やってはいけない外国語の授業あれこれ

菅正隆

やってはいけない 外国語の授業あれこれ[第4回]英語で授業を行うということ 英語力向上の障がいにしないために

トピック教育課題

2021.01.24

やってはいけない 外国語の授業あれこれ[第4回]
英語で授業を行うということ
英語力向上の障がいにしないために

大阪樟蔭女子大学教授 
菅 正隆

『新教育ライブラリ Premier』Vol.4 2020年11月

1.あるエピソード

 一つのエピソードを紹介する。現在、高等学校では平成21年3月に改訂された学習指導要領によって授業が行われている。この学習指導要領は令和4年3月31日まで使用される。このときの改訂の目玉は、「第3款英語に関する各科目に共通する内容等」に記されている「英語に関する各科目については、その特質にかんがみ、生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。その際、生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう十分配慮するものとする」(下線筆者)の下線部である。これに対してマスコミはこぞって、「教師が英語で授業できるのか」「子どもは理解できるのか」と書き立て、不安を煽ることに終始した。しかし、その裏には、次のようなことがあった。

 平成20年当時、文部科学省内では次期学習指導要領の作成に多くの時間を費やしていた。そんなある夜、キャリア官僚から呼ばれて高等学校の素案を見せられた。そこには、「授業は英語で行うことを原則とする」とあった。「菅先生、どう思いますか」と尋ねられ、一瞬言葉に窮した。そして、「これが実現したら、現場は大変なことになりますよ。授業が崩壊するかもしれません」と。ご存じのように、行政用語での原則はmustに近い。もし、これが実現したら、教育委員会は、英語を使用していない先生に対して指導することも考えられ、益々ちんぷんかんぷんな生徒が量産されることにつながりかねない。そこで、「他の文言に代えることはできないか」とお願いした。すると、「そうですよね、考えます」と答えた。程なくすると「原則」が「基本」の言葉に置き換えられ、そして、「基本の文言は法令には見られない言葉ですが」とつぶやいた。これにより、過度な英語使用による英語嫌いや理解度の低下を招くことは避けられたと思っている。

2.小中学校、そして

 中学校では、令和3年4月から新しい学習指導要領(平成29年3月31日改訂)に則って授業が行われる。ここでは、先の高等学校の文言が「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。その際、生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにすること」となっている。高校とほぼ同じ文言である。つまり、改訂により、高校から中学校に移行された形になっている。すると、さらに次の改訂では、中学校から小学校に移行されることも考えられる。今回小学校の学習指導要領が改訂され、外国語が教科になったことから、令和5年3月に大学を卒業する教職課程を取った学生の小学校免許状には、他の教科に加え「外国語」の教科についても授与されることになる。これにより、次期改訂では、中高の文言が小学校に記載されることは至極当たり前に思われる。

 因みに、高等学校の授業における英語使用状況では、都道府県と政令指定都市を含めて、発話の50%程度以上75%未満で行っている教師が39.8%、75%以上が12.6%である。両方合わせて、授業の半分程度を英語で行っている教師は52.4%と半分強である(令和元年度英語教育実施調査より)。

●やってはいけない 授業での英語使用パターン

□(1)英語をまくし立てる

 学習指導要領には「生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう十分配慮するものとする」(高校)、「生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにすること」(中学校)とある。しかし、実際に全国の高校を訪れると、英語が得意な教師は、英語を50分間まくし立てていたり、既習単語以外の語彙や専門用語などを使って文法説明をしていたりする場面に出くわす。

 生徒の目は虚ろで、今にも重い瞼は閉じかけられそうである。これは、生徒の理解度を全く無視して英語を使用している、最悪の授業と言っても過言ではない。

 しかし、これは高校に限ったことではない。小学校や中学校でも目にする光景である。高校のように瞼は閉じないまでも、全く英語が分からず、無駄な時間を過ごさせ、英語嫌いへの坂道を下らせているようなものである。

 特に、英語のできる教師は、どうしても子供たちを観察することを忘れ、子供たちの英語力を伸ばすには絶対英語で行うべきだという妄想に駆られているのかもしれない。

□(2)アンテナを上げない

 アンテナとは、子供たちの理解度をキャッチするアンテナのことである。英語を使用しながら、教師側が子供たちの理解度を瞬時に把握し、話すスピードをゆるめたり、2度、3度と繰り返したりして聞かせるなどの対応をしない限り、効果は期待できない。それどころか逆効果の場合も考えられる。

 英語を使うことには反対ではないが、効果を上げる使い方をしなければならない。子供たちが英語を理解できていなかったり、理解しようとしたりする姿勢がない場合には、ジェスチャーを交えたり、黒板にイラストを描いたりして、他の方法でのアプローチを行うことである。分からないからといって、日本語を交えると、英語使用の意味が無くなる。なぜなら、子供は分かる方だけを聞き、分からないことには関心を示さなくなるからである。

□(3)無理に英語を使用する

 ある県で授業を参観したときのことである。授業が始まるやいなや、生徒がクスクス笑っている。「どうしたの」と尋ねると、「先生の話す英語、初めて聞いた」と答えた。私も、その先生の英語を聞いて驚いた。英語の間違いが多く、発音は日本語のように母音がきつく、アンド、バットの世界である。これでは、授業以前の問題である。

 多分、多くの人が参観に来たために英語で授業をしようと一念発起したにちがいない。しかし、生徒は優しく、先生の妙な質問にも、一生懸命に答えてあげていることに感動した。そして、さすがに文法説明は英語ではできないと観念して日本語で説明すると、子供たちは目を輝かせ、問題を解いたり、文法事項を用いた言語活動を積極的に行っていた。

 つまり、どのようにして英語を使用する状況に移行するか、どこで英語を使用するか、適材適所で英語を使うことの方が効果は高い。要はバランスなのである。100%英語で授業を行うことが、子供たちの英語力を最も向上させるわけでもない。先の学習指導要領にもあるように「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため」に、どのように英語を活用するかなのである。

 10年ほど前にある実証実験をしたことがある。これは、ある小学校の英語の苦手な先生にオールイングリッシュで45分間授業をしてもらうというものであった。授業をビデオに撮り、ネイティブ・スピーカーとチェックをすると、初めての授業では約80か所もの間違いがあった。

 ところが、3か月後に再びチェックすると、35か所に減っていた。もちろん、その間は自分なりに努力をしたと思われるが、そして、1年後にはほぼ完璧な英語になっていた。

 このように、使うことに慣れてくると、英語使用に困難を感じないようになるのである。まさに「習うより慣れよ」である。

 

 

Profile
菅 正隆(かん・まさたか)
岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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菅正隆

大阪樟蔭女子大学教授

岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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