上について信州大学荒井准教授と調査した結果ですが、知恵を出し合う働き方改革推進に関わった教職員は資質が向上しました。

※経済産業省が唱えるこれからの教師に求められる「新しい専門性」のこと。取組詳細は経済産業省「未来の教室」実証事業「教師のわくわくを中心にしたPBL型業務改善で授業と学校組織の変革につながる/教師の新しい専門性は向上する」https://www.learning-innovation.go.jp/verify/e0122/

 

 教職員からはこんな声があがりました。

●どうしたら現状を改善できるのか自分レベルで考え始めることができるようになった。
●「どうせ進まない」と不満を言ってきたがそうさせていたのは自分かもしれないと気づいた。
●私たち教師がリスペクトを伴う対話力や、VUCAに対応し得る知恵やスキルを身につけないといけない。
●これまでは自分の範囲内の仕事しか対応せずこの学校のことは後回しだったが、この学校のことを考えつつ行動できるようになった。
●1つのことに対して一生懸命考えて議論するってとてもおもしろい!と実感できた。

 こんな先生たちが増えた学校は自走し始めます。たかが働き方改革、されど働き方改革。学校を進化させる起爆剤になり得るのです。

 

 

Profile
澤田真由美 さわだ・まゆみ
 先生の幸せ研究所代表、学校専門働き方・組織風土改革コンサルタント。青山学院卒業後、約10年間小学校教員として勤務。自然で幸せな世の中を学校から創るため年間200案件以上の学校園の改革を手掛ける。「先生のワクワク」を引き出し、教育の現場をよく理解したコンサルティングに定評がある。令和3年経済産業省「未来の教室」実証事業「教師のわくわくを中心にしたPBL型業務改善」採択。著書は『「幸せ先生」×「お疲れ先生」の習慣』『「幸せ先生」のダンドリ術』(明治図書)、『先生のための仕事革命ワークブック』(学陽書房)他連載等多数。

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