何を学び、どう生かすか [小学校・質問紙] 寺崎千秋(一財・教育調査研究所研究部長)

トピック教育課題

2019.05.21

成果を上げている教師の取組

 「主体的・対話的で深い学びの視点による指導の改善の取組状況」では、教師が児童について、話し合い活動がしっかりできる、自分の考えを広げたり深めたりすることができる、課題を理解して取り組んだり、自分の考えが伝わるように工夫したりできると捉えている場合に平均正答率が高くなっている。

 一方、教師が習得・活用・探究の学習過程を見通した指導方法の工夫、発言や活動の時間の確保、学級やグループでの話合い活動の取り入れ、調べたこと考えたことを分かりやすく文書に書かせるなどの指導を行っている場合に平均正答率が高くなっている。これに関する教師の取組の割合も9割前後と高く、創意工夫や努力の跡がうかがえる。この他の調査結果においても8割から9割強が「行った・行っている」などの肯定の回答であり、各学校が努力し結果もよい方向にあることがうかがえる。

学校質問紙と児童生徒質問紙のクロス分析

①「主体的・対話的で深い学びの視点による学習指導の改善の取組状況」に関する〔学校質問紙と児童生徒質問紙のクロス分析〕では、以下の6点を報告している( 以下の( )内の数値は「一定割合存在する」に該当する数値(%)である)。

  • ・学校は「調査対象学年の児童は、学級やグループでの話合いなどの活動で、自分の考えを深めたり、広げたりすることができている」と考えていても、「学級の友達との間で話し合う活動を通じて、自分の考えを深めたり、広げたりすることができている」と思っていない児童生徒が一定割合存在する(31.4)
  • ・学校は「調査対象学年の児童は、授業において自らの考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して、発言や発表を行うことができている」と考えていても、「自分の考えを発表する機会では、自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組み立てなどを工夫して発表していた」と思っていない児童生徒が一定割合存在する(35.7)
  • ・学校は「調査対象学年の児童に対して、前年度までに、発言や活動の時間を確保して授業を進めた」と考えていても、「授業では、自分の考えを発表する機会が与えられていた」と思っていない児童が一定割合存在する(14.7)
  • ・学校は「調査対象学年の児童に対して、前年度までに、学級やグループで話し合う活動を授業などで行った」と考えていても、「授業では、学級の友達との間で話し合う活動をよく行った」と思っていない児童が一定割合存在する(16.5)
  • ・学校は「調査対象学年の児童に対して、前年度までに、総合的な学習の時間において、課題の設定からまとめ・表現に至る探究の過程を意識した指導をした」と考えていても、「「総合的な学習の時間」では、自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいる」と思っていない児童が一定割合存在する(33.9)
  • ・学校は「調査対象学年の児童に対して、前年度までに、授業において、児童自ら学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現するなどの学習活動を取り入れた」と考えていても、「授業では、学級やグループの中で自分たちで課題を立てたり、その解決に向けて情報を集め、話し合いながら整理して、発表するなどの学習活動に取り組んでいた」と思っていない児童が一定割合存在する(24.2)

(②「学習評価の在り方」に関する〔学校質問紙と児童生徒質問紙のクロス分析〕の結果、⑤「ユニバーサルデザイン、規範意識、道徳の時間」に関する〔学校質問紙と児童生徒質問紙のクロス分析」の結果、及び⑥「その他の学校質問紙と児童生徒の質問紙のクロス分析」の結果は略)

教師と児童の意識差に学ぶ

 「主体的・対話的で深い学びの視点による学習指導の改善の取組状況」では、教師が「できている」と自己評価していても、「どちらかといえば、そう思わない」「そう思わない」と回答している児童が約2割から3割強程度存在する。「学習評価の在り方」においても「先生は、あなたのよい点や可能性を認めてくれている」と思っていない児童が2割近くいる。このことの意味をしっかりと考える必要がある。教師の自己評価が甘いのではないか。一人一人に目が届いていないのではないかということが考えられる。今後、実際の状況や児童の声を分析して指導上の課題を明らかにする必要がある。児童の立場、児童の身になってもっと指導と評価の一体化を工夫する必要がある。また、授業後にも児童に声をかけ、学習したことが身についていると思うか、自分が認められていると思うかなどの反応を直接確かめて指導を振り返ることも必要である。主体的・対話的で深い学びはこれらの課題を解決することからアプローチできるのではないか。

授業改善・授業づくりのポイント

 調査結果から児童の主体的・対話的で深い学びを視点にして授業改善に取り組むことが学力の確保・向上に資するものとなっていることがうかがえる。特に、児童の主体性の発揮を重視する以下の指導を大切にしたい。

  • 〇「総合的な学習の時間」で自分で課題を立てて情報を集め整理して調べたことを発表する学習活動
  • 〇課題に対して自ら考え自分から取り組むようにする学習活動
  • 〇自分の考えを発表し、友達と話し合う活動
  • 〇自分の考えをうまく伝えるために資料や文章、話の組み立てなどを工夫して発表する学習活動
  • 〇国語の授業での読む・書く・話すなどの学習活動
  • 〇多面的な評価を工夫したり、形成的な評価を行ったりして、児童が自己の資質・能力の伸びを把握できるようにする学習活動

 こうした児童主体の学習が成立するためには、日常の授業において以下の指導を大切にしたい。

  • ・習得・活用・探究を見通した指導の工夫
  • ・多様な考えを引き出し、思考を深める発問の工夫
  • ・総合的な学習の時間において、課題の設定からまとめ・表現に至る過程を意識した指導の工夫
  • ・児童自ら課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現する学習活動を取り入れる工夫
  • ・自分で調べたことや考えたことを分かりやすく文章に書けるようにする指導の工夫
  • ・家庭学習の取組として、調べたり文章を書いたりしてくる宿題の出し方の工夫   等々。

調査結果を生かした校内研究の進め方

 本報告書の結果を参考にしながら、自校の結果を分析し、児童のよさや進歩、これまでの取組の成果や課題などを具体的に明らかにする。

 結果をもとに、今後、何を課題としてどのように対応するか、取り組むかについて明らかにする。取り組むべき課題に優先順位を付けて絞り込み、研究テーマとして具体的に表現する。

 研究方法は当然ながら授業研究を中心に据え、教師自らがアクティブ・ラーニングで考え協議する。そのプロセスはカリキュラム・マネジメントであり、教育課程全体を視野に入れながら研究を推進する。

 

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋
Profile
てらさき・ちあき 一般財団法人教育調査研究所研究部長。東京都公立小学校教員。東京都教育委員会指導主事、同主任指導主事。都立教育研究所教科研究部長。練馬区立開進第三小学校長、同光和小学校長。全国連合小学校長会会長。全国生活科・総合的な学習教育研究協議会会長。生活科・総合的な学習教育学会常任理事。中央教育審議会臨時委員。文部科学省政策評価有識者会議委員。東京学芸大学教職大学院特任教授。著書『新教育課程完全実施の授業力更新』他、多数。

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