押さえておきたい 最新「教育法令」トピックス15選
押さえておきたい 最新「教育法令」トピックス15選 Topics8 かつての「いじめ」定義が学校不信を呼んだ
トピック教育課題
2021.01.18
押さえておきたい 最新「教育法令」トピックス15選
Topics8 かつての「いじめ」定義が学校不信を呼んだ
いじめ防止対策推進法
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.4 2020年11月)
「いじめを行ってはならない」
日本の学校は長い年月、いじめ問題の解決に苦しんでいる。しかも、学校はいじめを見て見ぬ振りをし、いじめを隠蔽しているとさえ言われてきた。学校や教育委員会を無能・無責任と非難する声も聞かれる。
そんな中、大津いじめ自殺事件をきっかけに、2013年にいじめ防止対策推進法が制定された。この法律の第4条には、「児童等は、いじめを行ってはならない」と定めている。法的無能力者である「児童等」にいじめ禁止を義務づけても、法的にはほとんど意味がない。いくら法律で禁止しても、いじめ問題が解決するはずもない。これでは、この法律がいじめ問題解決に向けて具体的な道筋を描けていないことを告白しているに等しい。
学校不信を広げた「いじめ」の定義
この法律は、学校・教師や教育委員会への不信感を前提として、いじめ重大事態発生時への対応が定められている。地方公共団体の首長が事実関係等を再調査することも認めている。2019年には一時、いじめを放置した教員を懲戒処分にすることを含む改正案が浮上したこともある。
このような学校・教師への不信感の背景には、いじめの定義をめぐる認識の乖離があった。文部省(当時)は1981年以降、いじめを、①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているものであって、④学校としてその事実を確認しているもの、と定義してきた。しかし、④の要件はいじめを過少に評価させることとなり、保護者や一般市民の認識から乖離していた。④は1994年に手直しされたものの、①により被害生徒が少しでも反撃するといじめではないとされた。「一方的に」「継続的に」「深刻な」が削除され、いじめをより広く捉えるようになったのは、2006年以降である。
児童生徒間の複雑で流動的な人間関係のなかから、いじめの存在を把握することは容易なことではない。しかし、それ以上に、行政が決めた定義にはいじめを不可視化する効果があったのだ。
迅速かつ親身なコミュニケーション
学校・教師の努力とは裏腹に、いじめは簡単にはなくならない。ひとたびいじめ重大事態となると、学校の活動は教育委員会や首長に縛られることになる。そこに至る前に、いじめる側・いじめられる側双方との迅速かつ親身なコミュニケーションと信頼関係を基礎に、学校として適切・適時な行動を起こすことが重要だ。
迅速な情報提供と意見交換こそ、保護者との信頼関係構築の鍵であり、問題解決の前提条件であろう。
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