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【『都市問題』創刊100周年】「自治」と「分権」の100年を振り返る/イベントレポート

NEW地方自治

2025.03.18

(『月刊ガバナンス』2025年3月号)

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【ガバナンス・トピックス】
「自治」と「分権」の100年を振り返る
──『都市問題』創刊100周年記念シンポジウム

公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所の主催により、2月8日、「『自治』と『分権』の100年」をテーマにしたシンポジウムが都内で開催された。同財団の機関誌『都市問題』が1925年の創刊から100年の節目を迎えたことを記念するもので、戦前から戦後、そして現在へと続く日本の「自治」と「分権」の歩みをたどり、今日的視点からの議論が行われた。

「自治」と「分権」の潮流をたどる

 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所の前身は、1922年に創設された財団法人東京市政調査会で、2012年に公益財団化、現在の名称となった。機関誌の月刊『都市問題』は1925年に刊行を開始。1945年の戦局悪化以降5年間にわたる休刊期はあったものの、今年、創刊から100周年を迎える。

 この間、日本は敗戦による憲法構造の転換を経験しながら、自治体と国/中央政府との関係における「分権」(と同時に「集権」)のあり方を模索し続けてきました。

 本シンポジウムでは、100年にわたるその潮流を概観。今日の諸課題に照らした上で、これからの日本の「自治」「分権」の方向性について専門的な議論が行われた。

『都市問題』創刊100周年記念シンポジウムの様子①
今日と照らし合わせながら「自治」と「分権」の歴史を概観。

三つの時代区分で「自治」と「分権」の関係を検証

 基調講演は、大きく三つの時代【戦前・戦後】【1960年代】【2000年頃(第一次分権改革期)】に分けて、3人の研究者が各時代における「自治」と「分権」の仕組みや特徴について解説するという形式がとられた。

戦前・戦後

 はじめに、【戦前・戦後】について、市川喜崇氏(同志社大学法学部教授)が登壇。「現在の地方自治を考える上で『二つの始点がある』という認識を持つことが重要」と提起した。

占領期の地方分権改革

 一つ目の始点として「占領期の地方分権改革」を挙げ、
▽地方自治が憲法上の権利として明記 ▽官選・官吏の知事(国の出先機関でもあり、府県の長でもあるという二重の性格)から直接公選による知事へ(これにより国の出先機関という性格はなくなる) ▽市町村長も直接公選へ ▽行政事務(権力的事務)が自治体固有の権限へ ──など、内務省による集権体制が終焉し分権化が進められた経緯を解説。

 市川氏は「占領期の改革は、自治体が自らの政治的意思を自由に、効果的に表明するという意味で、非常に大きな改革であった」「首長が直接公選制になり住民代表となったことは、中央・地方の関係に大きなダイナミズムをもたらした。これがなければ、おそらく戦後の地方自治は、現在私たちが知っているものとは大きく異なるものになっていたのでは」と述べた。

戦時期から占領期にかけて進行した機能的集権化

 続けて、二つ目の始点として「戦時期から占領期にかけて進行した機能的集権化」に言及。地方歳入に占める補助金の割合の推移などのデータを示しながら、この時期に政府機能の膨張と分化が起こり、分化した個々の行政を標準的・専門的に実施させるための体制整備(機能的集権化)と、国による財源保障の考え方が始まったとした。

『都市問題』創刊100周年記念シンポジウムの様子②
市川喜崇氏は、戦前・戦後の「分権」について講演。第1次分権改革につながる視座を提供した。

自治の「革新」の時代から第一次分権改革へ

1960年代

都市型社会化と革新自治体~自治の『革新』の時代と社会・政策・政治

 次に、土山希美枝氏(法政大学法学部教授)が、「都市型社会化と革新自治体~自治の『革新』の時代と社会・政策・政治」というテーマを掲げ登壇。【1960年代】を中心に、70年代、80年代までにわたる地方自治の潮流について解説した。

 高度成長期、都市問題が激発するなかで、革新首長や革新自治体が次々と誕生。「生活」が政策課題となり、「市民に最も近い政府であり、政策主体である存在として、自治体の意義と役割が可視化されていった」と指摘した。70年代後半になると、革新自治体の数は減少していくものの、自治体の価値として、「革新」が標準化されていったと述べた。さらに、土山氏は、こうした自治体の「革新」に重要な役目を果たした存在として、政治学者・松下圭一氏を挙げ、大衆社会論から都市型社会論へ至る理論と実践の系譜を紹介した。

 土山氏は、1960年代~80年代を概観し、自治体が地域の政府としての機能を持つ政策主体へと変わったこと、政策に参加する「市民」層が実体化したことなどを特徴として挙げ、それでもなお、国と自治体の関係においては“上下主従”という感覚が残されたまま、次代に向かったと指摘。「いま自治の萎縮が懸念されるなか、自治というものに対する理解を深め、制度的な変化を経ながら、それを使いこなすということが、私たちの課題として残っている」と締めくくった。

『都市問題』創刊100周年記念シンポジウムの様子③
土山希美枝氏は、1960年代を中心とした時期における社会変動と自治の「革新」の歩みを解説した。

2000年頃(第一次分権改革期)

『分権』から『自治』へ、そして『分権』へ――西尾勝の思想と地方分権改革

 【2000年頃(第一次分権改革期)】については、川手摂氏(後藤・安田記念東京都市研究所主任研究員)が、「『分権』から『自治』へ、そして『分権』へ──西尾勝の思想と地方分権改革」と題して講演を行った。分権改革のキーパーソンである西尾勝氏の思想から「自治」と「分権」の関係を考えるという視点だ。

 西尾氏は、2006年~14年まで、東京市政調査会(後藤・安田記念東京都市研究所)理事長を務めている。川手氏は、こうした西尾氏の略歴や分権改革に身を投じた背景、数々の論考からポイントとなるキーワードを挙げ、その理論の構造を詳解した。

 さらに、いわゆる「西尾私案」(02年)について言及。当時大きなインパクトをもたらした私案だが、この中で掲げられた特例町村制(事務配分特例方式)と下層自治体(内部/包括的団体移行方式)は、「小さな自治の単位を取り戻していくための仕組みとして、20数年経った今、捉え直せるのではないか」とした。

『都市問題』創刊100周年記念シンポジウムの様子④
川手摂氏は、西尾勝氏の理論の足跡を丹念にたどりながら、「自治」と「分権」の関係を考察した。

2000年分権改革を振り返るパネルディスカッション

 シンポジウムの締めくくりとして、基調講演を行った3人によるパネルディスカッションが行われた。司会の伊藤正次氏(東京都立大学法学部教授)が基調講演の各論点を整理したのち、2000年分権改革を振り返り、「自治」と「分権」の現状について意見を交換。川手氏は、「分権は自治のための手段。しかし、そのことは社会全体にとって、当たり前のものになっていたか。分権のための分権になっていたのではないか」とし、“未完”とも言える分権の現状を踏まえ、改めて基礎から分権を考え、コンセンサスを形成する必要性があると力を込めた。

 このほか、人口減少下の地域の行方、提案募集方式、分離と融合の視点、対話と合意形成のあり方など、多岐にわたり議論が行われた。シンポジウム全体を通じて近現代100年の歩みを顧みることで、改めて日本の「自治」と「分権」の今とこれからを考える場となった。

(本誌/西條美津紀) 

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