『新教育ライブラリPremier』(Vol.3)学校経営に役立つ「武将逸話」【武田晴信(信玄)】――人を使うのは人の業をつかうこと

トピック教育課題

2020.09.30

学校経営に役立つ「武将逸話」【武田晴信(信玄)】――人を使うのは人の業をつかうこと

小社の『新教育ライブラリPremier』Vol.3 (2020年9月配本)には、付録としてプレミアムPOCKET BOOK「学校経営に役立つ『武将逸話』16選」がつきます。ここでは、その中から、戦国時代の武将 武田晴信(信玄)の逸話と、それにまつわる考察について紹介したいと思います。(編集部)

人の石垣を組む

 「かやまゆうぞう」さんという例えがある。漢字を当てると、「可山優三」となる。つまり優良可の三段階、その可が山をなしていても、何か優れたところが二、三あれば良いというのである。極端に言えば優一でも良いのである。その良いところを見つけ伸ばすことだという。こうした発想は特に新しいものではないが、企業に限らず教育界にも当てまる。教師は教員免許を持ち、都道府県の採用試験に合格している者であるので、ある意味では粒ぞろいと言える。しかし、個々にみると能力、個性、意欲は様々である。この様々な個性や能力、意欲の中から優れた面を見つけ伸ばしてやること、学校の組織に位置付け、能力を発揮させるということになる。恰も城の石垣を組むようなものである。大小や形や硬さ、角も様々なものを組み合わせて、ずれないよう、崩れないよう、動かないよう、しかも美しく、機能的であるようにするのである。

城を頼まず

 晴信は、終生、甲斐國中に城を築かなかった。その居所の堀は一重で狭く浅かった。老臣たちが「お城はとても小さく粗末である。こんなことで良いのですか」と諌めたところ、晴信は「よく考えてみよ、國持が城に籠って運を開いたということはほとんどない。ただし、主人持ちの侍が後詰を頼みにしている場合には、堅固の地に、城を丈夫に築くことは大事だ。しかし、三カ国も支配する大将が大きな城一杯に籠るほどの大人数を持っているならば、国境打って出て大合戦をして勝つ、それが当たり前だ、人数を多く持っているのに国境に出て戦もできぬようなら、たとえ籠城しても、士卒は逃げてしまうであろう。大将たる者は、士を愛しみ、法度や軍法を定め、戦をすることを朝晩の仕事と心得、心のなかであれこれと思い巡らせるのである。それは、城を普請するよりはるかに大仕事なのだ。大将一人にて多人数を働かし勝つ、これが大将の第一の仕事である」と言った。

 またある時、「人の使いようというものは、人そのものを使うのではない。その人の特長とする業を使うのである。政治も特長を生かして行い、能力を殺すことがないように人を使ってこそ心地がよい」と言った。

与えられた人・物・金で勝負する

 学校経営が企業などと異なることの大きな一つは、校長には企業のような人事権がないことである。あるのは校内人事権である。学校によっては、その校内人事も人事委員会などの組織に委ねている場合すらあるという。これは論外としても、こんなところから、校長は与えられた駒で勝負するとか、甚だ自虐的な譬えになるが〝雇われマダム〟などと言われる。人事だけではない。これも俗な言い方であるが、校長は与えられた条件(人・物・金)で学校経営をしなければならないと言われるのである。与えられた人・物・金というのは裏返せば、親方日の丸と言えなくもない。それらがある程度に保障されている、苦労することもない、敢えて勝負などに拘らなくても日は過ぎる。しかし、それでも敢えて勝負をする。それが大将というものであり校長というものである。

 晴信曰く、「まさか負けるはずのない戦に負けたり、滅亡しはしないであろう家が亡びたりすることがある。人々はこれを天命だという。しかし、わしはそうは思わない。それはやり方が悪いためなのだ、予ねてのやり方だ、日頃のやり方さえ良くしておけば、負ける筈はなかろう。だから、我が家の作法は常に猥りがましきがないよう、また道理に背かないように気を配っているのだ」と。

 校長はあてがい扶持に甘んじることなく、また僻むことなく、誇りを持って経営に当たるべきである。

◆ほかに採録された武将逸話

・太田資長(道灌):花も咲かせ、実も結ばせる努力を 
・北条早雲:人の心をとらえて仕事をさせる
・小早川隆景:熟慮すれば後悔なし
・織田信長:社会が人をつくり、人が時代をつくる
・豊臣秀吉:人との距離を縮める心得とは
・長宗我部元親:人は「言」と「行」で分かる
・徳川家康:長たる者の器と量
・山内一豊:一人ひとりを生かすことを考える
・蒲生氏郷:人の持つすぐれた能力・特性を見出す 
・石田三成:大義を思う者、決して望みを捨てず
・加藤清正:適材・適所で人を生かす
・細川忠興:意欲を持たせるには、その人の存在を認める
・伊達政宗:心の自己管理に努める
・黒田長政:決断するのは衆議をつくして後
・前田利常:言葉をかけるのは忙しい時に限れ

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