クレーム対応術

関根健夫

クレーム対応術 1 緊張を克服するコツとは?

キャリア

2019.03.21

今さら聞けないクレーム対応術 1『クレームを受けると緊張して何も言えません……』

『ガバナンス』2014年4月号

悩む女性

今さら聞きにくい疑問・悩みに答える

 クレーム対応について、月刊『ガバナンス』での連載は8年目に入る。前回までの4年間は、各地の自治体で実際に起きたトラブルやクレームについて解説してきた。「大いに参考になった」「視野が広がった」などの反響をいただき、読者の皆さんのお役に立てたことを著者として実感できた。皆さまには、心から感謝申し上げます。

 本誌の連載にご好評をいただき実現した、前著『こんなときどうする公務員のためのクレーム対応マニュアル』に続き、このたび『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル〈実践編〉』を出版させていただいた。今回の実践編では、通常の説明では納得してくれないお客さまの心理を解説した。是非お読みいただきたい。

 さて、2014年度の連載では、全国の自治体職員の皆さんから寄せられた質問や「今さら聞きにくいのですが……」といったお気持ちを忖度して解説する。質問者と同じ疑問、悩みを持っている方は、数多いと思われるからだ。

 お客さま対応について、自分だけが疑問を持ち悩んでいると、引け目を感じる必要はない。同じ疑問や悩み、今さら聞きにくい疑問・苦労は他の人にもあるのだ、皆が同様に頑張っていると考えて、業務に励んでほしい。大切なのは、業務を厳格に遂行することなのだ。

緊張感は悪いことではない

緊張

 クレーム対応時、ドキドキしてしまい言いたいことが言えない、言葉も出なくなってしまう──。こんなときはどうしたらよいのだろうか。また、緊張や怒りで、体や声が震えてしまう──。もっと自分が精神的に強くなることはできないものか。このような悩みは、若い職員、女性職員に多いように思われる。しかし、年齢や性別を問わず、この感覚は誰にでもあるはずだ。

 慣れないことをすると、また予想しなかった状況に遭遇すると、誰でも緊張するものだ。それは半面、自分の思うようにことを運びたい、相手との関係をよくしたい、相手にわかってほしい、といった気持ちがあるからこそである。だから、一般的には、まじめな人ほど緊張する傾向にあるようだ。

 その克服は、まずは緊張することは基本的によいことなのだと信じることだ。また、表情は明るく、ほほえみを絶やさないことを心がけることも落ち着くポイントである。もちろん、相手が怒っている場合やこちらのミスを謝罪する場合には、意識して神妙な表情にする。要するに、自分の表情をコントロールするという意識を持つことだ。表情をコントロールすることは、やがて自分自身をコントロールすることになる。

怒鳴る人は悪質か

 お客さまの中には、大声を出したり、非常識な主張をしたり、時には暴力の可能性を感じさせたりする人もいるかもしれない。こういったお客さまに対応する職員のストレスは相当なものがある。このような状況では、職員は誰でもいい気持ちはしない。恐怖を覚えるのも自然だろう。

 しかし一方で、こういったお客さまが、すべて悪質であるかというとそうとも言い切れない。誰でも、カッとしてつい声が大きくなることがある。思い余って机を叩くなどすることもあるかもしれない。怒鳴る、机を叩くなどの行為は、その人にとっては日常茶飯事であり、悪気なく無意識に行っているかもしれない。その行為だけを切り取ると、確かに非常識かもしれないが、それだけでその人が悪質とは言い難い。その人にも、そういう行為をしてしまった背景があるのだ。

 もちろん、それが相手を威嚇するため意図的に行われたり、常識を超えて続けられたりするのであれば、その市民はもう善良なお客さまではない。複数の職員で協力して、事務的な対応をする。万一の場合には、誰かが助けに入るという協力体制も普段から確認しておこう。何より、職員の安心感につながる。

慣れと目的意識が自分を変える

 緊張や恐怖を克服するには、やはり経験と年月が必要である。業務の意味を考え、何よりも目的意識を持って、恐れずに立ち向かうしかない。

 そこで、怖いと感じたら反応を意図的に遅延させる。ほんの少しの間でいい、なぜこういう言い方をしたのだろう、なぜこういう言葉を使ったのだろうなどと、考える癖をつけるのだ。

 相手方の発言に対してすぐに反応しようとするから、その場のコミュニケーションに余裕がなくなる。反応遅延を意図的に行うことを積み重ねると、理不尽な発言にも慣れてくる。悲しいかな、理不尽なクレームには、慣れることも克服の要素なのである。いつまでも嫌がっていても解決しないのだ。

 ジェットコースターが怖い、嫌いである人は、乗らなくてもいいと思うからいつまでも怖いし、実際に乗ることはない。しかし、何らかの必要に迫られ、10回でも乗ってしまえば怖さも軽減する。乗ることができたという実績をもって、「やればできる」と、他のことにも自信が持てるようになる。そういうことが実際にあるという。

 今回紹介した考え方・方法は、今日学んで明日からすぐにできる、というものではない。チャレンジし、習慣化するしかないのだ。

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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