そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室

関根健夫

相手の言い分が間違っていないときに、 どう対応すれば良いでしょうか|クレーム対応悩み相談室10

NEWキャリア

2025.05.26

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出典書籍:月刊「ガバナンス」創刊20周年記念別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』
※本書は月刊「ガバナンス」2019 年4月号〜2020 年4月号までに掲載した連載をまとめたものです(一部加筆・修正)。

自治体職員のためのトラブルの対処法を学ぶ!カスハラ対応図書特集

Chapter10 相手の言い分が間違っていないときに、どう対応すれば良いでしょうか


2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

本連載では、月刊『ガバナンス』の連載をまとめた別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』の内容を引用して掲載。
人材教育コンサルタントの関根健夫さんが自治体でのクレーム対応術を解説しています。

今回は相手の言い分が間違っていないときの対応をご紹介します。
カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!

この記事で分かること

・断る場合でも共感を示して良いのか
・共感を示す場合の伝え方・例文
・言い分が間違っていないお客様への断り方・例文
・言い分が間違っていないお客様に受け入れてもらいやすい伝え方

ある市で介護保険を担当しているIさんは、ルールには必ずしも沿わないお客さまの言葉が心にひっかかっているといいます。

人材教育
コンサルタント
関根さん

① お客さまのクレームは、間違っていないこともある ② 認めるための制度がないことを主張する


断る場合でも共感を伝える

I 私は介護保険料の徴収を担当しています。ある日70歳代後半の女性から介護保険料を普通徴収にしてほしいとの要望がありました。

関根 後期高齢者の介護保険料は原則として特別徴収ですよね。

I はい。この方も年金から天引きで納付されています。

関根 要望に応じられるのですか。

I 特殊なケースでは一時的に普通徴収ということもあるのですが、この場合はできません。

関根 そう説明されたのですよね。

I そうです。説明して素直にあきらめてくれたのですが、その後の言葉が心に引っかかっています。

関根 どんな話だったのですか。

I 「私はもうすぐ80歳。この歳になると年金や給付金などで社会から支えられて生きています。しかし、私も日本の国民です。税金や公共料金は自分でお金を管理して支払いに行きたいのです」と。

関根 へぇー。立派なお考えですね。それはそのとおりだと思いますよ。私は感動を覚えました。それに対して何と答えたのですか。

I お客さまから、こんなことを言われたのは初めてでしたので、何も言えませんでした。どうしたら良かったでしょうか。

関根 初めての経験や想定外の出来事があると、誰でも言葉が出てこないものです。でも、そういうときは素直に自分の気持ちを述べたら良いと思いますよ。例えば、今、おっしゃったとおりに「私、このようなお話を聞いたのは初めてです」 「感動しました」 「お気持ちはよく分かります」などと。

I でも、結局は要望に応じることができません。

関根 応じられないことは仕方がありません。しかし、共感することには素直で良いと思いますよ。

I 断る場合でも共感を表した方がいいですか。

関根 しなければならないわけではないですが、相手の言い分に応じられないからこそ、せめて気持ちだけは受けとめてあげるのです。こちらが断る理由は何ですか。

I できないと決まっているからです。

関根 確かにそうですが、できないというよりも “それを行う(認める)ための制度がない” ということではないでしょうか。

I 確かにそうですね。

関根 「できません」と言うのではなく「そうするための制度がないのです」、場合によっては「してはいけないことになっています」というのが正しいと思います。そのほうが相手に受け入れてもらいやすいのではないでしょうか。

I なるほど。

関根 クレーム対応では、お客さまの言い分を断ることが多いですよね。結論はそうだとしても、十分に聞いて共感してから「できればして差し上げたいのですが、ごめんなさいね」と、お詫びの言葉を用いて申し訳ないという気持ちで断れば良いのです。この方なら「こちらこそ、無理を言ってごめんなさいね」ということになるのではないでしょうか。

I きっとそうですね。

関根 そうすれば、お互いに気持ちよく、わだかまりなく別れることができると思います。

  お客さまからのクレームでは、言い分が全て間違っていて、役所側の主張が全て正しいなどということはめったにないはずです。その人の立場ではそう思っているのですから、そういう考えもあることを認めて、相手の主張を完全に否定することはやめましょう。 役所の説明は、法や制度に基づいてそれが認められるか否かの判断であって、絶対的な正誤、善悪の問題は少ないと思います。言い分が間違っていないのなら「お客さまのおっしゃることは正しいです。決して間違っていません。しかし、制度がそうなっていないのです」という文脈で話すことが良いと思いますよ。

I では、明らかに無理、非常識なことを言ってくるお客さまは、どうでしょうか。

関根 明らかに人の道に反するような主張、非常識という意味で無理ならば、もちろんこちらの言い方も変わってくるでしょうね。そのような主張について「正しい」とか「間違っていない」とは言わなくて良いですよ。 「制度がそうなっていない」「やってはいけないことになっている」ことを繰り返し言うことです。

I それで納得するでしょうか。

関根 結論を押しつけるだけではなく、制度の趣旨を説明したり解決方法などを話し合う必要はありますよ。しかし、人の意見がにわかに一致することはないので、言い続けるしかないと思います。議論が平行線になってしまうことは仕方ないことです。そこは、ルールをもって社会をかたちづくっている自負を持ちましょう。

I 仕事へのプライドですね。

関根 それが一番大切だと思います。そういう意味でも、今回の相談は、素晴らしいお客さまとの出会いだったのではないでしょうか。

I ありがとうございます。

 

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