聞いて! 我ら「ゆとり世代」の主張 [第2回] 子どもたちと歩む道

トピック教育課題

2022.10.12

聞いて! 我ら「ゆとり世代」の主張
[第2回] 子どもたちと歩む道

岩手県奥州市立佐倉河小学校教諭
葛西もえ

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

「楽しい!」のその先

 私が小学生のころ、毎週土曜日が休業日となり、総合的な学習の時間が始まりました。

 初めて経験した総合の学習の印象は「自由な学習」。これまで、テストでよい点を取ろうと励んでいた自分にとって、誰かと競って順位をつける内容でないことがとても新鮮で、学ぶことの楽しさを感じられる時間となっていました。手話や点字を調べたり、高齢者施設へ行って職員の方の話を聞いたりした記憶があります。郷土をテーマにして学習した際には、自分の興味のあった「岩手県の方言」について調べ、発表したこともありました。

 誰かに決められたり、比べられたりすることなく、自分が興味のあることからテーマを設定して調べたり体験したりすることは、とても楽しく、充実した時間でした。当時は学ぶ側として「とにかく楽しい」としか感じていませんでしたが、今思えば「楽しい」という喜びが原動力となり、「次はこうしよう」「もっとこうしたい」と自ら学びを発展させていたのだと思います。

 私が「学びを発展させた」と言える背景には、そのように感じられる授業の展開があったからだと言えます。調べ方やまとめ方など、時に、教師は学びの手順を細かに設定してしまいがちになりますが、当時の私の担任はそこをグッと堪え、私たちに学び方を委ねてくれました。自分も教師となり、子どもを信じて任せることは、とても難しく、不安を感じることがありますが、当時の担任の先生は、あくまでアドバイザーとしての立場で、私たちが安心して羽を広げて学べるようにしてくれていたのだと気付きました。ネガティブなイメージが多いのかもしれませんが「ゆとり教育」は、「友達よりもよい点数を……」や「きちんとしなきゃいけない」と自分を追いつめることなく、「自分らしくいていいよ」と思える心のゆとりを育て、存分に学びを発展させていく面白さや満足感を味わわせてくれたように受け止めています。

道徳で学級づくり

 現任校の全校研究は「特別の教科道徳」に取り組んでいます。昨年度、初めて道徳の授業を行いました。授業の展開を考えるのも、またその展開を実際に行うのも難しく、毎週頭をかかえていました。考えれば考えるほどわからなくなる道徳ですが、先輩の先生方にたくさん指導助言を頂き、まず、自由に話し合う雰囲気をつくり、子どもたちの発言を大事にしようと思いました。すると、授業中の子どもたちの様子がよく見えるようになり、だんだん授業が流れるようになっていきました。正解のない道徳の授業だからこそ、子どもたちは自由に考えを出し合うことができ、お互いの考えを認め合っていたのです。登場人物と自分を重ねながら、自分の弱みも含め、たくさんの考えを伝え合う学びを積み重ねていきました。すると、道徳の時間だけでなく、他の授業でも「ここどうするの?」「〜が分かりません」などと、友達同士で尋ね合い、協働的に学び合うようになりました。このような変容の姿から、子どもたちにとって、学級全体が安心できる場になり、素直に自分を出せるようになったのだと思います。

 安心できる雰囲気の中で過ごしていると、どの子もその子らしさをよりよく発揮しながら、学びが深まっていることを実感しました。その子らしさ全開で育っている学級の児童と、これからも道徳の時間を楽しみ、その子らしさを大切にしながら、心を育てていきたいと思います。

個が生かされる集団づくり


友達と学び合う算数の時間

 私が教師になって感じていることは、「その子らしい育ち」を支えることの大切さです。「その子らしい育ち」=「自由奔放にさせる」ということではありません。学校や学級は子どもたちの社会であり、しなければならないことや守らなければいけないルールがたくさんあります。その中で、互いに繋がり合いながら子どもを一個人として尊重するとはどういうことかについて、教師は心を砕いて考えることが大切だと思っています。

 こんな出来事がありました。新聞を書く活動中、どうしても立ち上がってしまう子どもがいました。

 その子に聞いてみると「立って書く方がたくさん書ける!」と答えました。学級全体に聞いてみると「自分もそうだ」という子が数名いました。私は対応の仕方に悩みましたが、ふと、特別支援学校の授業風景を思い出しました。一人一人が自分にとってベストな環境で、課題に一生懸命取り組んでいる「みんなちがって、みんないい」の学びの風景です。

 この時間で大事にしたいことは、集中して取り組むこと。私は、立った方が集中できると言った子どもたちに窓側の棚の上での学習を提案しました。すると、チャイムが鳴るまで一生懸命取り組み、新聞を書き上げることができました。周りの子どもたちは、集中して取り組めるようになった子どもたちのがんばりを認め「集中していたね」「すごく進んだね!」と声をかけ、楽しそうに新聞を見せ合っていました。

 この経験から私が学んだことは、「立って学びたい子にはそうさせる」ということではなく、活動のねらいを明確にもち、その子に合った学びの環境をつくり、よりよい学びを保証することの大切さです。

 それを体感したその日から、私は常に「みんなちがって、みんないい」が実現できているかを意識するようになりました。

 子どもたちには「人と違うことや間違ってしまうことがダメなこと、みんなと同じようにできないことは悪いこと」などと思ってほしくありません。今年度、徐々に「○○さんは〜が苦手だからこうしてみたら?」など、相手を大切に思い、どうしたらできるかを一緒に考えている場面を目にするようになりました。それを特別扱いや不平等ととらえる人もおらず、みんなそれがあたりまえというように活動しています。互いに尊重しながら協働的に活動し、共同体となっていくことはとても素敵なことだと思います。目の前にいるこの子たちが、大人になってつくる社会が「みんなちがって、みんないい」と自然に受け止め合いながら、共に歩む社会になるよう、子どもたちの世界を広げていきたいです。

 

 

Profile
葛西もえ かさい・もえ
 1990年生まれ。子どもが好きで、共に歩む立場でいたいと考え、教師を志しました。6年間、特別支援学校で講師として経験を積んだ後、小学校での勤務を希望。現在、奥州市立佐倉河小学校に新採用として着任して、2年目。一人一人を大切に、その子らしさを大切に、「学校っていいなぁ〜」と思えるような学級づくりに取り組んでいます。
●モットー
いつでも楽しく、前向きに!

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