授業力を鍛える新十二条
授業力を鍛える新十二条[第3回]学ぶ子どもの立場で教材を見つめる 第三条:〈教材研究の知恵〉――「教材分析」
トピック教育課題
2019.09.20
問題解決策の実現の可能性を見極める
試行錯誤から見えてくること
教材分析は机上の空論で終わってはいけない。実際の授業に活用される分析になっていることが大切である。教材分析で得られた問題解決への知見が、現実の授業でどれだけ実現可能なのかを試すことも教材分析の守備範囲と言える。中村中学校の教材分析会が模擬授業を位置付けているのは、教材分析の精度を高めて、それが実践に生かされるものにしていくことを重視しているからである。
山下教諭は模擬授業を進めながら、生徒の思考や表現を深めるための活動が空転していることを実感した。生徒が転調によって変化した音のニュアンスを感じ取ることや感性を働かせてそれを効果的に表現するための具体的な支援や活動の場が用意できていないことに気付くことになった(図5)。また、岡田教諭も、模擬授業を進めていく過程で教師の描いた文脈と生徒の既習経験に基づく思考とが乖離していることを感じていた。数量関係を表現するために文字を必要とすることや文字式で表現したことのよさを実感するためには、これまでの小学校算数科の学習との関連を明確にした課題を用意する必要性に関心が向くことになった(図6)。
つまり、教材分析から得られた知見を模擬授業で試すことで、それを授業レベルで見直すことにつながったわけである。子どもにとって価値ある教材とは何かを意識していくことが重要であり、子ども不在の中での教材分析は意味を持たない。常に子どもが教材を通して確かに学べているのか、身に付ける資質・能力の獲得へ向けて適しているのかといった両者の関係を丁寧に見極めていくことが大切である。
実践を通して磨く教材分析感覚
研究の質と方法のブラッシュアップ
中村中学校の授業改善研究は年度開始とともに始まり、年間を通して継続的に行われ、教師はその成果を日々の授業改善につなげている。以前は特定の教科で行われていた教材分析と授業研究をセットにした取組は、次第に教科の範囲を広げて行われるようになり、今では他教科の教師も教材分析に参加することで、そこでの学びを担当する教科に置き換えて研究の質や方法の向上を目指すようになってきている。日常的に教材分析感覚を磨こうとする教師が増えてきている。
実践的に教材分析を繰り返していくことで、前述までの
・期待される能力ベイスの授業の設定
・授業の実現への問題の所在の明確化 ~教材分析の視点の焦点化~
・問題の解決策の設定 ~指導の重点の明確化~
・解決策の実現の可能性の検証 ~模擬授業を通した子どもと教材との関連の把握~
といった教材分析の営みが日常的に展開できるようになり、これらがこれからの教師に期待される授業力を支えることになる。
[引用・参考文献]
・齊藤一弥共著『しっかり教える授業・本気で任せる授業』ぎょうせい、2014年、pp.66-126
・文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)」2016年
・齊藤一弥「授業力を鍛える新十二条 これからの授業づくりのあり方」『リーダーズ・ライブラリ』(Vol.1)、ぎょうせい、2018年、pp.66-69
Profile
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 東京都出身。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。横浜市教育委員会授業改善支援課首席指導主事、指導部指導主事室長として「横浜版学習指導要領」策定、横浜型小中一貫教育の企画・推進などに取り組む。平成24年度より横浜市立小学校長を経て平成29年度より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議協力者。主な編・著書に『「数学的に考える力」を育てる授業づくり』(東洋館出版社)、『算数言語活動実践アイディア集』(小学館)、『シリーズ学びの潮流4 しっかり教える授業・本気で任せる授業』(ぎょうせい)、『平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 算数』(ぎょうせい)などがある。