講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[第1回] [校長の近未来学]未来を見据え視野を広げる
学校マネジメント
2021.10.07
講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[第1回]
[校長の近未来学]未来を見据え視野を広げる
一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.1 2021年4月)
悩むより学ぶ
「変化の激しい時代」「先の見えない時代」と言われてきました。「グローバル化、情報化、少子高齢化」等に始まり、「AI」「IoT」「シンギュラリティ」「人生100年時代」「Society5.0」「第4次産業革命」等々、時代の変化を表すキーワードに振り回されている感もあります。変化の少ない時代では、今教えたことが将来も使えることから、理解し覚えさせておけばよかったのです。しかし、激しく変化する社会では覚えたことはすぐに陳腐化します。新たな知を自ら生み出し、社会や自らの問題を主体的に解決していく力を身に付けることが必要になりました。こうした社会の変化に応じて教育基本法や学校教育法等の改正等々、教育改革も急速に進められてきました。今般の学習指導要領の改訂による「教えから学びへの転換」はその最たるものでしょう。
新教育課程が始まったばかりの昨年、新型コロナウイルス感染症拡大、パンデミックという未曽有の事態に襲われパニック状態になりました。世の中が大きく変わる、もう後戻りはできないとも言われる事態となっています。これからの学校はどう変わるのか、どう変わればよいのか、校長はどうあればよいのか、悩むところでしょう。しかし、悩んでいても答えは見えてきません。自ら学び、問い、考え、自分なりに答えを創っていかなくてはならないのです。「学校の自立」が強調されるゆえんです。子供たちに求められている「主体的・対話的で深い学び」を自ら実践しましょう。教職員に手本を示しながら校長としての力量を高めることです。そのために足元ばかり見ていないで、未来を見据え視野を広げ、先を見通し、これからの校長のリーダーシップの在り方、姿を体現していくことが必要です。
まずはこれからの時代をどう見据え視野を広げるかについて考えてみます。
キーワードから未来を見据える
社会の変化とはどのようなものなのか、よく目にする幾つかのキーワードから捉えることができます。
【Society5.0 (超スマート社会)】
これまでの狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に継ぐ新たな社会。IoTで全ての人とモノがつながり、新たな価値が生まれる社会。イノベーションにより、様々なニーズに対応できる社会。AIにより、必要な情報が必要な時に提供される社会。ロボットや自動走行などの技術で、人間の可能性が広がる社会。
【第4次産業革命】
進化した人工知能が様々な判断を行ったり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりして、社会や生活を大きく変えていく。
【IoT (Internet of Things)】
自動車、家電、工場の機械、センサーなど、あらゆるものをインターネットにつなぎ、遠隔操作や情報収集、情報交換、相互に制御する仕組み。
【AI (Artificiai Intelligence)】
人工知能、機械自らが学び、人よりも高度な判断も可能。通常の知識・技能、多くの仕事はAIが行う時代になるが、今後も人間に必要なのは目的と創造性。
これらが示す状況はすでに社会の中で動いている、自分たちがその中にいることを実感しているものもあることでしょう。一方でブラックボックスのように全く見えない実感できないものもあるでしょう。日常的に新聞等のマスコミや最新の図書などから情報収集してあらためて自覚し認識を深めることが必要です。状況が進展していることがわかります。
視野を広げる
学校の中に閉じこもっていると世の中の様子、社会の動き、世界・地球で起きていることに疎くなりがちです。社会・世の中の動きは大きく変化するだけでなく速いスピードで変わっていきます。このことを自ら意識して視野を広げる必要があります。
最近はインターネットで知りたいことや疑問に思うことを手軽に情報収集できます。気を付けなくてはいけないことは、情報収集が自分の興味・関心に偏ることで、結果的に視野が狭まります。それを避けるために手軽な方法があります。
一つ目は新聞の講読です。新聞は先端のニュースを簡潔にまとめて知らせてくれます。社会、政治、経済、国際関係などの様々な事象だけではありません。科学、哲学、医学、歴史、文学等々について最新の研究や理論、今問題になっていることなどを伝えてくれます。教育以外の世の中の今の動きを知り、専門家や学者の考えや論を知ることができます。
二つ目は図書です。書店で教育以外の視野を広げる本を見つけることです。幾つか紹介します。
〈『新しい世界』クーリエ・ジャポン編・講談社現代新書〉よく知られているトマ・ピケティやマイケル・サンデルなどの世界の賢人16人の論考です。「コロナと文明」「世界経済」「不平等」「アフターコロナの哲学」「私たちはいかに生きるか」といったテーマ別に構成されています。紹介されている賢人の最新刊を読むのもよいのではないでしょうか。視野を広げて考えさせられること間違いなしです。
この他に『コロナ後の世界』(文春新書)、『SDGs危機の時代の羅針盤』(岩波新書)等々。図書を選択するのは一苦労ですが、背表紙を見回すことも視野を広げるはじめの一歩ではないでしょうか。三つ目がテレビの日曜日の報道です。2時間程度で週の国内外のニュースを整理して伝えるとともに、識者のコメントを聞くことができます。最新の知識や論に触れることができます。
四つ目が教育界以外の人と関わりを作り、もつことです。社会では様々な研修やセミナーが企画され行われています。教育以外のテーマを検索し興味のあるものに参加してみましょう。そこで出会う人との関わりを作るよう努めることです。これは自己投資でありまさに視野を広げる機会となるでしょう。以上のような自らの視野を広げる活動を日常的に行い習慣化するとよいでしょう。視野を広げることは見方・考え方を広げ深めることにつながります。リーダーに欠かせない資質・能力です。
Profile
寺崎 千秋 てらさき・ちあき
全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。