教科等と実社会とのつながりを生かす資質・能力の育成 「何ができるようになるか」 村川雅弘(甲南女子大学教授)

トピック教育課題

2019.05.16

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.1 2017年1月

 本稿では、中教審答申(平成28年12月21日)の第5章「何ができるようになるか-育成を目指す資質・能力-」(新教育課程ライブラリⅡ Vol.1 2017年 pp.27-45)を筆者なりの視点や事例を取り上げて紐解く。

育成を目指す資質・能力とは

 「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」の論点整理(平成26年3月)や次期学習指導要領改訂の方向性を明確に示した中央教育審議会教育課程企画特別部会の論点整理(平成27年8月)及び中央教育審議会教育課程部会の審議のまとめ(平成28年8月)では、先行き不透明な時代を生き抜くとともに未来の社会を創るこれからの子どもたちにどのような資質・能力を学校教育の中でどう育成すべきかを一貫して検討してきた。なお、「次期学習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ(素案)」(平成28年8月1日)までは「育成すべき資質・能力」と表記され、同「審議のまとめ(案)」(平成28年8月19日)以降は「育成を目指す資質・能力」に改められている。
 答申にも述べられているが、これまで国内外において実に様々な資質・能力が提案されてきた。村川(2014)はその整理を試み、共通点が多いことを明らかにし、おおよそ三つに整理した(1)。義務教育から高等学校段階で共通性が高いのは「問題解決力」と「対人関係形成力・協調性・コミュニケーション力」「自律性・主体性」である。教育課程企画特別部会の論点整理では「アクティブ・ラーニング」を「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と説明しているが、それとの符合は極めて高い。アクティブ・ラーニングが学習形態や学習方法の改善にとどまらず、「様々な課題に対して決して諦めることなく多様な他者とかかわりながら主体的かつ協働的に既有の知識や技能を活用して問題解決を図っていく生き方」に繋がるものであることが伺える。なお、答申では、国語力や数学力など各教科に関わる知識・技能も取り上げ、各教科等を学ぶ意義を明確にし、各教科等において育む資質・能力を明確にすることを指摘している。この点については、学習指導要領やその解説及び教科書等において具体的な提示がなされてくるだろう。

三つの柱及びその関連

 論点整理では、各教科等の学習を通じて育成する資質・能力として、①何を知っているか・何ができるかという「個別の知識・技能」、②知っていること・できることをどう使うかという「思考力・判断力・表現力等」、③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るかという「学びに向かう力・人間性等」という三つの柱で構造的に示した。その後、改訂に向けた各教科等及び学校種別のワークキングにおいてはこの三つの柱を中心に具体的な協議が進められ、これまで各教科等や発達段階を越えて複数存在していた資質・能力を、幼児教育段階から高等学校段階までを貫くものとして一本化された。
 論点整理と比べ、審議のまとめ及び答申では文言において若干の修正が見られる。
 まず、一つ目は「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」である。「各教科等において習得する知識や技能であるが、個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互に関連付けられ、さらに社会の中で生きて働く知識となる」としている。「相互に関連付ける」「生きて働く」が強調されている。その具体的なイメージとして講演等では「鎌倉幕府に関する教師の説明や協議を経て学習した後に、鎌倉幕府で習得した知識や技能を生かして、室町幕府と江戸幕府を含め三つの幕府を比較し分析させる。そうすることにより、各幕府の制度や組織等に関する個別的な知識が定着するだけでなく、それらを関連的に理解すると共に、その時に習得した視点が他の場面でも活用できる。国内外の国や地域の学習においても同様である」「セキツイ動物を観察や実験、資料を通して帰納的に五つに分類する学習の際に用いた技能は、例えば異なる分野である岩石の分類に応用できる」といった事例を紹介している。
 二つ目は「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」である。「将来の予測が困難な社会の中で未知の状況に出合っても決して怯まず・諦めることなく、既有の体験や知識・技能を生かして解決策を自ら考えた上で、一人で背負いこもうとせずに多様な他者とかかわり、対話を繰り返しながらよりよい解決策を見出していこうとする生き方」(筆者)が強調されている。そのために必要な思考力・判断力・表現力を育成する過程として、①対象のかかわりを通して問題発見・解決を探究的に行う、②個人の考えを形成した上で伝え合いにより集団としての考えを形成する、③一人一人の思いや願いを基に意味や価値を創造する、の三つを挙げている。例えば、地域防災に取り組んでいる中学生が、 ①職場体験先で防災対策の不十分さに気づき、体験のお礼の一つとしてよりよい対策を提案していこうとするが、体験先の事業所の予算や時間の関係でなかなか受け入れてもらえない、②学校に課題を持ち帰り、各自が改善策を考えた上でよりよい改善策を学年全体で考え、改めて各事業所に提案する、③各事業所や生徒自らが行うべきこと(自助)と国や地域の行政が行うべきこと(公助)及び互いに連携・協力して行うべきこと(共助)のバランスと関連が重要であることに気付く、といった学習が考えられる。
 三つ目は「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」である。具体的には、学習意欲や自己統制力、自己を客観的に捉える力、人間関係形成力、多様性を尊重する態度や互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワークなどである。いずれも我が国の子どもたちには弱いとされている資質・能力であるが、総合的な学習の時間を重視し取り組んでいる学校の児童・生徒には身についていることが、日本生活科・総合的学習教育学会(2015)の調査では示されている(2,3)。身近な地域の課題を取り上げ地域の多様な年代や立場の人とのかかわりを通してその課題解決を図ろうとする学びの成果と考えられる。今後、各教科等においても学習していることの意義を社会や世界とのかかわりで実感できるような学びの実現が求められる。
 これらの資質・能力の三つの柱は、後述の各教科等において育む資質・能力、教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・能力、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の全てに共通するものであるとされている。また、各校はこれらの資質・能力の枠組みを踏まえた上で、子どもや地域の実態に応じて、カリキュラム・マネジメントの中心である学校教育目標等として具体化される。

[参考文献]
 村川雅弘「これまでの“資質・能力”を考える」『教職研修』教育開発研究所、平成26年1月号、pp.22-25、 2014年
 村川雅弘・久野弘幸・田村学ほか「総合的な学習で育まれる学力とカリキュラムⅠ(小学校編)」『せいかつか&そうごう』日本生活科・総合的学習教育学会、第22号、 pp.12-21、2015年
 久野弘幸・村川雅弘・田村学ほか「総合的な学習で育まれる学力とカリキュラムⅡ(中学・高校編)」『せいかつか&そうごう』日本生活科・総合的学習教育学会、第22号、 pp.22-31、2015年

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特集 中教審答申を読む(1)─改訂の基本的方向

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