やってはいけない外国語の授業あれこれ

菅正隆

やってはいけない外国語の授業あれこれ[第1回] ここがポイント! これで子どもたちは救われる!

トピック教育課題

2020.09.07

やってはいけない外国語の授業あれこれ[第1回]
ここがポイント! これで子どもたちは救われる!

大阪樟蔭女子大学教授
菅 正隆

『新教育ライブラリ Premier』Vol.1 2020年5月

1.ピンチはチャンス

 多くの学校で、卒業式、入学式が新型コロナウイルスで中止になった。私も卒業式が中止となり、代わりに事務手続きで卒業生を大学に呼んだ。ほぼ全員がはかま姿(女子大学)で出席したが、先生方からの祝辞の時間も設けることができず、私が短い挨拶をした。「人生、ピンチはチャンスだ! お母さん、おばあちゃんになったときに、子どもや孫にこう語ってください。『お母さん、おばあちゃんのとき、卒業式はなかったんだよ。歴史でも習ったでしょ。そう、あのときなの』と絶対にない体験を語りかけてください。そんな体験をした唯一の学生だったんだと伝えてください。こう考え方を変えることが生きる力になるのです」と。今、大学は遠隔授業となり、対面授業は秋以降になった。遠隔授業で改めて英語の授業を振り返ると、無駄な授業、つまらない授業、学力のつかない授業などが数多くあることが分かる。これが多くの学校で行われているのが現状である。そして、これが国立教育政策研究所の調査の「英語は嫌われる教科」につながる。そこで今回、6回に分けて英語の授業でやってはいけないNG事例を取り上げ、改善策を示していく。

2.ひどい授業の典型(授業以前に)

 毎年、校種を問わず100本ほどの授業を参観している。そこでは、授業を見る以前にひどい授業だろうと分かることがある。多くの人は、授業方法に問題があって、学力を上げられないと思っている。しかし、実はそれ以前の問題が子どもたちのやる気を削ぎ、勉強に向かわせていないのである。右に例を挙げる。誰でも一つや二つ思い当たるであろう。思う人は救われる。思わない人が問題なのである。改めてチェックをして、魅力的な先生、魅力的な授業とはどのようなものか再確認していただきたい。

●やってはいけない外国語の授業

□(1)授業環境
 教室が汚れ、掲示物がはがれ、床にごみや荷物が散乱している。この荒廃感が子どもたちの勉強に向かう意識を阻害している。せめて学級担任に改善を要請したり、授業開始前に子どもたちにゴミを拾わせるなどの習慣を身に付けさせることで授業崩壊を阻止したい。

□(2)教師の魅力
 教員に魅力がなく、子どもたちに勉強がしたいという気持ちを抱かせない。教師に嫌悪感を抱く子どもさえおり、英語の授業を真剣に受けず、学力は塾で付けるものと思う。魅力がないのは仕方がないと開き直らず、同僚や子どもに聞くなど、常にアンテナを張って改善を図るべきである。

□(3)教師のコミュニケーション能力
 英語の授業はコミュニケーション能力を向上させることにある。それなのに、コミュニケーション能力が低いために、子どもや保護者、同僚とも意思疎通が困難な場合もある。学校側は、このような教師に対して、目先の支援だけでなく、根本から再教育していく必要がある。

□(4)服装、髪型
 ヨレヨレの服装、起きがけの髪型、無精ヒゲ、酒やタバコの臭い、香水の匂いがきつく、生活臭ありあり。これでは、今時の子どもが授業に向かわないのは当然である。先生は子どもたちの前ではスターである。多くの子どもの視線が先生一点に注がれる。それが、汚い、臭いでは誰も授業に集中しない。

□(5)英語運用能力
 昨今、教員採用者から英語教員の英語力が低下していると聞く。景気がよく、英語ができれば外資や民間企業にいく傾向が強い。また、マスコミによるブラックイメージが希望者の減少にもつながっている。英語能力の低い教師では、子どもの知識欲を十分に満足させることなどできない。

□(6)やる気度
 人は誰でも長年同じことを継続するとマンネリ化を生じる。しかし、教育現場は意識改革が遅々として進まない。やる気に拍車がかからない。さらなる研究授業や研修、子どもや保護者からの評価、給与や待遇にもコペルニクス的大転回が必要なのかもしれない。

□(7)児童、生徒への感情
 子どもを苦手とする教員が増えている気がする。子どものために身を削るなど昭和的な発想なのかもしれない。英語が苦手な子どもを鼻から馬鹿にするなど、子どもを負のスパイラルに送り込む。自分の非を全て子どもに押し付ける。このような教員でも採用しなければならない時代である。

□(8)英語の発音
 教員の英語力低下から、発音がひどく、流暢に英語を話せない教員が増えている。子どもは心の中で「英語が話せるようになりたい」と願っている。それなのに、英語とは似ても似つかない発音をする。英語教員は教壇に立つ限り、一生、英語力のブラッシュアップに努めるべきである。

□(9)板書方法
 黒板に板書した英文や説明をただひたすらにノートに書き写させている教師がいる。これなら、スマホで写真を撮るほうが効率がいい。このような教師にこそユニバーサルデザインの研修を施すべきである。板書は時間と効果とを計算して使用することが必要である。

□(10)IT機器
 今回のコロナウイルスの件で、多くの学校で遠隔授業やPCを活用した授業に取り組んでいる。英語教育は会話などアナログ中心の授業だが、今後はギガスクールなどITを活用した授業に変革する。今からでも遅くない。ITを活用した授業ができるよう技能を身に付けることが、教師として生き残る術でもある。

□(11)教育委員会
 全国を見渡すと、教育委員会の本気度に格差が生じ始めている。その多くが教育長のリーダーシップによる。教育長の資質能力、教育に対するビジョン、そして、子どもや地域への愛が格差を生んでいる。首長の顔色伺いだけでは、決して教育は変えられない。

3.魅力的な授業に変える手立て

 列挙した課題を解決するためには、さまざまな立場で改善に取り組まなければならない。具体的には、以下のとおりである。

(1)教育委員会として
 昨今、教育委員会の研修予算が削られている。限られた予算の中から、様々な課題に対する支出が増え、研修まで手が回らないとの理由である。これだけ教員の質が低下している現在、更に研修に力を注ぐのが筋である。予算を確保するためにも、是非、教育長や指導主事には財務と闘っていただきたい。

(2)学校として
 団塊の世代が大量退職し、匠の授業や子どもへの対応の術が若い教員に伝授されていない。英語の授業も然りである。ここは管理職の号令の下、授業参観や校内研修を増やし、指導力向上を図るとともに、課題のある教員にはチームを組み、みんなで教え合う雰囲気を醸成させることである。

(3)英語教師として
 英語は普段の生活では使わない言語である以上、英語力は日に日に低下していくものである。したがって、毎日英語を勉強することが求められる。小学校教員とて同じこと。教員の英語力が子どもにも還元される。努力しない教師は時代から取り残されるのである。

 

Profile
菅 正隆(かん・まさたか)
 岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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大阪樟蔭女子大学教授

岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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