授業力を上げるためにリーダーは?

寺崎千秋

授業力を上げるためにリーダーは?[第3回] これからの授業の統率力

トピック教育課題

2021.01.11

授業力を上げるためにリーダーは?[第3回]
これからの授業の統率力

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋

『新教育ライブラリ Premier』Vol.3 2020年10月

授業に必要な統率力とは

 「統率力」とは「多くの人をまとめて率いる力」(『広辞苑』第7版)であり、学校の授業では「子供たちをまとめて授業の目標を実現する力」ということになろう。新教育課程の視点で言えば、目指すところは「主体的・対話的で深い学びの実現」と言えよう。

 本年度、小学校から全面実施となった学習指導要領は、「知識・技能の習得」「思考力・判断力・表現力等の育成」「学びに向かう力・人間性等の涵養」の三つの資質・能力の育成のために「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」を一人一人の教員に求めている。これからの授業に必要な統率力もこの視点から育み高めることが必要となっている。

 具体的な授業改善の視点として「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3点が重視され、その観点を提示されている。例えば、「主体的な学び」では、学習への興味・関心、キャリア形成の方向性、学習の見通し、学習活動の振り返りなどである。「対話的な学び」「深い学びの実現」においても同様に観点が示されている。授業においてはこれらの三つの視点及びそれぞれの具体的な観点を踏まえ授業づくりをリードできることが望ましい。そのために教師はどのように統率力を発揮すればよいか、リーダーはどのように指導助言していけばよいかについて、習得、活用、探究の授業を視点にして考えてみる。

習得の授業の統率力――与えて・させて・見回る指導

 知識・技能の習得について、中央教育審議会答申(平成28年12月)では「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」としている。単に「分かりましたか」「はい」で終わるのではなく、身に付けた知識・技能がその後に生きて働くものとなることを求めている。習得を意図する授業においても教師が一方的に説明するのではなく、問題解決的な学習を取り入れ問題解決のプロセスを踏むことを大切にしたい。

 「与えて・させて」とは、学習課題、教材、学習活動などの提示や指示を教師が考え用意して子供たちに与え、説明したり指示したりなどして学習が進むようにすること。したがって、興味・関心のわく教材、分かりやすい説明、明確な指示が必要である。さらに教材や説明を子供が理解しているかについて的確な把握(評価)が必要である。これらは教材研究や子供理解の深さが基盤にある。準備をしっかり行って問題解決のプロセスを踏み、子供が課題を理解し、課題を考え、解決に取り組むように導くことを大切にする。「見回る」とは評価をしっかりと行うこと。一人一人がどのように分かっているのか、つまずいているのかを子供との応答、観察、机間指導などにより把握しながら助言したり個別指導したりして、一人一人の学びが確実に定着するように留意し指導する。

活用・探究の授業の統率力――聞いて・助けて・任せて・見守る学習支援

 活用の授業は、各教科等における学習課題の解決や実現に向けて子供が自分で考え判断し表現する場や機会を設定して行われる。提示された課題については子供たちがこれまでに身に付けた知識・技能や学習経験を活用して課題解決に取り組むようにリードする。

 探究の授業は、主として総合的な学習の時間において、子供自身が単元の探究課題に関して、自分の学習課題を設定し、学習計画を立て、情報収集や整理・分析、まとめ・発表をする方向に向けて行う。これまでの学習経験を生かして自分の力で解決・実現に向かうことができるように学習支援を行う。各教科の発展的な学習も同様である。

 子供が活用や探究を自分の力でできるようにする教師のリードは「聞いて・助けて・任せて・見守る」ことである。「聞いて」とは、単元等の学習課題、学習の取り組み方、学習計画、活動形態などについて子供たちの考えを聞いて引き出すこと。それらを子供が相談して自主決定することを大切にする。さらに教師は子供たちの考えが実現できるように「助けて」、主体的な取組に「任せて」手出し口出しはしない。課題解決に向けて「見守る」ようにし、解決状況を評価してその後の支援や指導につなげるようにする。こうした教師の関わり方ができるようになると、子供の主体的な姿を見いだすことができる。

リーダーはどのように指導助言するか

 以上のように、教師中心の一斉授業に必要な統率力とともに、子供の主体的・対話的で深い学びに発展していく授業の統率力が求められている。こうした多面的な統率力を身に付けるためには、習得、活用、探究をそれぞれ意図する授業を単元等の学習過程に位置付け、それぞれの場面に応じた多面的な統率力を身に付け発揮できるように意図的、計画的に、中長期的な視点で見通しを立て育成していくようにする。

 まずは基本となる習得を意図する授業が問題解決的に実践できるようにすることから始め、活用や探究に目を向けつなげていくようにする。次いで、教科指導の活用の場面での指導の在り方、総合的な学習の時間の単元を通した探究の指導の在り方を指導する。今、自分が何を意図して授業しているのか、指導案や週案に明示して臨むようにする。教師の立ち位置の意識が重要で、習得では前からの指導、活用では横からの助言、探究では後ろでの見守り・支援を意識して行うように指導する。評価では主体的な学びは、指導と評価から学習指導と学習評価に視点が変わり子供の自己評価・相互評価を重視する。

 リーダーの指導助言で最もふさわしいのは、実際に習得、活用、探究のそれぞれを意図する授業を見せて、一緒に考えることである。まずは、やって見せることから始めよう。

 

 

Profile
寺崎千秋(てらさき・ちあき)
 全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長

全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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