ここがポイント!学校現場の人材育成

高野敬三

ここがポイント!学校現場の人材育成[第2回]新任教員の即戦力化〈その2〉

トピック教育課題

2019.08.26

ここがポイント!
学校現場の人材育成

[第2回]新任教員の即戦力化〈その2〉

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.2 2019年6月

●本稿のめあて●
前回は、新任教員の増加による課題とその課題解決のための視点と方策を三つ挙げ、第1の視点として、新任教員の任用前の取組について詳解しました。今回は、第2の視点である、大学における教員養成の視点について説明をします。

新任教員の増加による課題

 ここで改めて、前回にも述べた課題を整理して再掲することとします。教員の大量退職に伴う新任教員の大量採用により、児童生徒と年齢が近いフレッシュな教員が指導に当たる反面、実践的指導力に長けたベテランの教員が定年退職をして新任教員が増えることにより、学校内で児童生徒指導や教科指導に関する技術などが継承されない事態が生じています。

課題解決のための視点と方策―その2

 第1回目であった前回では、課題解決のための視点と方策について、三つある視点の第1の視点として、教員採用選考合格者が学校の教員として教壇に立つ前の任用前のプレ研修について取り挙げました。

 今回は、第2の視点として、教員は、大学等における教職課程において教育職員免許法で定める科目の単位を修得していることが前提となっていますが、この大学等における教職の科目や科目内容などが学校現場で求められるものとなっているかどうかについて見ていくこととします。こうした科目は、教育職員免許法施行規則別表において、基礎資格としての学位の修得を前提に、免許状の種類、校種、教科別に細かく規定されています。従前は、教科に関する科目を何単位、教職に関する科目を何単位、教科または教職に関する科目を何単位などと規定していましたが、中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」(平成27年12月)に基づき、新たな課題(英語、道徳、ICT、特別支援教育)やアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善、学校インターンシップの導入、教職課程に係る質保証・向上の仕組みの導入や「教科に関する科目」と「教職に関する科目」の統合など科目の大括り化などを柱とした新たな法律が施行され、この4月から大学に入学した学生に適用されました。例えば、中学校で一種免許を取得する場合は、次頁の表にある科目について総合計59単位を修得する必要があります。

 どんな科目を何単位修得すれば教育職員免許状が取得できるかは、この一例で分かるかと思いますが、実は、これらの科目については、これまで、文部科学省から課程認定を受けている600大学において、科目担当者の裁量により授業が行われていました。有り体に言えば、教職課程を設置している大学に対する実地視察はあるものの、A大学の「教育原理」は、B大学のそれとは内容もレベルも全く別物であることが常態化していたのです。古典的な学芸的な面のみを強調し、学校現場で教員養成に求めていることとは全く異なった内容の授業を行っている大学もあったのではないでしょうか。

 一方、従前から、保育所には保育所保育指針、幼稚園には幼稚園教育要領、小中高と特別支援学校には学習指導要領があり、全国的に、何を目標に、何を教えるのかははっきりしていました。大学には、過去、そのようなものがなかったのです。筆者の周りの教育関係者以外の方々にその話をすると、みんな驚愕しており信じられないとの意見でした。

 こうしたことから、文部科学省は、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討委員会」を平成28年8月に立ちあげ、その報告書を平成29年11月にまとめ、中教審の教員養成部会に挙げ了承されました。この教職課程コアカリキュラムの優れた点は、教科に関する専門的な事項以外のすべての科目区分において、全体目標(科目を履修することにより学生が修得する資質能力)と一般目標(全体目標を内容のまとまりごとに分化させた目標)、到達目標(学生が一般目標に到達するために達成すべき個々の規準)を明示したことです。

教委の取組と役割―その2

 こうした制度改正を受けて、まず、教育委員会に求められることは、教員採用選考の内容の改善です。各教育委員会は、それぞれ要項を定めて選考を行っていますが、47都道府県・政令指定都市の公表されている問題を見るとそれなりに工夫はされてはいますが、表面的は知識をクイズ的に出題している場合も多くあります。断片的な知識を問うのではなく、思考力・判断力を読み取ることに主眼を置き、少なくとも、各教育委員会の担当者は、「教職課程コアカリキュラム」を基に、そこで示されている到達目標として掲げられている事項を踏まえて問題を作成すべきです。

 次に、先に述べました平成27年の中教審答申は、教員の養成・採用・育成の一体的改革がその根底にありますので、採用権者である教育委員会は、大学等の関係者を入れた「教員育成協議会」を設置して、教員育成指標(校長及び教員としての資質の向上に関する指標)を教育委員会主導で作成すべきです。言うまでもなく、子供の教育を行う教員を採用する教育委員会は、遠慮なく大学に「モノを申し」、「本県では、こうした教員を育成するのであるから、養成段階できちんと対応すべきである」と姿勢を示すことが求められます。

 次回は、教員等としての資質の向上に関する指標について取り上げていきます。

 

Profile
明海大学副学長
高野 敬三

たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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