子どもが主体となる授業デザイン 自ら学び取る学習者の育成<熊本市立楠小学校>|『GIGAスクール時代の学びを拓く! PC1人1台授業スタートブック』より事例の先行紹介③
授業づくりと評価
2021.03.25
『GIGAスクール時代の学びを拓く! PC1人1台授業スタートブック』(編著:中川一史・赤堀侃司)は2021年3月下旬、小社より刊行予定です。ここでは、本書の「事例編」から、熊本市立楠小学校教諭 山下 若菜氏による「子どもが主体となる授業デザイン 自ら学び取る学習者の育成」の一部を先行してお届けします。(編集部)
子どもが主体となる授業デザイン 自ら学び取る学習者の育成
熊本市立楠小学校教諭 山下 若菜
1 iPad がやって来た! でも,こんな使い方でいいの?
熊本市は,2018年9月より熊本市立の小中学校へiPadや電子黒板などの整備を開始した。楠小学校にも,3クラスに1クラス分のiPadが配布され,教員には1人1台のiPadが配布された。2018年の夏休みに,私は生まれて初めてのタブレットを手にした。当時の校長は,「まずは,遊んでみてよ」と私たちにiPadを渡し,とにかくまずは使ってみることにした。最初は写真を撮ってみる,動画を撮ってみる,課題を子どもたちに分かりやすく提示してみるなど,今までの授業にiPadが使えそうなところをのせていたイメージだった。しかし,私も子どもたちも,最初は真新しさから興味を持って使っていたが,私の中で「本当にこんな使い方でいいのか」という思いがわきあがってきた。
私は,ICT機器が特別得意なわけではない。しかも,生まれたときからスマホやタブレットがある中で育ってきた子どもたちに,技術面で勝てるわけがない。最初は確かに,「私がやり方を教えなきゃいけない!」と思っていたが,早々にそれは諦めて,私は子どもが夢中になれるような課題を考えたり,授業デザインを考えたりすることに集中することにした。
2 授業の実際~しゃべるのは子どもたち!
⑴ 実践事例:物語文にBGM を付ける
第4学年国語科「 ごんぎつね/新美南吉」( 東京書籍) の実践( 2019年9月)
【単元のねらい】
物語を読んで,人物同士の関わりを考え,感想を伝え合うことができる。
今までの物語文の指導を考えてみると,本文を読み,登場人物を整理しながら,物語の背景を確認したり,登場人物の心情を吹き出しで考えたりという流れの授業を行ってきていた。しかし,授業デザインを改めて考えてみると,今までの授業は,「教師と子ども」という一方向でのやり取りが中心の授業で,私と特定の子だけのやり取りになってしまったり,私の解釈を押し付けてしまったりしていたのではないかと気付いた。そこで,まずは全員が主体的に参加しやすい状況を,と考え,iPadの音楽作成アプリ「GarageBand」を使って,場面に合ったBGMを付ける活動を行ってみることにした。
①グループでの録音
「ごんぎつね」の登場人物の気持ちや場面の様子を想像しながら教科書を読み,3~4人グループで音読を録音した。子どもたちは,小グループだからこそ,意味が分からない言葉をすぐに確かめ合えた。また,練習して何度も読むことで,登場人物の場所や場面の様子を容易に想像することができていた。
②録音した声へのBGM付け
最初は,BGMの善し悪しばかりの発言が多かったが,作品の発表会をするたびに,友達の音読に注目したつぶやきが聞こえ始めた。子どもたちもBGMをつける活動を繰り返すうちに,だんだんと場面の登場人物の心情を考えられるような発言が多く出てくるようになった。
グループでの対話
【子どもたちの姿から見た成果】
◦グループでの録音だったので,どのように音読するのかを考える中で自然に子どもたち同士の対話が生
まれ,結果的に本文にかえって内容を読み深めるような対話が行われていた。
◦自分の声を録音するという活動のため,子どもたちは何度も音読練習を自発的に行い,その結果,物語
を深く読み込んだり,漢字や語彙なども獲得したりすることができた。単元テストで,今までの物語文
では平均点が85点程度だったが,BGMを付ける活動をした単元では,95点以上という成果が出た。
◦iPadの文書作成アプリ「Pages」を使って紹介カードを作らせた。カードには,自分のお気に入りの一文
と挿絵を選び,選んだ理由を書かせた。カードを友達に見せ合いながら感想を伝え合う活動を,単元の
最後の活動として行った。今まで自分の思いを書くことが苦手だった子どももBGMづくりをしたことで
物語にのめり込んでいたため,積極的に取り組むことができた。
「Pages」を使った紹介カード