そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室
【カスハラ対策】「法的根拠を示せ」と言われた時の対応|クレーム対応悩み相談室11
NEWキャリア
2025.05.29

この記事は4分くらいで読めます。

出典書籍:月刊「ガバナンス」創刊20周年記念別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』
※本書は月刊「ガバナンス」2019 年4月号〜2020 年4月号までに掲載した連載をまとめたものです(一部加筆・修正)。
Chapter11 「法的根拠を示せ」言われ困っています
2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。
本連載では、月刊『ガバナンス』の連載をまとめた別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』の内容を引用して掲載。
人材教育コンサルタントの関根健夫さんが自治体でのクレーム対応術を解説しています。
今回は「法的根拠を示せ」と言われた時の対応をご紹介します。
カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!
この記事で分かること
・「法的根拠を示せ」という人の心情・背景
・法的根拠は必ず必要か
・「法的根拠を示せ」と言われた時の対応・例文
Jさんの自治体では、「法的根拠を示せ」と言うお客さまがいて困っています。

人材教育
コンサルタント
関根さん

① 全ての業務が法に直結しているわけではない ② どうしてもというなら時間をいただく
「公務員のくせに不勉強だ」
J 当市には、いろいろな部署にクレームを言ってくる有名な市民がいます。
関根 社会が豊かになったせいか、どこの役所にも一人や二人そういう人がいるようですね。
J 毎週のようにやってきては、どこかの窓口の特に若い職員に話しかけます。そして手続きのことや市の事業について聞いてきます。
関根 そこまでは普通ですね。
J 問い合わせをするのがいけないわけではありませんが、本当に必要に駆られているのか疑問です。ほとんど嫌がらせに思えるのです。
関根 どういうことですか。
J こちらが何らかの回答や説明をすると、待っていましたとばかり「どういう法令に基づいているのか」などと聞いてきます。そして、即答を迫り、職員がすぐに答えられないと「公務員のくせに不勉強だ」などと非難を始めます。
関根 法律名などはわかっていても、条文そのものや、政省令や通知などの根拠までは、すぐに答えられないでしょうからね。
J 特に若い職員はそこまでのことは分からず、すぐに答えられないことも多く、それを非難されると結構傷つきます。
関根 異動で赴任したばかりの職員などもそうでしょうね。その後はどうなるのですか。
J 答えられないと、非難を続け、やがて不満たらたらで帰ります。
関根 答えられたらどうです?
J 今度は「その法令や規定の趣旨は」「なぜそうなったのか」など、さらに話を掘り下げてきます。
関根 その方の歳はいくつくらいですか。
J 正確には知りませんが70歳前後でしょうか。大学の先生だったという噂もあります。
関根 そういうことですか。私の想像ですが、知識がある、最近退職して時間がある、自分の持っている知識をどこかで使いたい、また、それを認めてほしい、そんな思惑かもしれませんね。
J この人については、もう一つ困ったことがあるのです。
関根 どういうことですか。
J 役所に自転車に乗って来るのですが、そのまま庁舎内に乗り入れるのです。
関根 えーっ、自転車に乗ったままですか。
J はい。時にはそのままエレベータに乗って上層階に行き、廊下を走り回ります。うちの庁舎は真ん中に吹き抜けがあり、通路がロの字になっているので自転車で周回できるのです。
関根 それは非常識ですね。これも目立ちたい、自分の存在を知らしめたいということかもしれませんが……。庁舎管理の点から注意したらいかがでしょうか。
J 警備員が注意するのですが、そこでまた「法的にどういう問題があるのか」などと言われ、まず素直には従いません。警備員もへきえきしています。
関根 先ほどの話と総合すると、自己顕示欲も強そうですね。法的根拠を求めるお客さまの中には、自分の思うような回答が得られないことで、腹いせに近い感覚で法的根拠を求めてくる人もいますが、この人はそうではなさそうです。自分を認めてほしい、しかしこれだけの知識があるのに自負心を満たす場がない。それが若い人への非難として現れているのでしょう。
J どうしたら良いでしょうか。若い職員がかわいそうです。
関根 極端な言い方かもしれませんが、答えなくてもいいと思いますよ。その人はたぶん法的根拠を聞きたいのではなく、職員を試し、自分の論理的な考え方が優れていると言いたいのだと思います。
J そういう人をどう納得させたらいいのですか。
関根 だから、納得しようと思っているわけではないので、答えなくてもいいと思います。相手の発言に合わせて「よくご存じですね」 「どうしてそう思われますか」などと話を変えたり、すべてが法令に直結しているわけではないでしょうから、「市の裁量でやっていることです」などと回答してみたらどうでしょうか。
J それでうまくいくでしょうか。
関根 どうしても答えろと言うのなら、役所には原則的に説明する責任がありますから調べて回答すべきです。一方、即答の義務はありませんから「では時間をください」 「来週までに調べておきます」などと、少し長めに時間を要求して回答を保留しましょう。
J なるほど。
関根 職員一人ひとりが業務に関する全てのことを知っているわけではありません。組織として調べて回答すればよいだけのことです。このとき少し時間をかけて回答を後日にすれば「ならば、もういい」となるかもしれません。
J 時間の無駄にも思えますが。
関根 無駄と考えるか、業務の一環として広い意味で勉強のきっかけをくれたと考えるかだと思います。こちらはすべきことをする、ということでしかないのですから。
J そうですね。分かりました。
【関根先生の著書はこちら】
月刊『ガバナンス』で好評を博した連載「クレーム対応駆け込み寺」を加筆修正、再構成し単行本化
クレーム対応のさまざまな悩みを解決!

お悩み解決!
公務員のためのクレーム対応駆け込み寺 編著者名:関根健夫/著
販売価格:2,420 円(税込み)
試し読みはこちら ≫
【こちらもおすすめ】
カスハラをはじめとする不当要求行為等について、実際の事例から対応を学ぶ!

自治体職員のための
不当要求行為対応ブック
-事例からわかるトラブル回避策- 編著者名:宇都木法律事務所(代表弁護士 宇都木 寧)
販売価格:3,080 円(税込み)
試し読みはこちら ≫