最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q7 教職員の学校内における喫煙について法律上どのような規制が加えられていますか。
学校マネジメント
2020.11.05
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第1章 教職生活のコンプライアンス
菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員
(『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月)
Q7 教職員の学校内における喫煙について法律上どのような規制が加えられていますか。
◯健康増進法による受動喫煙防止
喫煙が健康に良くないことは改めて言うまでもありませんが、近年、問題となっているのは、受動喫煙の健康への悪影響です。受動喫煙とは「望まないのに他人のたばこの煙にさらされること」です。受動喫煙は、本人にまったく責任がないのに、がん、心臓疾患、呼吸器系疾患など様々な疾病の危険性を高める原因となります。
平成14年に「健康増進法」が制定され、給食施設の栄養管理等とともに受動喫煙の防止についても規定されました。すなわち、同法25条は、「学校、体育館、病院、劇場、集会場、展示場......その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と規定しました。
文部科学省は、健康増進法で受動喫煙防止の規定が定められたことを受けて、平成15年と平成22年に通知を出して、学校における受動喫煙防止対策と喫煙防止教育の推進を促しました。通知を受けて、教育委員会や学校は、受動喫煙の防止に取り組んできました。
しかし、健康増進法の受動喫煙防止の規定は、いわゆる努力義務規定であったため、より強い規制措置を求める声が高まり、平成30年に健康増進法が改正されて受動喫煙の規制が厳しくなりました。
◯特定施設における喫煙の禁止
平成30年の健康増進法の改正は、ホテルや飲食店等も対象とした幅広い規制となっていますが、学校に関係する部分についてみると、次のとおりです。
第1は、国・地方公共団体の責務です。国と地方公共団体は、①受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努めなければならないこと(25条)、②国、都道府県、市町村等は、受動喫煙を防止する措置の推進を図るため、相互に連携を図り協力するよう努めなければならないこと(26条)を定めています。
第2は、喫煙者の配慮義務です。喫煙者は望まない受動喫煙を生じさせないよう配慮する義務があること(27条)を明記しました。特に子どもや患者など特に配慮が必要な人がいる場では喫煙を控えるなどの配慮が必要です。
第3は、特定施設における喫煙の禁止です。ここでいう「特定施設」とは、①学校、病院、児童福祉施設等、②国および地方公共団体の行政機関の庁舎をいいます(28条)。健康増進法29条は、「何人も、正当な理由がなくて、特定施設においては、......当該特定施設等の当該各号に定める場所で喫煙をしてはならない」と喫煙について禁止義務を明記しました。これに違反し、指導や命令による改善がみられない場合は罰則
(50万円以下の過料)が科せられます。
ただし、同条は「特定屋外喫煙場所」における喫煙を認めています。特定屋外喫煙場所について、健康増進法施行規則で、①喫煙場所が区画されていること、②喫煙場所である旨を記載した標識を掲示すること、③施設を利用する者が通常立ち入らない場所に設置することなどを定めています。
健康増進法は、例外的に屋外喫煙場所における喫煙を許容していますが、厚生労働省の通知(平成31年2月22日)では、特定屋外喫煙場所の規定は「設置を推奨するものではない」と示しています。学校では特定屋外喫煙場所の設置は避けるべきでしょう。
Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。