ガバナンスTOPICS【イベントレポート】

ガバナンス編集部

【包摂的コミュニティ】女性・高齢者らのウェルビーイングを最大化する社会技術/イベントレポート

地方自治

2025.03.21

(『月刊ガバナンス』2025年3月号)

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【ガバナンス・トピックス】
女性・高齢者らのウェルビーイングを最大化する社会技術について意見交換
──内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」シンポジウム2024

内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(内閣府SIP)は、横断的マネジメントのもと科学技術のイノベーションを図るプロジェクトで、現在は第3期として23年度から5か年計画で14の社会的課題に取り組んでいる。課題の一つ「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」では、一人ひとりの多様な幸せの最大化のための技術やサービスの社会実装を目指して産官学が連携。その活動の一環として、2月4日、「『包摂的コミュニティプラットフォームの構築』シンポジウム2024」が都内で開催された。

包摂的コミュニティプラットフォームの構築シンポジウム2024の様子①
包摂的コミュニティの形成に向けた取り組みを共有。

「包摂的な社会」の実現に向けて

 内閣府SIPは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり、そのもとで14課題それぞれにプログラムディレクター(PD)が立ち、各課題に関する研究開発を推進する体制をとる。

 課題「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」(以下、プログラム)は、久野譜也氏(筑波大学大学院人間総合科学学術院教授)がPDを務め、「一人ひとりの多様な幸せの最大化(well-being)の実現、そのために必要な多様性への理解促進など、包摂的なコミュニティを実現するために、各世代の寛容性、自律性を高めるサービス(社会を変革できる技術)を開発し、社会で実装される仕組みを構築する」ことを目標に掲げています。

包摂的コミュニティプラットフォームの構築シンポジウム2024の様子②
「包摂的コミュニティプラットフォーム」開発2年目の状況を説明する久野譜也教授。

 プログラムは、サブ課題
A「社会の寛容性向上策」
B「個人の自律性向上策」
C「子育て世代・女性の幸福度向上策」
D「障がい者・高齢者の生きがい向上策」
に細分化され、産学官連携による重層的・横断的な研究開発が進められている。

 今回のシンポジウムのテーマは、「社会の寛容性、個人の自律性を高める社会技術とは」。働く女性、子育て世代、高齢者、障がい者等の幸せの最大化に向けた取り組みを共有し、今後について議論を深めることを目的に、会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。

 シンポジウム冒頭、開発中の自動走行モビリティに乗って久野教授が登場。これは、サブ課題D「障がい者・高齢者の生きがい向上策」に位置づく移動支援サービスで、シンポジウム開催後の2月18・19日に東京都多摩市で実証実験が行われることが紹介された。

自動走行モビリティの画像
移動の不安を解消する自動走行モビリティ。

 続けて、久野教授が「包摂的コミュニティプラットフォーム開発の2年目の現状と今後の方向性」と題し講演を行った。包摂的な社会を
「①多様な個人を受容する『寛容性』と、一人一人が主体的に行動する『自律性』を備えた社会」
「②辛いとき、困難なときに、相談できる、支えてくれる人とのつながりがある社会」
と整理。孤独・孤独を回避するため、①②双方の実現を目指すべきだと力を込めた。

 さらに、勤労・子育て期から高齢期までのステージごとに、
◎健康の課題(成人女性のやせがOECD加盟国中ワースト、更年期女性の昇進意欲低下など)
◎コミュニティの課題(自治会加入率の低下、65歳以上独居率の増加など)
を挙げ、これらに対応した研究開発の全体像について説明。

なかでも久野教授は「女性特有の健康課題による生産性損失は年間約3兆円」とした上で、「当事者の女性だけを支援するのではなく、男性も含めて社会全体が一緒に考え、変えていく必要がある」と提起した。

 また、研究開発の具体例として、各サブ課題における成果を紹介。サブ課題A「社会の寛容性向上策」では、解析エビデンスに基づく「包摂性評価指標」の開発を進め、七つの評価指標(自律性、寛容性、心身の健康、つながりと参加、健康と生活の知恵、人々の多様性、過ごしやすさ)を抽出したという。

 久野教授は

「学術研究のための評価法ではなくて、自治体や企業が簡易に使えて、すぐに結果が出る、そういう仕組みづくりを目指している」

と強調した。

産官学の知見と実践を交換

パネルディスカッション
「日本の包摂性が低下した原因と今後の改善策を考える」

 次に、「日本の包摂性が低下した原因と今後の改善策を考える」と題してパネルディスカッションを実施。プログラムのサブPDの一人、唐澤剛氏(社会福祉法人サン・ビジョン理事長)をモデレータに、同じくサブPDを務める石田惠美氏(BACeLL法律会計事務所代表弁護士・公認会計士)、神田昌幸氏(大和ハウス工業㈱執行役員)、駒村康平氏(慶應義塾大学教授)がパネリストとして登壇。

 石田氏は、高齢者から受ける相談例を紹介しながら、「地域で生活し、健康に幸せに働く。その中でいつでも誰もが相談でき、相談してもらえる。そうした“ごちゃまぜ”のつながりが大事」と目指すべき包摂的社会の姿を語った。駒村氏は、「お金の孤独・孤立」に関する調査結果(認知機能の低下した人は特殊詐欺等のリスクが2~3倍高いなど)を紹介。お金をめぐる家族間のコミュニケーションの難しさも指摘した上で、健康問題と経済問題の悪循環がもたらす影響について警鐘を鳴らした。最後に神田氏は、地域コミュニティの再生に向けた取り組みを紹介。地域コミュニティの包摂性として「価値観が異なる人・集団間で“つながり”が生まれること」を挙げた。

企業3社による特別講演

 その後、企業3社による特別講演が行われた。テーマ・登壇者・概要は次のとおり。

「カーブスにおける無関心層の取り込み戦略」
増本岳氏(㈱カーブスホールディングス代表取締役社長)
:女性の健康フィットネス事業における取り組み

「三井不動産の目指す経年優化の街づくり」
加藤智康氏(三井不動産㈱常務執行役員開発企画一部長兼豊洲プロジェクト推進部長)
:まちづくりを通して社会課題解決を図る取り組み

「包摂社会のための連携の重要性」
森田俊作氏(大和リース㈱代表取締役会長、(一社)公縁クロス機構理事長)
:包摂的社会と公民連携の考え方

内閣府SIPの研究成果を共有

 続けて、各サブ課題を担う研究者らが登壇してシンポジウムが行われた。各テーマと、登壇者による論題は次のとおり。

シンポジウム①
「女性が活躍する社会を実現するための技術とサービス展開」

司会:目﨑祐史氏(内閣府SIPサブPD、セコム㈱執行役員)

「女性支援のための情報の取得とその解析によるパーソナライゼーション」
木村健太氏(産業技術総合研究所人間情報インタラクション研究部門研究グループ長)

「パーソナライズされたサービスを実現するための対話AIの活用」
田川武弘氏(㈱アシックススポーツ工学研究所部長付)

「女性が持つリアルな健康課題に対する伴走型支援サービスに求められるもの」
塚尾晶子氏(内閣府SIPプログラムディレクター補佐、㈱つくばウエルネスリサーチ取締役副社長)

シンポジウム②
「各テーマで進めている無関心層も動かす社会技術の革新性」

司会:北出真理氏(内閣府SIPサブPD、順天堂大学教授)

「外出を支える新しいモビリティシステムとは」
東大輔氏(久留米工業大学教授、インテリジェント・モビリティ研究所所長)

「『やせ=美』などルッキズムからの脱却を目指す社会技術」
田村好史氏(順天堂大学教授)

「虚弱を予防しWell-beingを高めるデジタル同居とは」
山岡勝氏(パナソニックホールディングス㈱事業開発室統括担当)

 シンポジウム全体を通じて、包摂的な社会の形成に必要な視点や具体策について活発に意見交換が行われた。本プログラムでは、27年度に向けて自治体、企業等が選択・採用できる事業・サービス群のプラットフォームの実現を目指すという。

包摂的コミュニティプラットフォームの構築シンポジウム2024の様子③

(本誌/西條美津紀) 

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