教科等と実社会とのつながりを生かす資質・能力の育成 「何ができるようになるか」 村川雅弘(甲南女子大学教授)

トピック教育課題

2019.05.16

教科を学ぶ意義理解と「知の総合」

 「なんで、こんな勉強せなあかんねん」(リアル感を出すため、ここだけ大阪弁)は子どもたちからよく発せられる問いである。学校はこれまでは十分に答えてこなかった。今次改訂では「教科等を学ぶ本質的な意義」を明確にしようとしている。「各教科等での学びが、一人一人のキャリア形成やよりよい社会づくりにどのようにつながっているのか」「各教科等をなぜ学ぶのか、それを通じてどういった力が身に付くのか」を子ども一人一人が自覚的に捉えることが必要である。
 答申では「教科等における学習は、知識・技能のみならず、〜略〜、それぞれの教科等の文脈に応じて、内容的に関連が深く子供たちの学習対象としやすい内容事項と関連付けながら育む」「学んだことを、教科等の枠を越えて活用する」「〜略〜、教科等と教育課程全体のつながりや、教育課程と資質・能力の関係を見直して明確にし、子供たちに必要な資質・能力の育成を保証する構造にしていくことが求められる」と述べている。各教科等の学習の中で実生活や実社会との関連が分かる教材を工夫したり、総合的な学習の時間において身近な地域社会の課題に取り組み、問題を見つけたり必要な情報を集めたり、集めた情報を整理したり、話し合ったり、自分たちの考えや主張を様々な方法で多様な他者に発信したりする上で各教科等の知識や技能を活用していることに気付かせることが重要で、そのためには教師自身が各教科等の内容と実社会や実生活との関連あるいは総合的な学習の内容との関連を可視化する研修が求められる(4)
 答申で示されているように、「各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方が『見方・考え方』であり、各教科等の学習の中で働くだけではなく、大人になって生活していくに当たっても重要な働きをするもの」であることや「各教科等の学びの中で鍛えられた『見方・考え方』を働かせながら、世の中の様々な物事を理解し思考し、よりよい社会や自らの人生を創り出している」ことを学校教育段階において子ども自らが自覚する手立てが必要である。『新教育課程ライブラリ』Vol.12で紹介した各教科等での学習や様々な体験を通した学びを資質・能力の視点から子ども自らが自分の言葉で関連付けたり意味付けたりする「知の総合化ノート」(5)が有効である。今次改訂で求められている「概念的知識」を子ども自らが生み出すことにも繋がる。

教科等を越えた学習及び社会的諸課題の基盤としての言語力

 答申では「様々な情報を理解して考えを形成し、文章等により表現していくために必要な読解力は、学習の基盤として時代を超えて常に重要なもの」「全ての学習の基盤となる言語能力の育成を重視する」と述べ、現行学習指導要領の下で重視してきた言語活動が「未来を拓いていく子供たちには、情報を主体的に捉えながら、何が重要かを主体的に考え、見いだした情報を活用しながら他者と協働し、新たな価値の創造に挑んでいくことがますます重要になってくる」との考えに立ち、より一層の充実を図ることを強調している。実際、短期間で生徒指導上の問題を解消したり学力向上を図ってきた学校はいずれも言語活動の充実を積極的に行ってきた(6,7)。各教科等の日々の授業の中で資質・能力の育成を図るための主体的・対話的で深い学びを実現するためには、受容的な関係づくりが必要である。その基盤はまさしく言語活動の充実に他ならない。
また、未来の社会において解決することが求められる現代的諸課題への対応においても同様である。どのような問題に遭遇しても決して諦めることなく多様な他者とかかわりながら主体的かつ協働的に既有の知識や技能を活用して問題解決を図っていく上で言語力を含めた資質・能力の育成と活用が不可欠である。さらに、答申では「人は仕事を持つことによって、社会と関わり、社会的な責任を果たし、生計を維持するとともに、自らの個性を発揮し、自己を実現することができるものである。 こうした観点からは、地域や社会における様々な産業の役割を理解し、地域創生等に生かしていこうとする力を身に付けていくことが重要」とも指摘し、身近な地域社会やそこに暮らす多様な人々とのかかわりを通して「キャリア形成」を実現していくことも謳っている。
 本誌本号の筆者の連載(pp.66-69)で「子ども一人一人の学びのカリキュラム・マネジメント」を提案しているが、その中で学習評価についても触れている。小・中・高等学校等の各教科等を通じて、これまで述べてきた三つの資質・能力による評価が行われることになる。単元や授業の主に終末段階で行われる子ども自身による自己評価もこの三つの観点で行う必要がある。子ども一人一人が、この単元や授業を通して、「理解したりできるようになったことは何か(例えば、「今日は斜めに道がある公園の面積の出し方が分かりました」)、「理解したりできるようになったのはどのような学びをしたからか(例えば、「一人でできるところまで考えて、その後みんなで話し合ったから少しずつ分かってきました」)」、「自分のよさや社会との関わり方、生き方についてどのような新たな学びがあったか(例えば、「これからはどんなことでも、まず自分で考えてから話し合いをしようと思います」)を振り返ることになる。子ども一人一人が学びを通して身に付いた資質・能力を意識的・自覚的に振り返ることを繰り返していく過程で「自己のキャリア」が形成される。こうして、変化の激しい社会を生き抜くために生涯にわたって学び続ける主体者が育っていく。


[参考文献]
 村川雅弘著『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』教育開発研究所、2016年
 村川雅弘・三橋和博編著『「知の総合化ノート」で具体化する21世紀型能力』学事出版、2015年
 村川雅弘・田村知子・東村山市立大岱小学校編著『学びを起こす授業改革』ぎょうせい、2011年
 村川雅弘・田村知子ほか編著『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』ぎょうせい、2013年

甲南女子大学教授
村川雅弘
Profile
むらかわ・まさひろ 鳴門教育大学大学院教授を経て、2017年4月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』(ぎょうせい)、『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』(教育開発研究所)など。

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