「社会に開かれた教育課程」は未来に何を残せるか 「総合的な学習」のプログラム編成の視点

トピック教育課題

2020.11.16

「社会に開かれた教育課程」は未来に何を残せるか
「総合的な学習」のプログラム編成の視点

日本大学教授
佐藤晴雄

『新教育ライブラリ Premier』Vol.3 2020年10月

「学習プログラム」と学習課題

 学習プログラムとは、主として生涯学習や社会教育の領域で用いられ、学習指導案の略案にほぼ相当する用語です。社会教育では「指導」よりも学習者の主体性を重視する考え方に基づくことから、学習指導案のように指導者の働き方について具体的に記されていないのが普通です。しかし、学習プログラムの考え方は「社会に開かれた教育課程」において注目されてよいでしょう。言うまでもなく、各教科の学習は教科書中の「単元」に縛られてしまいますが、「総合的な学習」では学習の課題設定や展開に柔軟性があることから、学習プログラムという発想を採り入れることが可能になるからです。

 筆者は長い間、社会教育の学級・講座などの学習プログラムに関心を持ち、その類型化を試みました(佐藤2013)。その類型は、直線型とそれを応用した分岐型、さらに放射状という3タイプになります。

 また、社会教育では学習課題を必要課題と要求課題という視点から設定していきます。必要課題は児童生徒すなわち学習者に学んでほしいという課題であり、要求課題は学習者が希望する課題のことになります。「総合的な学習」の場合、学習指導要領によって4例示や地域・学校に応じた課題のほかに、「児童生徒の興味・関心に基づく課題」の設定も示されていることから、要求課題の設定も可能になります。そこで、今回は、社会教育のノウハウを活かした「総合的な学習」のプログラム編成の視点について述べていくことにします。

学習プログラムのタイプ

 まず学習プログラムのタイプについて取り上げてみます。直線型プログラムとは、図1に示したように、第1回目の学習から第5回(仮に5回で単元終了)にわたって学習が連続する形で展開されるように、学校教育のほとんどの学習指導で採用されているタイプです。その場合、配列は「基礎-応用」「作業手順」「時代・時季」などの一定のルールに基づき、累積的学習や仮説検証的な学習、時間軸、手順を踏む学習に適することになります。

 そして、第2回~第4回までの学習を複数の課題別コースに分岐させるタイプも主体的な学びに適することになります。たとえば、「地域の自然」と「地域の産業」などをコース別に学ぶようなタイプです(筆者は「分岐型プログラム」と名付けた)。直線型や分岐型は理解を深め、技術を習得する学習課題に用いられますが、児童生徒が欠席したり、つまずいたりした場合、学習の継続が困難になりがちだという欠点があります。

 そうした欠点を補うために、社会教育においては放射状プログラムが比較的多く採用されます。社会人相手の社会教育ではやむをえず欠席する学習者が少なくないからです。このタイプは図2に示したように、学習課題に向けて各回の学習が放射状のように配列されます。

 たとえば、「地域の人々の暮らし、伝統と文化を知る」という課題であれば、「第1回地域の歴史と文化財」「第2回地域の産業」「第3回地域住民の生活」「第4回地域の自然」「第5回まとめ」などの学習課題を組みます。各回は独立した形になるので、仮に第2回を欠席した学習者がいても、第3回以降の学習に大きな支障がなく、欠席分の学習は後日補えば済みます。したがって、社会教育では多く見られるタイプなのです。

 このタイプは、累積的な学習などには適しませんが、「横断的・総合的な学習」を行う「総合的な学習」に最適であり、「異なる視点から考え協働的に学ぶ」形態になります。各回の学習を児童生徒が独自に設定し、知見を共有化する学習にも期待されます。

 また、地域資源活用の観点から見ると、各回の学習テーマを入れ替えることができるので、地域人材や地域施設等の都合に合わせることが可能であることから、「社会に開かれた教育課程」の考え方に合致することになります。

学習課題設定の視点

 学習課題のうち必要課題は規範的ニーズとも言われ、改めて説明を要することではありませんが、「総合的な学習」の4例示や地域課題などをどう作業化するかが問われます。一方の要求課題は児童生徒の興味・関心を受け止めた課題であり、場合によっては彼らの希望も考慮した後に、作業化に入ります。作業化とは、抽象的な課題を、児童生徒の発達段階や生活環境等の要素に応じて、学習可能な形に具体化することだと定義しておきます。いずれの課題の作業化も、直線型プログラムの場合には時間軸にそって行い、放射状プログラムの場合には水平軸すなわち平面次元で行うことになります。

 以上のタイプや学習課題の捉え方は従来から学校教育においても用いられていましたが、ここでは改めて社会教育の学習プログラムの視点からそれぞれの特徴を整理したところです。特に、「総合的な学習」を社会に開いていくためには、地域資源の活用や多様な視点から学ぶことができる放射状プログラムを意識的に採り入れることも課題になると思われます。

 

[参考文献]
・佐藤晴雄『学習事業成功の秘訣!研修・講座のつくりかた』東洋館出版社、2013年

 

 

Profile
佐藤晴雄(さとう・はるお)
 日本大学文理学部教育学科教授。東京都大田区教育委員会、帝京大学助教授などを経て2006年から現職。中央教育審議会専門委員(初等中等教育分科会)、文部科学省コミュニティ・スクール企画委員、日本学習社会学会会長などを歴任。博士(人間科学)大阪大学。日本教育経営学会理事など。主な著書に、『コミュニティ・スクールの成果と展望』(ミネルヴァ書房)、『教育のリスクマネジメント』(時事通信社)、『新・教育法規解体新書』(東洋館出版社)ほか多数。

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