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トピック教育課題

2019.09.11

学習指導要領解説 総則編[抜粋]

平成29年6月 文部科学省

2 特別な配慮を必要とする児童への指導

(1)障害のある児童などへの指導

② 特別支援学級における特別の教育課程(第1章第4の2の(1)のイ)

 今回の改訂では、特別支援学級において実施する特別の教育課程の編成に係る基本的な考え方について新たに示した。

 (ア)では、児童が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識及び技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培うことをねらいとした、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に示す自立活動を取り入れることを規定している。特別支援学校小学部・中学部学習指導要領では、自立活動の内容として、「健康の保持」、「心理的な安定」、「人間関係の形成」、「環境の把握」、「身体の動き」及び「コミュニケーション」の六つの区分の下に27項目を設けている。自立活動の内容は、各教科等のようにその全てを取り扱うものではなく、個々の児童の障害の状態等の的確な把握に基づき、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な項目を選定して取り扱うものである。よって、児童一人一人に個別の指導計画を作成し、それに基づいて指導を展開する必要がある。個別の指導計画の作成の手順や様式は、それぞれの学校が児童の障害の状態、発達や経験の程度、興味・関心、生活や学習環境などの実態を的確に把握し、自立活動の指導の効果が最もあがるように考えるべきものである。したがって、ここでは、手順の一例を示すこととする。

(手順の一例)

a 個々の児童の実態を的確に把握する。
b 実態把握に基づいて得られた指導すべき課題や課題相互の関連を整理する。
c 個々の実態に即した指導目標を設定する。
d 特別支援学校学習指導要領小学部・中学部学習指導要領第7章第2の内容から、個々の児童の指導目標を達成させるために必要な項目を選定する。
e 選定した項目を相互に関連付けて具体的な指導内容を設定する。

 (イ)では、学級の実態や児童の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を考慮の上、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第1章の第8節「重複障害者等に関する教育課程の取扱い」を参考にし、各教科の目標や内容を下学年の教科の目標に替えたり、学校教育法施行規則第126条の2を参考にし、各教科を、知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校の各教科に替えたりするなどして、実態に応じた教育課程を編成することを規定した。

 これらの特別の教育課程に関する規定を参考にする際には、特別支援学級は、小学校の学級の一つであり、通常の学級と同様、第1章総則第1の1の目標を達成するために、第2章以下に示す各教科、道徳科、外国語活動及び特別活動の内容に関する事項は、特に示す場合を除き、いずれの学校においても取り扱うことが前提となっていることを踏まえる必要がある。その上で、なぜ、その規定を参考にするということを選択したのか、保護者等に対する説明責任を果たしたり、指導の継続性を担保したりする観点から、理由を明らかにしながら教育課程の編成を工夫することが大切であり、教育課程を評価し改善する上でも重要である。ここでは、知的障害者である児童の実態に応じた各教科の目標を設定するための手続きの例を示すこととする。

(各教科の目標設定に至る手続きの例)

a 小学校学習指導要領の第2章各教科に示されている目標及び内容について、次の手順で児童の習得状況や既習事項を確認する。
・当該学年の各教科の目標及び内容について
・当該学年より前の各学年の各教科の目標及び内容について

b aの学習が困難又は不可能な場合、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の第2章第2款第1に示されている知的障害者である児童を教育する特別支援学校小学部の各教科の目標及び内容についての取扱いを検討する。

c 児童の習得状況や既習事項を踏まえ、小学校卒業までに育成を目指す資質・能力を検討し、在学期間に提供すべき教育内容を十分見極める。

d 各教科の目標及び内容の系統性を踏まえ、教育課程を編成する。

③ 通級による指導における特別の教育課程(第1章第4の2の(1)のウ)

 今回の改訂では、通級による指導を行い、特別の教育課程を編成する場合について、「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に示す自立活動の内容を参考とし、具体的な目標や内容を定め、指導を行うものとする。」という規定が新たに加わった。したがって、指導に当たっては、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に示す自立活動の6区分27項目の内容を参考とし、上記イの(ア)で述べたとおり、児童一人一人に、障害の状態や特性及び心身の発達の段階等の的確な把握に基づいた自立活動における個別の指導計画を作成し、具体的な指導目標や指導内容を定め、それに基づいて指導を展開する必要がある。

 児童が在籍校以外の小学校又は特別支援学校の小学部において特別の指導を受ける場合には、当該児童が在籍する小学校の校長は、これら他校で受けた指導を、特別の教育課程に係る授業とみなすことができる(同規則第141条)。このように児童が他校において指導を受ける場合には、当該児童が在籍する小学校の校長は、当該特別の指導を行う学校の校長と十分協議の上で、教育課程を編成するとともに、定期的に情報交換を行うなど、学校間及び担当教師間の連携を密に教育課程の編成、実施、評価、改善を行っていく必要がある。

 なお、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部改正(平成29年3月)により、通級による指導のための基礎定数が新設され、指導体制の充実が図られている。

④ 個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成と活用(第1章第4の2の(1)のエ)

 今回の改訂では、特別支援学級に在籍する児童や通級による指導を受ける児童に対する二つの計画の作成と活用について、これまでの実績を踏まえ、全員について作成することとした。

 また、通常の学級においては障害のある児童などが在籍している。このため、通級による指導を受けていない障害のある児童などの指導に当たっては、個別の教育支援計画及び個別の指導計画を作成し、活用に努めることとした。

 そこで、個別の教育支援計画及び個別の指導計画について、それぞれの意義、位置付け及び作成や活用上の留意点などについて示す。

① 個別の教育支援計画
 平成15年度から実施された障害者基本計画においては、教育、医療、福祉、労働等の関係機関が連携・協力を図り、障害のある児童の生涯にわたる継続的な支援体制を整え、それぞれの年代における児童の望ましい成長を促すため、個別の支援計画を作成することが示された。この個別の支援計画のうち、幼児児童生徒に対して、教育機関が中心となって作成するものを、個別の教育支援計画という。

 障害のある児童などは、学校生活だけでなく家庭生活や地域での生活を含め、長期的な視点で幼児期から学校卒業後までの一貫した支援を行うことが重要である。このため、教育関係者のみならず、家庭や医療、福祉などの関係機関と連携するため、それぞれの側面からの取組を示した個別の教育支援計画を作成し活用していくことが考えられる。具体的には、障害のある児童などが生活の中で遭遇する制約や困難を改善・克服するために、本人及び保護者の意向や将来の希望などを踏まえ、在籍校のみならず、例えば、家庭、医療機関における療育事業及び福祉機関における児童発達支援事業において、実際にどのような支援が必要で可能であるか、支援の目標を立て、それぞれが提供する支援の内容を具体的に記述し、支援の内容を整理したり、関連付けたりするなど関係機関の役割を明確にすることとなる。

 このように、個別の教育支援計画の作成を通して、児童に対する支援の目標を長期的な視点から設定することは、学校が教育課程の編成の基本的な方針を明らかにする際、全教職員が共通理解をすべき大切な情報となる。また、在籍校において提供される教育的支援の内容については、教科等横断的な視点から個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を検討する際の情報として個別の指導計画に生かしていくことが重要である。

 個別の教育支援計画の活用に当たっては、例えば、就学前に作成される個別の支援計画を引き継ぎ、適切な支援の目的や教育的支援の内容を設定したり、進路先に在学中の支援の目的や教育的支援の内容を伝えたりするなど、就学前から就学時、そして進学先まで、切れ目ない支援に生かすことが大切である。その際、個別の教育支援計画には、多くの関係者が関与することから、保護者の同意を事前に得るなど個人情報の適切な取扱いに十分留意することが必要である。

② 個別の指導計画
 今回の改訂では、総則のほか、各教科等の指導において、「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」として、当該教科等の指導における障害のある児童などに対する学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うことが規定された。このことを踏まえ、通常の学級に在籍する障害のある児童等の各教科等の指導に当たっては、適切かつ具体的な個別の指導計画の作成に努める必要がある。

 特別支援学級における各教科等の指導に当たっては、適切かつ具体的な個別の指導計画を作成するものとする。また、各教科の一部又は全部を、知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校の各教科に替えた場合、知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校の各教科の各段階の目標及び内容を基にして、個別の指導計画に基づき、一人一人の実態等に応じた具体的な指導目標及び指導内容を設定することが必要である。

 なお、通級による指導において、特に、他校において通級による指導を受ける場合には、学校間及び担当教師間の連携の在り方を工夫し、個別の指導計画に基づく評価や情報交換等が円滑に行われるよう配慮する必要がある。

 各学校においては、個別の教育支援計画と個別の指導計画を作成する目的や活用の仕方に違いがあることに留意し、二つの計画の位置付けや作成の手続きなどを整理し、共通理解を図ることが必要である。また、個別の教育支援計画及び個別の指導計画については、実施状況を適宜評価し改善を図っていくことも不可欠である。

 こうした個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成・活用システムを校内で構築していくためには、障害のある児童などを担任する教師や特別支援教育コーディネーターだけに任せるのではなく、全ての教師の理解と協力が必要である。学校運営上の特別支援教育の位置付けを明確にし、学校組織の中で担任する教師が孤立することのないよう留意する必要がある。このためには、校長のリーダーシップのもと、学校全体の協力体制づくりを進めたり、全ての教師が二つの計画についての正しい理解と認識を深めたりして、教師間の連携に努めていく必要がある。

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